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「…なんで…、ここまで僕の事を避けるのか、聞いてもいい?」
シン…とした静寂の中で、今まで聞いた事がないような硬質的な古賀の声が、空気を震わせた。
途端に、吉埜の中に苛立ちが湧き起こる。
最初に距離を置き始めたのは古賀の方だ。それなのに…。
「………古賀だって、俺を避けてるだろ」
「………」
吉埜の一言に、古賀は口を閉じた。
どことなく気まずそうな様子に、吉埜の中の苛立ちが増す。
何故ここまで苛立つのか、もう自分でも何がなんだかわからない。
もしこれで、またいつものように穏やかに受け流されてしまったら…。
そう考えると、いてもたってもいられなくなった。
なんとしてでも、古賀の感情を荒立たせたくなった。
簡単に受け流す事ができないほど、困ってしまえばいい!
「…なんで俺がお前を避けるのか。それは…、……俺が…」
「………」
「俺が、恋愛対象として古賀の事を好きだからだよ!」
「………え?」
案の定、古賀の顔に驚愕の色が広がった。見開いた双眸で吉埜の事を凝視する。
その表情を見た吉埜は、口元に自嘲の笑みを浮かべた。
「男に惚れられるなんて、気持ち悪いだろ?だから、…避けてたんだよ」
「渡来君、僕は…」
もうどうにでもなれ。
そんな気持ちで自棄になったように言う吉埜に、古賀は焦ってしまって言葉が出ない。
まさか吉埜が自分を好きになってくれるだなんて思ってもいなかった古賀は、これは夢なんじゃないかと、気が遠くなりそうな驚きの中にいた。
…だって、これではまるで両想いではないか。
古賀は、『両想い』という単語が頭に浮かんだ瞬間、一気に血が上ってくるのを感じた。きっと顔は真っ赤になっているだろう。
それに、気持ち悪いだなんて…、何か誤解をされている。
「渡来君、違う。…僕も渡来君の事が、」
「でも、この前、朋晴から好きだって告白された。…俺、朋晴と付き合おうかと思ってる」
「………え?」
「…お前に気持ち悪いとか思われたくないし、できるだけ近づかないようにするから、お前もこんな俺に近づかなくていいよ。…藤川との事、応援してるから」
「………」