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隣にいた亜海に腕をグイグイ引かれて正面を向いた吉埜は、正門の柱に寄り掛かって携帯を弄っている他校の男子を見つけた。
古賀とほとんど変わらない長身と、男らしく端正な顔立ち。相変わらず茶色にしている髪がよく似合っている。
近くの高校に通う吉埜の幼馴染、三井朋晴だ。
正門を抜ける女子生徒達が、朋晴を見てキャイキャイ騒いでいる。亜海の瞳も好奇心でいっぱいだ。
「彼女待ってんのかな?どんな子なんだろ、やっぱり可愛い子なんだろうな~」
「あいつだよ」
「何が?」
「さっき話した、モテる幼馴染」
「………ぇえ?!嘘ぉ~っ!」
うん、まぁ、驚いたのは亜海だけじゃない。意味合いは違うが、表面に出さないけれど吉埜もじゅうぶん驚いていた。
なんで朋晴がここにいるんだ?
正門前に辿り着いた吉埜が「朋晴。何してんの」と話しかけると、そこでようやく気がついたらしく、弄っていた携帯からこっちに視線を移した朋晴が目を瞬かせた。
「あれ?…いや、今お前にメール打ってたんだよ。うちの学校早く終わったし、一緒に帰ろうと思って」
「あ、じゃあ待ってたのって彼女さんじゃなくて吉埜の事なんだ。…うーん…、確かに可愛いけど…」
「…亜海…、お前な…」
吉埜はもうツッコミを入れる気力もなかった
後ろを振り返ると、理子は楽しそうにそんな様子を眺めていて、古賀は少々戸惑ったように吉埜を見ていた。
一瞬どうしようかと悩んだが、亜海もいる事だし大丈夫だろうと結論付けると、古賀と亜海、そして最後に理子に向かってニッコリ笑いかけた。
「亜海も藤川も、古賀の事頼むな。俺、せっかく来てくれたし、朋晴と帰るからさ」
「了解!古賀君の事は任せて!」
「はい。また明日」
「………うん」
亜海は元気よく、理子は品良く微笑んだ。ただ、古賀だけが、どことなく暗い。
「古賀?」
吉埜が顔を覗き込むと、「なんでもないよ」といつものようにふんわりと笑ったが、少しだけ苦しそうに見えたのは気のせいか…。
気にはなったものの、朋晴が待ってくれている事もあって、吉埜は3人に手を振って歩き出した。
吉埜が歩き出すと、その隣に並んで遠慮なく肩に腕を置く朋晴。
「…重い…」
ジロリと横目で見つつ非難の声を上げる吉埜だったが、それは親しいからこそのやりとり。
古賀は、相変わらず仲のよい二人の後ろ姿を見送ると、それがまるで癖になっているかのように小さく溜息を吐いた。