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吉埜の驚くべき発言に、一気に駆け上がった古賀の感情は、一気に急降下した。
好きだと言ったその口で、今度は朋晴と付き合うと言う。藤川との事を応援するとまで言った。
古賀の頭の中で、混乱と焦燥と苛立ちともどかしさが混じり合い、それが激情へと変わる。
何かを言いたいのに、その塊が大き過ぎて、喉の奥に詰まって言葉が出てこない。
焼き切れた理性の糸と噴き出した感情が、古賀の身体を衝き動かした。
「……古…賀…?……ッぅ!?」
目の前の腕を勢いのままに掴んで引き寄せ、その華奢な身体を抱きこむ。
驚愕に固まる吉埜の後頭部を抑え込んで、柔らかな唇に自分のそれを押しあてた。
突然の事に、吉埜は抵抗も出来ず茫然と固まる事しか出来ない。
古賀がいったい何を考えているのか、どういうつもりでこんな事をするのか。意味がわからない。
切なくて苦しくてたまらない。
混乱してグチャグチャな状態で受ける意味のない口付けに、吉埜の瞳から涙が零れ落ちる。
どうして、どうして、どうして…。
そして、咄嗟の行動から少しだけ落ち着きを取り戻した古賀は、ゆっくりと唇を離した。
それと同時に、間近で見る吉埜の涙に気が付くとハッと我に返り、戸惑いながらもさっきとは裏腹の柔らかい力で腕を解く。
「…藤川さんは、友達だよ。僕が好きなのは、渡来君なんだ…」
「………な…にを…」
唇の次は告白。
次々に降り積もる出来事に、吉埜の思考回路は見事に固まった。
涙で濡れた目を瞬かせながら古賀を見つめるその顔にはハッキリと、「意味がわからない」と書いてある。
そして次の瞬間、吉埜はいきなり走りだし、古賀の横をすり抜けて準備室を飛び出した。
「…ッ…渡来君?!」
何がなんだかわからずに混乱したのは、古賀の方も…だった。
まさか、このタイミングで逃げ出されるとは。
吉埜は、そんな古賀を置き去りにして、限界の限りの力を振り絞って廊下を駆け抜けた。