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渡来君は、場所が変わっても、周りにいる人間が違っても、とにかくどんな時でも皆に好かれる。
自分の外見の良さなんてまったく気にしない天真爛漫さ。困った人がいれば躊躇なく助ける優しさと、誰とでも親しくなれる屈託の無さ。
…そんな渡来君と自分とでは、つり合いなんか取れない…。
昼休み。古賀は、目の前に理子がいる事も忘れて思考の海に飛び込んだかと思えば、数秒ごとに溜息を吐きだした。
吉埜を見ていると、昔はもっと温かな気持ちになれた。それなのに、いつの頃からか…、一緒にいると苦しくなる一方だ。
吉埜に真剣に告白する女子達。仲良くなろうとする男子達。
その中でも亜海は別格で仲が良く、朋晴の存在は更にその上を行く。
自分が隣にいてもいいのか…。彼の周りには、もっと彼に似合う人がたくさんいるのに…。
中学の太っていた時と比べれば、今は随分と人並みの容姿になれたと思う。こんな自分に告白してくれる子さえいる。
でも、僕の場合はまやかしだ。いくら外見を整えても、それは即席の張りぼてにしか過ぎない。
古賀は、本来の性質が優し過ぎる事もあって、自分を高く評価する事が出来ないでいた。
今や、学校内での注目度100%の存在。
成績優秀で運動神経も良く、モデルのような容姿を持っている。
それなのに奢ることなく控えめで優しい。
そんな人間が好かれないはずはない。
ただ、その事に本人だけが気付かないでいた。
理子は、目の前の席に横向きで座っている古賀を見ると、少しだけ首を傾げた。
「古賀君」
「え?」
「そんなに溜息ばかり吐いていると、幸せが逃げてしまいますよ?」
ふわりと微笑む理子の天使のような柔らかい空気に、絡まりまくった古賀の心がフワッと解ける。
「ごめんね。少しボーっとしてた」
「考え事ですか?」
「…うん。ちょっと」
古賀は、元気が良くてテンションの高い同年代の女子が物凄く苦手だった。どうしていいのかわからなくなる。
けれど、理子は違う。
一緒にいて物凄く落ち着くし、心が安らぐ。
こんな女の子に出会ったのは初めてだ。
逆に、吉埜といると荒立つ感情が苦しい。
他の人間と親しくしているのを見るだけで、心がギュッと締め付けられる。
こういうのを独占欲というのだろうか。
これ以上近くにいたら、きっといつか耐えられなくなる。
息がつけなくなるようなこの苦しい思いが何からくる感情なのか、怖くて考えたくなかった。
認めたら、もっと苦しくなるのがわかっているから。
それなら、彼とは一定の距離を置いた方がいい。こうやって彼以外の人といる方が、心が休まる。
それに、自分のこんな感情を彼に知られたら、きっと気持ち悪がられてしまうだろう。
それがいちばん怖い。
…だから…、これでいいんだ…。
昼休みがもうすぐ終わる事を告げる予鈴のチャイムが聞こえると、これから吉埜の隣の席に着かなければいけない事を思って、古賀は静かに俯いた。