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今期新入生の中で注目株とされているこの4人。二週間もすると、それは形となって表れた。
「古賀、女子が呼んでるぞー」
「あらら。古賀ちゃんてばまたお呼び出し?モテる男は大変ね~」
「亜海、古賀の事からかってんなよ。困ってんだろ」
「あ、大丈夫だよ、渡来君。…じゃ、ちょっと行ってくるね」
困ったような辛そうな儚い表情を浮かべた古賀は、それでも穏やかな物腰で廊下へ出て行った。
一日一告白。そんな標語が出来る勢いで女子に告白されまくっている古賀。
亜海に聞けば、どうやら理子も同じような状態らしい。
「吉埜もかなりモテてるけど、古賀ちゃんは更に凄いよね。なんで彼女がいないのか不思議だわ」
「古賀は外見も中身も良いからモテて当たり前だろ」
2人がそんな会話をしていると、近くにいたクラスメイトがいきなり吉埜の頭をグシャグシャにかき混ぜてきた。
「うわっ、バ加藤!何すんだよ!」
「なんかお前らがモテ過ぎてムカついたから八つ当たり」
加藤のそんなセリフが教室中に響き渡り、その場にいた全員が爆笑した。
「加藤寂しい事言ってんなよ!」
「あー!でも加藤の気持ちわかる!羨ましい!」
そんなやりとりに、いつの間にか吉埜も爆笑する。
このクラスは本当に楽しい奴らばかり。大好きだ。
その内に、お前は好きな奴いるわけ?とか、先輩にカッコイイ人がいるんだよ!とか、教室中で恋愛話に花が咲きだす。
誰かが片想いだと言えば、みんなが応援し、誰かが振られたと言えば、みんなで励ます。
中学の時と比べると、なんて暖かいクラスなんだろう。
席が前後になっている亜海と一緒に、そんなみんなを眺めてヘラヘラ笑っていると、さっき出て行った古賀が戻って来た。
「お帰り~」
亜海が片手を振ると、古賀は「ただいま」と微笑む。
「ねぇねぇ、今日の子はどうしたの?とうとう付き合う事に決めた?」
あっけらかんと聞く亜海に、さすがの古賀も苦笑いしながら首を左右に振った。
「断ったよ。…僕は…、好きでもない人と付き合えないから」
「古賀ちゃんってなんでも受け入れてるように見えるけど、実はしっかり自分を持ってるよね。そういうとこカッコイイよ!」
ニコニコと笑いながら言った亜海は、次の瞬間、廊下から誰かに呼ばれて飛び跳ねるように出て行ってしまった。
まるで小鹿のようだ。
そんな彼女を見送った吉埜は、右隣の席についた古賀を見つめて、なんとなく呟いた。
「中学の時と違って、高校のみんなは古賀の良いところを見てくれてるよな。こうやって隔てなく仲良く出来るのって、やっぱりいいよ」
吉埜は、古賀がみんなと仲良く出来ている事が本当に嬉しくて仕方がない。
中学の時の、あんな理不尽な思いは二度としてほしくないと思っている。
古賀にもっとたくさん友達が出来て、気がねなくワイワイ騒げるといい。
そんな思いで呟いた言葉だったが、何故か古賀は曖昧に微笑むだけだった。
「…楽しく…ないのか?」
「楽しいよ」
「じゃあなんでそんな複雑そうな顔してんだよ」
「……うん」
やっぱり困ったように笑う古賀に、吉埜は首を傾げる事しかできなかった。