第一話
生まれ出る。
思い出したのか、それとも意識がちゃんとできあがったのか、1歳3ヶ月目にして、『オレ』という存在が現れた。『有羅場 樹』
ゆっくりと立ち上がり、外をみる。
――そこにあった景色は、ちょっと感動した。
どんなにあがいても、庭にある柵よりも高い位置から見ることができない。
転生というものを、そんなことから実感した。
「……」
1歳3ヶ月、ある程度のことはできるようになり、親に迷惑はかけるだろうが、生まれでた時よりは少ないだろう。
夜泣きに排泄物の処理、食事の世話――迷惑をかけたんだろうな。
それでもやってくれたってことは、愛してもらえているということだ。
――前世で理解しなかった愛情を今理解したとは
前世のことを思い出すと、心がキュッと締め付けられる。
―がんばろう
思い出して、むなしくなって、それでよりいっそう、そう思った。
二次創作というものがある、漫画の『平行世界』というものを題材にして描かれる物語というものだ。
それは戦略的に描かれるかもしれない、もしくは最強主人公として描かれるかもしれない、ほのぼのとして描かれるかもしれない。
転生といったからには、何かしら死亡フラグあふれるかと思えば、別にそんなことはないらしい。
前世となにも変わらない日常というものがあった。
「がんばる」
喋りにくい口だけれども、その言葉はハッキリと出ていた。
勉強も、武術もがんばる。
――親の幸せなんてわからない。
でもがんばって生きることが親孝行なのかもしれない。
「がんばるっ!」
幼稚園へと入っていった。
年少組というやつだろう。
『ひまわり組』という札がかけられた教室をみる。
小さな子供たちがいっぱいいる。
これがオレの入る教室だ、これまでに親の目を盗んで本を読み続け、色々なことを知った。
『才能』この存在を願ったが、これを願ってよかったと思う
アニメの能力とか言っても無意味だった。うん、まぁ国民的猫型ロボットのポケットは欲しい気がしたけれど。
その教室に入ると、騒がしい。
まぁ小さな子供がいるんだし、仕方ないのだろう、走り回ったり、遊びまわったり。
そんなヤツらをみながら、オレはいすへと腰掛けた。
――どうしよう、ついていけん
この年のノリにまったくついていけなかった。
高校生というものは、年齢的に大人と子供の中間だ、だが求められるのは『大人』というものだ。
自分で考えて行動しなければダメ。
だがこの年の少年少女となると、『考える』というものがない。
好奇心をもってみんな動いている。
『○○をこうやったらどうなる?』というものを、危険とかそんなものは考えずにやる。
そんな年齢だ。
『○○をこうやったらどうなる?』を高校生にやらせるとしよう。
やるのはたぶん教室だ、教科書や先生に聞いてきて、『安全』というものちゃんと理解した上でやるだろう。
未知のものへの心構えというものがあるのだ。
だがこの3歳という年齢はそんなことはなく、ワーワーキャーキャーと叫んで、遊びまわる。
――絶対に保育園の先生にはならない
そんなことを考えた。
――今日も今日とて、仕方なしに周りの幼き少年少女達ををたしなめ続ける。
危険がある行動があれば、必死になって守り続け、保育の先生の負担を少なくする。
保育園の先生、保母というものだろう『みゆき先生』という人だ。
若く、新任なのだろう、最初に来たときは辛そうにしていたのをみて、オレは仕方なしに手伝うことにした。といっても気を遣わせることのない暗闇からの手のように、誰かがわからない程度にやることにするけど。
ある日、近くの自然公園へと散歩に出かけた。
みんなニコニコとキャイキャイと騒がしく歩き始める。それを後ろから見ながら安全を確認する。
前世のニュースで、飲酒運転により児童が死んだなどというニュースがあった、それを抑えるためだ。
無事についたときには、本当に安堵の息を吐いた。
自然公園では、各々の児童たちが遊びまわっている。
範囲は決められて、それに従いながら遊びまわる。
俺は危険な鬼ごっこの中に入り、走り回る。
―スペックについてはこう考えるといい
中国の漢の時代の末期に生まれ出たなら有名な武将になれたこと間違いなしだと。
弾丸のように走り出せば、この年齢で50メートル8.9秒、自分で計測したのだがありえない数字だ。
だからこそ、それを抑えて走る。
そのとき視線を感じ、そちらのほうをみると、みゆき先生がいた。
じっとコチラを見つめる先生をみて、冷や汗を流しながら手を振ってみる。
ぎこちないながらも手を振り替えしてくれた。
――変に思われでもしたのだろうか
―sideみゆき先生
子供が好きなわけではない。
――でも笑顔をみるのがすき。
そんな理由で私は保母となる。試験を受けたりして、やっと保母になれたと思えば、現場の辛さに根を上げそうに成っていた頃だった。
泣きそうになっていると、ひとりの少年、『樹』君がこちらをみているのに気づき、思わず視線を向けたことがあった。
―そのときには樹君がいなかった、『気のせいだろう』と、ちょっと心配そうにみていたことを思い出す。その時のことが勘違いではないと知ったのはそう遅くない時期だった。
仕事が楽になった。
慣れてきたというものもあるのだが、そこには一人の児童、そう樹君の影があった。
子供が無茶をして泣き始めると、彼がたしなめて泣き止ませ、怪我をすればおんぶをして保健室へと駆け込んでくる。
隠れて助けているつもりなのだろうか、私が来る前に解決して颯爽といなくなる樹君をみて大人びたところのなかの幼さにクスリと笑った。
自然公園への道のりで、安全を確認している少年をみて、背中を預けられるのが子供だということが少しおかしくて笑った。
―side END
鬼ごっこといっても、自然公園だ、人工の山の自然の中で隠れながら走り回る。
―もうコレって隠れ鬼ってやつじゃないかな?なんて思いながら、裏をかいて道路と自然の境である林に身を潜める。
その時だった。
ポンポンッという音が聞こえて、そちらをみると、ピンク色のボールが道路へと出て行った。
ビニール製でピンク色の反射が大きい眩しいボールだ。
そこにきたのは車、一台の乗用車。
―おいおい、それを追っかけて飛び出してくるやつなんていないよな?
なんて思っていれば、そうなった。幼女――響きは悪いが、飛び出してきたのだ。
その光景に驚きながら全力で走り出す。
――なんてこったい
間に合わなければどうしたらいい、いっしょに死ぬか?
叫ぶ、叫びながら足に力を入れて、飛ぶ。
キキキィィィッという車のブレーキ音が響き渡る、だが間に合わない。
「おうおぉぉぅううおおおおおお!」
叫びながら飛んで――ギリギリセーフくらいだ。空中で幼女の体を引っつかんで空中で無理やり体制を入れ替え、自身を下へと置く。
レンガ造りの歩道にぶつかり少々痛かったが、無事だった。
「うおぉぅうおぅううおぉおおおぅ。」
心臓がドキドキしすぎて、へんな声をだしながら息を整える。頭は熱く心も熱い。
抱いている幼女をみれば、――泣き出した。
「ふえぇぇん」
「えっちょ!?泣かないでくれ!」
泣き出したのをみてパニックになりながら抑えようとする。どうすればいい?
男なら『漢』ってヤツを語りまくっていれば何故か泣き止んだ。
だけど女ならどうしていいかわからない。
「(どうすればいい!どうすればいい!)」
「ふえぇえん、えぐっえぐっ」
DOすんのよ!あぁもういい、先生に任せよう!
「ほれ」
「ふぇ?」
手を差し出すと、泣きながら手をみる。――どうすればいいかわからないのか?
「握れよ。一緒に帰るぞ」
「ぐすっ、うん……」
そういえば、握り返してくる。なんかほほえましい
「なぁ、お前の名前ってなんだ?」
「ゆき……かざみ、ゆき」
「そうか、ユキか、いい名前だな、俺は有羅場 樹だ。」
「いつきくん?」
「おうっいっちゃんでもいいぞ!」
「いっちゃん……うんっいっちゃん!」
何故かわからないが、笑ってくれたのをみて笑い返す、ほっとしながら俺は駆け寄ってくる先生のところへと走り出し――
そして預けた瞬間に鬼となったのは仕方がないことだろう。
空気読めよォ!ほのぼのとしていた空気だろォーがッ!
「待てェェェ!男の風上に置けんヤツがァァ!」
「うわァァッ、樹が怒ったッ」