第二話
母親マジチート
『風見雪』
俺が助けた幼女の名前だ。
その後何故か懐いてくれて、共に遊ぶことがよくある。
「じゃーねー!いっちゃーん!」
「あぁ、じゃあな。」
今日も今日とて雪と遊び、元気良く笑う名前のとおり、雪のような輝く笑顔を見ながら、俺は微笑しながら手を振り替えした。
この頃の女の子といえばお人形遊び、というあまり女性経験のない自身が勝手に思ってたのだが、男の子のような遊びもしていたことがわかった。
―区別するだけ無駄か
なんて思いながら俺は雪と遊ぶ日々を送り、いつも通りに帰る。
「ふぅっ」
走り回って疲れた汗を拭いながら、自分の家へと足を向ける。――足が重い。
「がんばれ俺っ、幸せにするって決めただろっ」
自分自身にがんばれといって、足をパンッと叩く。
そして顔を前に向ける。
こんなことをやっているが、俺は虐待などを受けたことはない。
飯をだされないことなんてない、家族と不仲なわけではない。
――むしろ逆
そう、仲が良すぎるのだ、一方通行だけど
「た、ただいまー」
なるべく小さな声で、ただいま、という。
こんなことで防げるわけではないことはわかっているのだが――
ドタドタドタッ!!
「(あぁ、きたか……)」
そう思いながら目を瞑る。
いつものことだ、だからもう逃避している。The 現実逃避
「はぁーいっ!い・つ・き・ちゃーんっ☆」
でてきた小学生みたいな体格をした女性――これが俺の母親だ。
『有羅場春子』身長は121cm、いつになったら伸び盛りなの?なんて聞きたくなるような身長をひっさげて、彼女は俺に抱きついてきた。
「か、母さん……」
「おかえりなさい、樹、ご飯にする?それともお風呂?もしかして、あ・た・し?キャハーンッ☆」
「落ち着いて母さん。」
「でもぉ樹ちゃんならぁ、いいかもっ?えへへっ将来有望だもんねっ、だって水樹さんとの子供だもんっ」
「ねぇ母さん?」
「水樹さんは死んじゃったけど、私が大きく育てなきゃ……おいしそうに。」
……よし、今のは聞かなかったことにする。
―とりあえず、今ので気づいた方もいるだろうが、俺には父親がいない。
幸せにする、と決めたわけだが、その後飛行機事故で、単身赴任から帰宅するときに死んでしまった。
それでも、母さんが幸せになれば幸せになってくれると信じているからこそ、俺は今母さんを幸せにしようと思っている。
「母さん、聞いてよっ」
「ん、なぁに?樹ちゃん。」
「―あぁ、やっと聞いてくれた。」
……話の流れというか、なにも聞かないでおかしくなっている母を止めるために呼び止めたのだが、何を言いたいのか決めていなかった。
どうしよう?えぇと、適当なことを聞こうか。
「き、今日の晩御飯は何?」
「んー?いっちゃんの好きなハンバーグ。」
「うん、ありがとー!」
「あぁもうかわいい食べちゃいたい。」
「わーい、うれしいな、うれしいーなっ!」
はしゃぎながら、瞬間的に力をいれ、一気に走り出す。
ダッシュだ、この空気から逃げ出して自分の部屋に引きこもりたい気分だ。というか面倒。
「えへへへ、鬼ごっこ?鬼ごっこ?」
「いや違います!」
母さんは勘違いでもしているのか、笑いながら追いかけてくる。
――まさに鬼にみえるのは俺だけだろうか、人間を食べようとしている鬼に
「うふふふ、お母さん嬉しいな、いっちゃんとっても強く育って。とっても足が速いのね。」
「ありがとう!おかあさあぁああああん!」
春子――俺の母親は、はっきり言うとありえないほどの高スペックを誇る。
俺の身体能力や学習能力というものが、どんなに知られようが不気味に思われないのがこの母親の所為だ。
『50m走5.3秒』
『握力98.6㎏』
『習得言語18ヶ国』
『全武術全国制覇』
武勇伝は色々とある。
マフィアの本拠地へいって潰してケロッとして帰ってきたとか
首相を暗殺から護ったとか
戦争を一人でとめたとか
――そんな彼女を愛したのはまったく普通の男性だったけど
その小学生な体にどこに力があるんだと叫びたくなるような体。
――まぁつまり、この俺の体でも勝てないわけで。
「つーかまえたっ☆」
「ぐぁぁっ!?」
「うふふ、いっちゃんの愛を感じるわぁ~、だからいっちゃんもお母さんの愛を受け止めてね!」
「きょ、拒否します。」
「恥ずかしがらナーイ☆」
「うわっひきっ引きずらないでっ、ヤメテー!」
「さーてお母さんの部屋へいこーっ!」
ぱたんっ
……母親の部屋から樹の悲鳴が聞こえた。
【有羅場春子】
身長:121cm
性別:女性
性格:天真爛漫
職業:翻訳家
能力:規格外
それを愛した男性
【有羅場水樹】
身長:172cm
性別:男性
性格:平和主義
職業:大学助教授
能力:ちょっとした霊感くらい
「――霊感があるだけでおかしいけど、母親がこんなんだから普通に見える…」
服を直しながら、疲れた溜息を吐いて、俺は溜息を吐いた。