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第12話

寄せあったノートに目を通し、数々の単語を見て協議する


ひよりは押収されたウィザードを諦めず、尚も底上げする方法や


有珠は素性の見つかったスイミーをどうにか使えないか調べていた


奏はなぜか塗料やアートの教本


しかし全員が共通して読んでいたものは、大小革命的変革を記した本だった


「ひよりはウィザードは使えるんさ? 」

全員でノートに書かれたあの手この手を囲みながら、その中心に座る灯が口を開いた


「明日中に新しいUSBカードに即席で最低限組み込みます


ですが、前のように一年かけて作り上げたウィザードのようにはさすがに使えません

恐らく街の停電等の大きな事は不可能です、きっと見つかってもしまいます


それでも、なんとか少しくらいは使えるくらいにはしてみせます 」


「じゃあ、具体的に監視カメラを止めたり、パソコンを覗く事くらいは?? 」


「場所にもよりますが、民間の場所で短い時間なら可能だと思います 」


「わかった、アリガト 」


すると、灯は自分の前に置かれた、あの作戦ノートに新しいツールとして書き込んだ


「有珠? まだスイミーと、それからギターは弾ける? 」


「スイミーはこのままじゃ使えないですけど、変装の本を読んで‘逆転の発想’で思いつきましたです

見つかっちゃった、皆とは違うこの見た目の有珠だから出来る、一度きりのもう一つ新しいスタイルのスイミーがありますです 」


出会ったころの人前に出るのが怖かった、どこか病んでいた弱々しい幼い女の子はすっかり消え

揺るぎない自信を見せて、有珠は嬉しそうに笑ってみせた


「ギターは、どこでも弾けるですよ むしろ弾けるなら、路上ライブしたいくらいなのです 」


すると、思わず灯の唇の端がニヤリと引き上がった


リーダーのノートが彩りを増し、止まっていた何かが動き始める


「なぁ奏、明後日までに新しい有珠のスイミーに必要なもの、ネットで揃えられるか? 制服フェチさん 」


「……コクリッ…任せて…」


奏は無表情で、けれどもしっかり頷いた


徐々にピースが形作られていく


閉館時間までもう残り三十分だ、急がないと


「では、どこにいるか分からないハル君を助ける方法ですが 」


「居場所が分からなくも、直接会うには、ゆりなら出来るよね? 」


「ぇ…と 私?」

いきなり振られてきょとんと驚いてしまった


「ゆりを中心に動いた、今までの経験と作戦を思い出してみ? 」


その灯の言葉に頭がめぐり、一ヶ月の日々を辿る、そしてとっさにハッとする


あるじゃないか、街中に私だけの、一ヶ月の末に積み上げた私にしかないハルとの繋がりが


「そっかっ‘携帯探せて安心サービス!’」


‘美弦のメールアドレス’


「おうっ、あたしらが知ったあいつのカルマだ、絶対ハルは弟の携帯を持ってくだろう 」


この一ヶ月動き回った事は確かに無駄なんかじゃなかった


私達は、幾つもの挫折の中でちゃんと成長していた


誰もが糸口が見えたと確信した


…そのときだった


「ダメですね 」


おもむろに、呟いた少女


「ひより?、なんでだめなんだ? 」


「それはですね、あれは前のは動かない物、つまり停車中の車だったから偶然可能だったんですよ 」


「?どういう事? 」


苦い表情でひよりは淡々と続けた


「本来民間のこのサービスはGPSの特定までに時間がかかり、数メートルとかなりの誤差が生じるものです

動いている対象物の正確な現在地を追跡する事に使うのは非常に困難です


それに恐らくハル君は駅前等、携帯の電波が強く正確に分かる位置にいない事は充分と考えられます

ビルや障害物などに反射してしまい…リスクが高過ぎます 」


「…ほにゃぁ、いいと思ったのです 」

有珠がシャーペンを握ったままシュンと眉を垂らす


「……ボクは……諦めない…」


(―?? )


ボツへ潰れかけた案を、そこで新しい能力が懸命に支えようとしていた


「奏?? 」

「奏ちゃん? 」


「……夜の街なら、誰より隅々まで…知ってる…」


奏のトラウマだけだった日常が、時の経験となり甦る

今まで引きこもりの高校生が制服を着て徘徊していた、ひどく辛かった経験が、ここで主の今を支えるカルマの才能へと変化していく


「…誤差くらい…いりくんだ裏道くらい…全部ボクが把握出来てる…」


奏は強く言い放った、踏みとどまった


「奏アリガトさ、でもやっぱりこんなんじゃ、会えても…前の繰り返し、肝心の救う方法はないと思う

なんか、もっとでかくないと、どんでん返しがないとだめなんだと思う 」


「……… 」


「でも、必ず奏のその力を使うときが来るさよ 絶対だ」


「……うむ 」


灯が冷静に語り、結局この案は振り出しに戻ってしまった


「ねぇ、だったら、ここで使おうよ‘みどり団’」


内向きになる隙を与えず、今度は私が声を張り上げた


近づいてる、今一番勝つ方法へ近づいてるんだ


絶対にこの波を途切れさせない――


「みどり団か、どう使うかさね、ハルを助ける為に」


ボールペンをくるっと回して、イスを後ろに引いて灯が難しい表情を作る


僅かな沈黙が流れ、それぞれノートを見る表情が険しく曇る


(どう助けるか、どんでん返し…)


何か手はないのか、何か打つ手立てはないのか


逆境を打破する、可能性を呼び起こす何かだ


(何か……絶対にあるはずだ )


五分ほど経った


膠着状態に溺れかけたそこで、ついに難題を潜り抜けたのは


根暗少女だった


次の瞬間


「――っ! そういえば…!」


(ビク…ッ )


いきなり何かひらめいたように、解き放れたように、大きく大気を揺らしてまたもひよりが本をめくり出した


「ど、どうしたの?? 」


らしくない行動に、私達は食い入るように凝視してしまう


そしてその本は、ひよりの持ってきた、世界の革命が記された書物だった


「こ、これなら…!、みどり団を使うなら、みどり団じゃなきゃ出来ないと思うんですがッ 」


僅かに眼鏡をずらして、ひよりは自身のノートにシャッシャと書きつづって見せた


皆でそのノートを前屈みになって見つめる


「た、確かに実現したら使えそうだけど、凄いけど…でも待って

ひより? これに使う道具なんて明後日までに用意出来るの? 」


見たそれはとてつもなく大規模できっとハルも救う事が出来て


けれども実現するには


…とても明日までには用意出来るはずがなかった


「……申し訳ありません、そこまで考えていませんでした

ゆりちゃんのおっしゃる通り、確かにこれは現実的に無理ですよね…」


はぁと気を落として、今まで一番期待出来た策も、ことごとくタイムリミットの前に破れる


(…明後日までになんて…不可能なのかな…)


「――いや 」


そんなとき、全員が現実色に顔を俯ける中で


‘一人’だけが鋭い声で勝機へ照準を定めていた


伏せた顔を上げ、目に飛び込んできたのは

静まり返っていた隣のリーダーのが、凛とした声と射抜く視線だった


(あか…り? )


「灯ちゃん…? 」


「不可能なんかじゃないよ、だってまだ一日もあるじゃんか

今までの経験、最低限のウィザード、有珠のギター 」


傷ついた才能は再起し、身震いするほどの静寂をまとって小さな息がしぶきを上げた


「で、でも灯? もう明後日だよ? さすがの私達でも…」


「‘あたしを誰だと思ってる?’」


「…ぇ 」


わからない、力強くこちらを見つめた黒目が私の胸を震わせた

並々ならぬ気迫めいたものに鳥肌が立った


「ひより、あたしに任せてくれっ、出来る、これなら出来る、絶対繋げてみせるッ 」


ついに、策士の頭脳が覚醒する


(…何かひらめいたんだね、灯 )


――来た、やっと来た、恐れなく不敵な笑みを浮かべるこれだ


あのいつもの‘灯’だ


灯はいきなりヘッドホンをパチンと頭にかけ、大音量のBUMPのメロディをだだ漏れに耳に被せた


頭脳と平行しているとは思えない速度でスラスラとページが埋まっていく


一夜でハルを助ける手段、みどり団の役割

居場所の分からないハルを桐島さんから導く手段


新しい奏をキーマンに、そして、ウィザードとスイミーの新しい力を組み込ませていく


――憂さなんてすっかり忘れて、目の前に広がるご馳走に興奮を隠せず、灯は腰を上げて異常なまでに感情を高ぶらせ、加速させた


「すみません、もう閉館時間なので そろそろ――」


そのとき、チャイムの音と共に迷惑そうに職員の女性の声が通った


「す、すいません、すぐに帰りますです、あと五分だけお願いしますっ 」

なんと、真っ先に声を出したのはあの人見知りの有珠だった


小さな身体でピシリと背筋を張って時間稼ぎに粘る


せっかく策士の案が一線に繋がったんだ、あと少しなんだ


「――はぁ、はぁ…ッ! 」

瞬きも忘れ、ペンを持つ右腕の小指側を擦って真っ黒にしながら


ガリガリザクザクとページが満たされ、幾つもの立ちはだかる壁をひっくり返していく


私達四人は、すぐに帰れるように山積みにした本を元にあった場所へ戻していった


「ゆり、…ちょっといいか 」


その際、研ぎ澄まされた眼差しはノートを捉えたまま、灯は小さく言った


「なに? 」


「本棚から‘精霊流し(しょうりょうながし)’の記述が書かれた本持ってきてくれ 」


そんな夏に使う物をどこで使うのか、それとも別に必要なのか


私には分からなかったけれど、とにかく灯が求めている物を走って取りに行った


いつもそうだった、私達じゃ到底思いつかない事を、灯は大胆かつ瞬発的に考えれくれる


そして、最後には勝たせてくれる


埃臭い奥の棚に行き、それらしき本を手に取り、たった一人残した勉強机に走って戻る


「これしかなかったけど 」


「いや、充分さよ、ありがとう 」

久しく誰も触れていなかったでだろう、時を経て茶色くくすんだ薄い本を私は灯に委ねた


すると、矢のような勢いでみるみる一世一代の大作戦が紡がれていった


………


そして、業を煮やして困り果てた職員が二度目の声をかけようとしたときだった


私達は、出会った


「はぁ、はぁ…  出来た…! 出来たぞみんなッ! 」


髪をぐしゃぐしゃにして、ありったけに右手を灰色に汚して


八時六分、私達の結晶、全てを飲み込む最後の勝利の方程式が完成した


「灯、最後の名前を教えて? 」

「ワクワクするですっ 」


「本当に、あれを明後日までに出来るのでしょうか 」


「……… 」


「行くぞ、これで最後にする、作戦名… 作戦名ッ! 」


―――


一歩踏み出すということは、踏み外すことと酷く似ていて

憂鬱に価値を失って、途中で逃げ出したくなって、いい加減閉じたくなってしまう……


「作戦名…ッ! 」


それでも心配ない、諦めなければ、負け続けても

例え接触さえ失った身体でも

例え生まれながらコンプレックスの差別に苦しみ続けても

例え肩身狭く引きこもりに成り下がっても

例え自分の才能が挫折の前に閉ざされても


例え、体温を無くして騎士の星さえ取り上げられても



諦めなければ、諦めなければ、諦めなければ


「――作戦名ぇぇぇッ!! 」


そこには新しい何かが必ず待っている!!



「――‘Rein:carnation’(リィンカーネーション)!! 」


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