転校生は雨宿りが好きな麻川さん(ウタほたるのカケラ〈US〉出張版【サイズS】第5iS片)
濡れながら歩くひと、気になりますよね。
おととい、僕のクラスに転校してきた麻川さんは、綺麗なコで。
やたらと男子たちに声をかけられて辟易してるのに、それを面白く思わない女子たちからは冷遇され始めていた。
僕もとある理由で彼女に興味はあったんだけど、こんな状況じゃ挨拶もできないでいて。
今日の下校時刻は雨。
朝は晴れていたため、傘を持ってこなかった人も多く、彼女も校舎の軒下でスマホに触れながら雨宿り。何度か鞄を手で探りしたのは、折りたたみ傘の有無の確認ではないだろう。
綺麗な彼女とお近づきになろうと、自分の傘に入っていかないかと誘う男子は幾人もいたが、麻川さんはすべて断っていた。
「私、雨宿りが好きなの」
嘘ではなくとも、特定の男子と仲良く思われて、自分の立場を悪くしたくないからみたい。
だけど今日は秋の冷たい雨。転校したてで指定のカーディガンが間に合わなかったのか、冬服だけの彼女は、今にも風邪をひいてしまいそうだ。
僕は勇気を出して声をかけてみた。
「麻川さん、僕の傘に入ってかない?
駅、使うんでしょ?」
かけられた言葉でスマホから顔をあげて、断りの返事に口を開きかけた麻川さんの目が、僕の傘の持ち手についたチャームに気づいて見開かれる。
「このキャラのアニメ、麻川さんも好きなんだね。
きのう、電車のなかでノベライズ読んでるの見ちゃったんだ。鞄を気にしてたのは、本を濡らしたくないから? それに、雨がやむのを待つあいだ読もうか、迷ってたのかな?」
「……べつにいいでしょ。
それに、私は雨宿りが好きなんだから、ほおっておいてくれる?」
言葉はそっけなくても、明らかに表情を柔らかくした彼女。心底、迷惑ってわけでもなさそうだ。
「だったら、ほら。
僕の傘、大きいから、いっしょに雨宿りしながら歩こうよ。
同じアニメが好きどうし、おしゃべりしたいし。
大丈夫。僕みたいな地味な男子と関わっても、つっかかってくる女子なんていないさ」
——僕に対する、ほかの男子の当たりは悪くなるだろうけど。
こうしてやっと、麻川さんは傘に入ってくれた。
アニメの話に始まり、お互いの好きなものについて。駅までのそう長くはない時間は、とても楽しいものになった。
勇気を出して声をかけてよかったなあ。
そのうえ途中、麻川さんはケーキ屋さんをみつけて、興味をひかれたようで。甘いものは好きなのかと尋ねた僕に、こう答えてくれたんだ。
「次の雨の日には、いっしょにこのお店で雨宿りしよっか?」




