第十九話
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泣き声が聞こえる。
ミストの声だということはわかっている。
俺はミストの手を引きながら、何も言わずに歩き続ける。
光に飲み込まれた街を背景に、振り向かずに。
たくさんの土の山、それがお墓というのは一目瞭然だろう。
俺はその風景を思い出して、ギュッと、ミストの手を握っている手に力をいれた。
――俺は、無力だ。
それを痛感して、それでもなお、俺は歩こうとする。
――母さん、俺は強くなるよ。
手を引いているミストをちらりと見て、思い出すのは手を引いてくれた母さん。
重度の息子馬鹿だけど、それでも、大切な家族だ。
だから、俺は母さんみたいにこの子の手を握っていなきゃいけない。
俺はそっとミストの腰のあたりをつかんで、力を入れて上にあげる。軽いなぁなんて思いながら、俺は肩車をした。
ミストはキョトンとすると、すぐに泣き始める。
そして俺はそのまま走り出した。
―元の世界―
「おかしいわね…」
「うん…」
心配そうに二人の女性が樹の家の前にいる。
その後ろには一人の男性が、ヤレヤレといった感じで息を吐いた。
「由梨はまったく、素直になれないんだから。」
ポツリと漏らした言葉が耳にはいったようで、由梨は顔を真っ赤にしながらビシィッという音がでそうな迫力で兄である紅を指し、叫ぶ。
「べ、別にあいつが心配とかないわ!」
「ハイハイ」
少々ニヤニヤしながらいう兄に、由梨はウーッとうなり声をあげて威嚇するが、紅はアハハと笑って受け流す。
その様子にさらに由梨の怒りのボルテージがあがっていくが、その怒りは発生した金属音でかき消された、思わず音のほうに兄妹は視線を投げかければ、そこにいたのは雪、そしてその女性の手には――玄関のドアの取っ手部分。
「――ゆ、雪ぃ…?どうしたのそれ…?」
「とったの。」
「いや、とったって…」
「いっちゃんを探すのに、なりふりかまってられないの。」
その言葉に由梨はクハッと思わず笑ってしまい、紅はひきつった笑みを浮かべる。
「あっはっは!そうねそうね!もう樹のやつあったらどうしてやりましょうか!」
「うん、とりあえず思いっきり抱きしめてから考えよう。」
「くく…やっぱ雪にはかなわないわね。じゃ、証拠集めにいくわよ?」
「うん!」
そういって二人の女性は歩いていき、紅はその後ろ姿をみる。
――ものすっごいひきつった笑みを浮かべながら。
「(男としてはうらやましいはずなんだけど…)」
家族であるところを抜いても由梨は美人だ。
雪もきれいになった。
――でも、でもね、樹くん。
「(自身がこの状態になるっていったら絶対辞退するだろうね。)」
そんなことを思いながら、空をみて紅はクスリと笑い。
「(がんばれ!ずっと見てることにするよ!)」
このことに関して樹に対し、何かしら干渉をすることをやめた。
「(怖いからね!)」
「じゃ、手分けしてさがしましょ。」
「うん!じゃあ私いっちゃんの部屋ね!」
「なんでそこ限定になってるのよ…」
雪の言葉に由梨の突っ込み、とりあえず紅は提案をしようと前にでる。
「みんなで探せばいいよ。僕は一階にいるから二人とも樹くんの部屋を探せばいいじゃないか。」
「そうだね!」
「そうだね!じゃないわよ、なんで樹の部屋限定なのよ!」
「じゃあ雪ちゃんは樹くんのへ「なんでそうなるのよ!」…ふぅ、やっぱり二人でいきなよ。」
「…むぅ…わかった。」
やれやれ、とため息をついて紅は一階を探し続けることにした。
ドタドタという音が上からするのに苦笑いを浮かべながら、紅は下を探し続ける、すると、いきなり音がやんだ。
「…?」
不思議には思ったが、まぁ落ち着いたのだろうなんて思って捜索を開始する。
そして30分がたち、紅はさすがにおかしいと思い上へいってみることにする。
「由梨…?」
妹の名前を呼ぶ、返事はない、寝ていたら風邪をひくかもしれないと思って樹の部屋へはいり、見回す。
「…なんだ、これ?」
自分を反射しない鏡、それをみつけて紅は鏡を叩いてみる。
だが、音もしない、衝撃も起こらない、…おかしいと首をひねり。
「…ま、不思議なことには慣れてるから、ね。」
そういって紅はクスリと笑い、そのまま鏡にズプリと指をいれる。
そして、そのまま入っていった。