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古賀も俺の事を好きだなんて。どういう事なのか。
嬉しくないと言えば嘘だ。
でも、中学時代と違ってせっかく幸せになれそうな古賀の事を考えれば、自分じゃなくて理子と付き合う方がいい。
亜海から聞いた話では、理子は古賀の事が好きらしい。
彼女と付き合った方が絶対にいいんだ。ようやく苛めの対象から抜け出せたのに、またそんな要因を作るなんてダメだ!
それに古賀の想いは、互いの距離が近過ぎた事からくる勘違いに決まってる。絶対に。
そう思ってしまったら、古賀の前にいる事が出来なくなって咄嗟に足が動いてしまった。
出来る限りの速さで昇降口へ向かい、靴に履き替えて校舎を出る。
通学用鞄が教室に置きっぱなしだけど、もういい。
物凄い勢いで走り抜ける吉埜に、下校途中の生徒達がなんだ?という視線を送るが、それすらも気にせずに正門を出た。
…なんで俺も古賀も男なんだろう…。
追いかけてくる古賀の姿が無い事を確認した吉埜は、途中で走るのをやめてゆっくり歩きだした。
この1時間少々の間に起きた嵐のような出来事。
告げるつもりはなかった想い。
告げられた想い。
いまだに、さっきの事が現実にあった出来事だと信じられないでいる。
もう、ぐちゃぐちゃだ…。
ぼんやりと歩いていた吉埜の足は、自分の家を通り抜けて隣の三井家へ入った。
こんな時に部屋に一人でいたくない。
それに、朋晴と付き合うと決めたんだ。
また訳がわからなくなる前に、朋晴に告げないと。
俺達が付き合えば、きっと何もかもが丸くおさまって、みんなが幸せになれる。
朋晴なら、俺は間違いなく好きになれる。
「朋晴、いる?」
三井家の玄関の鍵は開いていたから、誰かがいるはずだと、吉埜はいつものように中に入った。
おじさんもおばさんも働いてるから、いるなら朋晴だ。
勝手知ったる三井家の階段を上がっていくと、ちょうど部屋から朋晴が顔を出した。
「おかえり」
「ただいま」
こんな何気ないやりとりに、ささくれ立っていた心が落ち着いてくのがわかる。