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吉埜は、やっぱり今日の昼休みも隣のクラスに行っていたらしい古賀が戻ってきたのを見て、表情を硬くした。

けっして、自分が嫌われているわけではないと思う。けれど、なぜか避けられているのも事実。


他の人と仲良くしている古賀の姿に、安堵する気持ちがあるのも確かだけど、最近では、それを嫌だとも感じている自分がいる。

友達に対して独占欲を抱くとは思っていなかった。

こんな気持ち、朋晴にだって感じたことないのに。


…たぶん、子が一人立ちする時の親の気持ちなんだ、これは。


そう自分に言い聞かせた吉埜は、次の授業の準備をしている古賀に話しかけた。


「古賀、最近藤川とイイ感じだな。付き合ってるなんて噂も出るくらいだし。…実際のとこはどうなんだよ。付き合うなら、せめて俺と亜海には報告しろよ?」


机に頬杖を着いて、ニヤリと揶揄混じりの笑みを向ける。


「…藤川さんとは、付き合ってないよ。………僕の事より、渡来君の方こそ、梁川さんと仲良いよね」

「え?亜海?…いやいや、アイツはそういうんじゃないから」


まさか亜海との事を言われると思っていなかった吉埜は、頬杖を外して顔を上げ、慌てて片手を振った。

それに対して古賀の反応は、微かに笑むだけだった。


話したくないという拒絶のオーラを身にまとい、また前に向き直ってしまう古賀に、吉埜はもう何も言う事が出来なかった。









その日を境に、2人の距離は明らかに変わってしまった。


今まであんなに一緒にいた吉埜と古賀が、ほとんどの時間を別行動で過ごすようになってしまった。


それまで吉埜と距離を置こうとしていた古賀はともかく、吉埜まで古賀を避けるようになってしまえば、もう2人に接点はなくなる。


吉埜は、自分とは距離を置こうとするのに理子とは仲良くする古賀に対して次第に苦しさを覚え、そして、毎日のように古賀に告白しに来る女子達の存在にも苦しさを感じるようになっていた。


古賀も距離を置こうとしているから、これでいいんだ。俺も古賀と距離を置けば、こんな訳のわからない苦しさからは逃れられるだろう…。


そう考えて、古賀以外の人間との距離を縮める事に決めた吉埜は、それまでは特別親しくしているわけではなかった他のクラスメイト達の輪にも、自ら進んで入るようになった。

もちろん彼らは心から歓迎した。

明るくて面倒見の良い吉埜が仲間に加わるなんて、楽しくなるに決まっているのだから。


そして古賀は、距離ができ始めた吉埜との関係に、きっとこれで時間がたてば仲の良い普通の友達になれるだろう…と内心で安堵していた。

少し距離を置けば、きっと普通に戻れる。

この感情が冷めきれば、きっと中学の時みたいに温かい気持ちで接する事が出来る。


……そう…、思っていた…。


そんな考えが甘かったのだと知るのは、すぐだった。


あからさまに自分を避ける吉埜。時々に帰りに迎えに来る朋晴とじゃれあう吉埜。

自分以外のクラスメイトと仲良くする吉埜。まるで付き合っているかのように亜海と肩を寄せ合って笑いあう吉埜。


…苦しさが、抑えきれない。


距離を置けば普通に戻れるはずだったのに、何故か想いは募る一方。

古賀は、もう自分の感情が誤魔化せないところまで来ているのを自覚した。


好きで好きでたまらない。


あの無邪気で勝気な笑顔を自分だけに向けてほしい。…だなんて、なんという利己的で傲慢な考え。

そんな事を思ってしまう己の醜さに、泣きたくなった。

恋とは、かくも苦しいものなのか。

古賀は、生まれて初めて、自分自身で制御できないほどの強い感情というものを知った。







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