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部屋に入ってベッドを背にしたいつもの定位置に座り、お気に入りの黒のビーズクッションを抱え込むと、ホッとして全身から力が抜けた。
「なんだよ、深い溜息吐いて」
朋晴が苦笑しながら隣に座る。
慣れ親しんだ気配に、安心感に、涙が滲みそうになる。
「…俺、古賀に好きって叫んだ」
「………は?…叫んだ?」
いきなりの展開に一瞬押し黙った朋晴だったが、叫んだという一言に何故か唖然としている。
まぁ普通に考えたら、叫んで告白する奴は珍しいと思う。
「そしたら、古賀が、なんか訳わかんない事言ったから、逃げてきた」
「訳わかんない事って、なに」
「………古賀も、俺を、好き、とか…」
「…………」
部屋に変な沈黙が落ちた。
それはそうだろう。この微妙な空気の意味は、いくらなんでもわかる。
でも、話さないと先に進めないのだから仕方がない。
そこからは、言葉途切れになりながらも、ここに来るまでの自分の考えを全て話した。
…と言っても、朋晴と付き合おうと思っている事までは、さすがに話していない。
いくらなんでも、朋晴から好きだと言われたとしても、それを受け入れる返事をするのは相当な勇気がいるし、ふっ切ろうと思っているとはいえ、古賀の事を好きだった俺が付き合ってほしいと言ったら、朋晴は嫌な気持ちにならないだろうか。
浮気も二股もするつもりは無いけれど、今この時、朋晴に恋愛感情を持っていない俺が、付き合ってくれ…だなんて事を言ってもいいのだろうか。
ずるいよな…。ある意味、逃げだってわかってる
吉埜は、いざ朋晴を目の前にして、自分の身勝手さに気分が悪くなってきていた。
大切な朋晴だからこそ、恋人になっても付き合っていけると確信してる反面、大切な朋晴だからこそ、簡単に答えを出してはいけないとも思う。それも、今の状態では逃げ先として利用する事になる。
………もうどうすればいいのかわからない…。
何かを考えて黙り込んだ朋晴から視線を逸らし、抱きしめているビーズクッションに顔を埋めた。
「………吉埜」
「…ん?」
「もし、」
朋晴が何かを言いかけたまさにその時。
ピンポーン
三井家の玄関チャイムが静かに鳴り響いた。
2人で顔を見合わせた後、朋晴が「宅急便かな」と呟きながら部屋を出ていった。