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固まった吉埜は、一瞬だけ心臓が縮む様な思いを味わったが、すぐにそれを振り払った。
「真顔で冗談言ってんなよ、朋晴くん」
「気付いてないふりしてるけど、本当は自分だってわかってんだろ?」
「………」
今度こそ、吉埜は口を閉じた。
“古賀に惚れてる”
………そう。本当はもうわかっていた。古賀をそういう意味で好きなのだと…。
けれど、認められなかった。
………認めるわけには、いかなかった。
だって、古賀には藤川がいる。
それ以上に、男同士の恋愛なんて気持ち悪がられるに決まってる。
せっかく中学時代のイジメから脱して、楽しい高校生活を送れるようになった古賀を、またどん底に突き落とすだろうこんな気持ちを、持つべきではない。
吉埜は、ギュッと目を閉じて項垂れた。
もう、どうすればいいのかわからない。
そんな吉埜の頭に、温かな重みが乗せられた。朋晴の手の平だ。
ポンポンと宥めるように動く手に勇気づけられて顔を上げると、正面に片膝を着いて座り込んだ朋晴と目が合った。
その力強い双眸が、光を宿す。
「………?」
「俺は吉埜が好きだ。もう何年も前から、お前に恋愛感情を持ってる」
冗談とするには真摯過ぎる眼差しに、吉埜は息を飲んで固まった。
「生まれた時から一緒にいる俺の方が、絶対にお前を幸せにできる。…言うつもりはなかったけど、吉埜が男相手でも恋愛対象に見られるなら、古賀じゃなくて俺を見ろよ」
「………朋晴…」
嘘だろ?と呟いた吉埜の目の前で、朋晴はゆっくりと首を横に振った。
嘘でもなく、冗談でもない。本当の事だ、…と。
「だって、中学の時、お前彼女いたよな」
「あぁ。俺に好きな相手がいてもいいって言うから付き合ってただけだ」
「…………」
そういえば、付き合った人数は多かったけれど、付き合う期間はかなり短かった気がする。
熱しやすく冷めやす過ぎ。
そんな風に揶揄った事があった。
でも、本当はそうじゃなかった。
いきなり知らされた事実に、朋晴の想いに、吉埜は混乱から抜け出せない。
驚き過ぎて、何かが麻痺してしまったような感覚が全身を覆う。
だって、兄弟とも呼べるくらいに身近に思っていた幼馴染が、俺のことを恋愛感情で好き?
女子にモテる男=朋晴、という図式が当然のように出来るくらいモテている朋晴が、男の俺を好きだなんて…。
そんな混乱の中でふと思ったのは、(朋晴の言う通り、朋晴と付き合ったらきっと俺は幸せなんだろうな…)という、綺麗にストンと収まるだろう考えだった。
古賀には理子がいるし、そもそも普通に考えれば、同性に恋愛感情なんて持つなんて事は稀で、古賀が自分を好きになるなんてありえない。
朋晴とはお互いにほとんどの事がわかりあえているし、付き合っていけば恋愛感情で好きになれるだろう。
今だって大切な存在で、人生のかなりの時間を共有している、とても大事で大きな存在。
………でも…今俺の感情は古賀に向いていて…、朋晴をそういう意味で好きではない。
…どうしたらいいんだ…。
とにかくいきなりの事ばかりでグルグルと思い悩む吉埜に、朋晴は一言、
「焦らなくていいから、俺との事考えてみて」
そう言って、いつもの笑顔を見せた。