第十六話
広場ではさきほどまでとは打って変わって、騒がしいほどの喧騒に包まれていた。
そこにいたのはこの街の人々。
話を聞けば、先ほどの化け物――人々は『カラヴ』と呼んでいたものが好き勝手に暴れまわっていたかららしい。
そして買ったときにみんながでてきて、俺に拍手喝采を浴びせ、料理をふるまい、みんな思い思いに騒いでいた。
――その喧騒から外れ俺は一人でこの世界に入ってきた鏡をみていた。
噴水の水は枯れ、水はどす黒い、だが嫌な顔はしてられないために着た制服をいったん脱ぎ、頭に乗せる。
ジャブジャブと音を立てて水の中へ入り、銅像に上り鏡に手を乗せ、勇気を発動する――なにも変わらない。
「え?」
変な声をあげる鏡は何も変わらない。
――ずるり、と足を滑らせて水の上に落ちる。
パァンッという鈍くも高い音を立てて水の上に落ち
「…洗い直しだ。」
関係ないことを考えて、今の現状を無視することにした。
――そのときだった。
さきほどの女の子が俺を覗き込んでいる。俺は水の中で力を入れて、足を底についたあとにそちらを向くと、女の子がおどおどしながらこちらに歩いてくる。
年齢は小学生だろうか、おどおどしながら女の子は口を開けた、
「あ、あひがほぉごじゃいましゅ!あふ、はんひゃっはよぉぉ」
そしていきなり噛んだ。
和みという観点からして、雪を思い出す、うん昔のだけど、今はダメだけど…何ていうか、純粋というところか…ハッ!?どこからか殺気が飛んできた!?
「あぁ、うん、どういたしまして。」
「うぅっ、ご解読ありがどうございます。」
舌の痛みがどれたのか、女の子は羞恥心を振り払うかのように首を左右に振った。
そしてぐっと俺をみる。
「み、ミストっていいます。」
「俺は樹だ。いっちゃんって呼んでくれ。」
「い、いっちゃん!?そんな、この街を救ってくれた人にそんな言い方は。」
「おう、どうした?」
「お父さんっ!」
いきなり横から声をかけられ、そちらのほうに視線を向けると、そこにいたのは中年の男性、ミストといった少女から言うに、この人が父親か。
「ミスト?ダメじゃないか、あいつが来たら――」
「いいの、もういいのよお父さん。」
「いいって?」
「あの人がこの街を助けてくれたの。」
そういって後ろにいる俺をミストは指す。
そうすればミストのお父さんがこちらにやってくる。
「話は聞きました、ありがとうございます。私の名前はイルファ、しがない木こりをやっております。いやぁ本当にありがとう、あれにはほとほと困っておりましてね、いつ娘が食われるんじゃないかと、いやまぁ食われたらもう殺しますけどね、殺しますけど、殺しますけどね?もう本当に殺しますけどね、うん殺す、ぜぇったい殺す。」
「あ、あのミストのお父さん?」
自分の子供が殺されたらという話をしたら、殺すを連呼し始め、そのうえ目がすわってきているために思わず声をかける。――それがいけなかったらしい。
ミストの父親は、くわっと目を見開き、俺の肩をつかむ。
「お義父さんだと!?娘はやらん!やらんぞぉぉぉ!」
――こいつも母と同類か
ガクガクと揺さぶられながら、俺はなにこれめんどくさいといった顔をしていただろう。
「お、お父さんやめてよぉ」
「うぉぉぉ!娘はな、『お父さんとけっこんするぅ~』っていってきたんだぞ!だからやらんっやらブフゥッ!」
ミストのお父…イルファはいきなり変な声をあげて倒れる。
そして倒れた後ろには、ミストのお母さんがいる――金槌を持った。
「あらあら、仕事終わりで疲れていたのですね。あら、こんにちは。私の名前はサーシャっていうの、よろしくね。あと、この街と救ってくれてありがとうね。」
「いや、金槌――」
「つ・か・れ・て・い・た・んですねぇ~」
「あ、はい…」
笑顔からにじみ出る迫力に押され、コクリとうなずいてしまう。そういうと満足したようにミストの両親は去って行った。
――いや、引きずられることを去るっていうのかはわからないけど。
「お、お父さんったらぁ…」
そういって恥ずかしそうにしているミストをちらりとみる。
――親馬鹿だけどいい両親そうだな、なんて思いながら。
だからこそ思った、早く母さんを助けなきゃと
「いつ…いっちゃんさん?どうしたんですか?」
「ううん、なんでもないさ、いっちゃんさんのさんはいらないと思う。」
「う…い、いっ…ちゃん。」
「はい、いっちゃん、いっちゃん。」
「い、いっちゃん。」
「はいよくできたなー」
…自分でも恐ろしいほどにテンションがおかしい
その後、すぐ喧騒の中に戻る。
はしゃぎまわる街の人々の声を聴きながら、俺は自分の護ったものを感じた。
――ちょっと笑みを浮かべながら、俺はこの世界のごはんを食べ進める。
――次の日
俺は荷支度をして、街の前門に来ていた。
後ろには街の人々。
「もういっちゃうの?」
そうミストが聞いて来れば、俺は笑顔を返す。
――そうして俺は笑って言った。
「母さんを助けなきゃ。」
そういって笑えば、何かを投げ渡される。
投げたほうをみれば、イルファがいた。
「娘はやらんが、食料はやる。」
そういってプイッと横を向き、それをサーシャさんがニコニコと笑いながらみている。
――本当にいい人たちだな
なんて思いながら、俺は深く深く礼をして、反転して歩き出す。
「ありがとうございましたー!」
そう叫べば、街の人々は、
「それは俺たちのセリフだ!」
そういって、ニコニコと笑う。
――俺はいつしか走り出す。
彼らの絆をみていたら、母さんを早く助けたくて
そして数時間後。
山の森の部分も終わり、丘へと到着する。
さきほどいた街がみえる。
壁に囲まれ護られた場所、それをみながら、俺は笑い――
――突如として、街は光に飲み込まれた。