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第1話

花火大会の末、ウィッチの正体を知った

天体観測の末、ウィッチの痛みを知った


生涯最高の旅路の果て、望んでいた現実とは違う方向へ、世界は変わった


答えも基準もない、理解する事も困難な飢えた真実は、最終戦を迎えようとしている



社会の壁に打ちのめされ、弾かれるように散ったあの日から数日


真夏に起こした二週間の奇跡のその後


僅かに歪んだ内側を除いた大変素晴らしい世界で、何も知らないその他と同様


身をもって全てを知った皆もまた

すっかり大人しく、タイムリミットもない当然の日常に戻っていたのだった


selling dayという名の、作戦という名目の


共有と対カルマの部活動も消えて――



-9月25日-(木)-


停学期間終了日 27日(土)当日まで、今日を入れて残り二日になった


お昼前に起きると、外は梅雨のような雨が降っていた


じめっとした湿気を街に与え、洗い流すというよりは汚しているような灰色の雨だった


当分は止みそうにないそれを窓から見つめ、寝すぎの気だるさに一人ベッドから起きる


「……長いなぁ 」

十日というのは、何もしない人間にはこんなにも長いものなのだろうか


朝起きる必要もなく、退屈で仕方がない、ずる休みしたような気分だった


今ごろ、他の生徒は当たり前に授業を受けているはず


皆は家でどうしているのだろう


そんなことをまた頭にボーッと浮かべて、部屋着のまま携帯だけをポケットにしまう

部屋の扉を開け、一階に降りる


すでにおにぃの姿はなくなっていた


お昼だというのに、分厚い曇のせいでリビングはどんより薄暗い


電気をつけ、空腹感もなく、ただテレビをつける


平日のお昼に見たいものなどない

ニュースもウィッチの話題はすっかり消え去っていた


「……はぁ 」

家にあったDVDも、ゲームも、パソコンでの動画鑑賞もさすがに飽きてしまった


携帯と睨めっこか、おにぃの部屋の漫画を漁るか、BUMPのアルバムを聞く事くらいしか有り余る時間を潰す方法はなかった


冷蔵庫の中のプリンを食べた後、私はまた部屋に戻った


懲りもせず降り続く雨音だけが響く暗い部屋


苦い空気を薄く吸い、ベッドの隅っこに丸まって座り、窓一枚越しにかりそめの平和な世界を覗く


iPodのイヤホンを両耳にはめて、物思いにふける


(今頃ハルはどうしてるのかなぁ )


考える事はまたそれだ

もういい加減忘れないといけないのに


どうしたって、考える事はそれだ

二週間の青春の呆気ない結末だ


――あれが本当の終わり、あれは中途半端などではない

――私達は夢を叶えたし、やれるだけやった


何度もそうやって未練がまし感情を封じ込める


「……ハル 」

携帯を握りしめ、水槽のような窓から遠い空を見上げると、またあの日の衝動が目を覚ますようにうずく


携帯を開き、何の気なしに灯のアドレス宛にメールを作成した


-本文-

「灯 元気ー? 今日は雨だね


…関係ないんだけど、変な意味じゃないんだけど


なんていうか、本当に、このまま終わっていいのかな? いいと思う?


急にいきなり変なこと、ごめん またね 」


………


成り行きで書いたはいいものの、送信するのに十分以上悩んでしまった


やっとの末、何回も読み返して、ようやく私は灯に送信した


しばらくして、携帯がバイブで鳴った


開くと、灯からメールが届いていた



-本文-

「雨さねー 秋ってカエルいんのかな?


やれるもんならやりたいけど、残念だけど終わったんさよ、あたしらは 」


上下の内容になんとも格差を感じながら、灯からの文章を読んだ



(……終わった、やっぱり、そうだよね 当たり前だよね)


でも‘やりたいけど’という言葉に、少なからず灯もつっかかりを残しているようだった


少しだけその文章にやりきれない冷たさを感じた


「……… 」


それ以上の返信は送らず、私は無気力に携帯を辺りに放り投げた


「……ライブかぁ 」

あれだけ楽しみにしていたライブなのに、今すぐにでも行きたいという気持ちはなぜか薄れてしまっている自分がいた


続けて、次はひよりにメールをした

解答は、灯と同じだった


有珠にもメールをした


これまた返信は同じだった


結果、送る前より虚しくなっただけだった


抜け殻のような妙に寂しい気持ちを増しただけだった


予定のない空白の午後に、何の密度もない時間は進む


夢の後と呼べるのか怪しい感情は

ひたすらゆっくりと、雨模様の隅っこで流れていくのだった


………


明日の予定も、とくにない



***


-9月26日-(金)-


正午過ぎ、今日も起きると雨が降っていた


昨日と同じ類いの、どんよりじっとりした雨だった


沈んだ街並みを窓から見て、またため息がこぼれる


少しだけ風邪っぽかった


リビングにあったあんパンだけを取って、また電気も点けずに部屋に引き籠もった



………


長い長い停学の間で、徐々に私の中で、行ってはいけない選択へ進む方向に変わりかけていた


日常の延長にライブに行くか


日常を捨て、ハルを助けるか


社会的に一度犯した過ち、家族や関係のない人まで巻き込んだ大事件をまたするのか


もうアマリリスの能力も私にはないんだぞ?


見つかれば、それこそ今度はきっと退学になるんだぞ?


(ねぇ……どうすればいい? 灯)


真剣な面持ちで、懲りずに私はまた灯に昨日のようなメールを送った


少しだけ意志を前に出した文章を


-本文-

「灯、やっぱり私はこのままの気持ちでライブに行くのは、なんか嫌だな


ハルを助けたいって、思うことは本当に間違いなのかな? 」



きっかけや、先導や、後押しや、きっとそういう気持ちが欲しかった


自分は正しいと、一歩進み出す決断がしたかったんだ



けれど、そのメールの返信は、何分何時間経っても返ってくることはなかった


数え出してからいくつめかわからない、雨粒が垂れる窓を見つめながら携帯を握りしめていた


震動が来るのを待ち望んでいた


…しかし、携帯が震えることは二度となかった



ひよりと有珠にも、奏にまで躊躇しながらも送ってみた


なぜなんだろう、二人からも、奏まで、まるで無視するようにメールが返ってくることはなかった


(……… )


やっぱり呆れられちゃったのかな

往生際が悪いって、うっとうしかったのかな


そう思われちゃったのかな


………


(…それが、皆からの宣告なのかな )


だめな事、やっぱりこの選択はいけない事


ハルは切り捨てろ、見捨てなくちゃいけないって、そういう事なのかな

私の考えは所詮はおせっかいの、でしゃばりなのかな


その瞬間、皆が、ずっと遠くに行ってしまった気がした……



――そうして、夢と現実の狭間で悩み苦しむ葛藤の中で


停学は、ついに最後の一日を迎えるのだった――



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