1-5魂の形を成すもの
ここで説明されている概念はあくまで作中の解釈であり、特定の説を元にした考えではありません。フィクションとしてお楽しみくださいませm(_ _)m
屋敷を後にして、さくさくと音を立てる芝生を踏んでいると、不意に背後で気配が揺らいだ気がして振り向く。
「あっ…ねぇヒナタ!お屋敷、消えちゃった!」
見渡す限り広がる緑の風景に肝が冷えて、少し後ろを歩いているヒナタの袖口を掴む。また迷子になっては困る。
「わ、びっくりした。ああ、この世界で目に見えるものは幻術のようなもので、離れてしまうと実体を保てないんだ。
大丈夫。ボクが場所を覚えているから、また戻ってこれるよ」
おっとりしたヒナタは、ナツやハルがこうして大きな声を出したり、詰め寄ったりするたびに肩を揺らして驚いてしまう。申し訳なく思いながらも、ヒナタほど落ち着いた大人な自分も、想像できなかった。
いたたまれない気分を咳払いで誤魔化し、
「だからここに来る時もお屋敷が突然現れたのね…。見えるもの全てがはりぼてって感じ…?」
踏みしめれば足元から返ってくる芝の感触も、右手で握ったヒナタのジャケットの袖の擦れる音も、確かにここに存在しているように感じる。
実在していることを疑う余地もなかったそれらが、この世界の作り出す幻だと思うと、不意に自らの足場が揺らぐような気がしてしまった。
「お姉ちゃん?」
「ねぇヒナタ、それじゃあたしたちの体も幻なの?元の世界に帰れなかったら、どうなるの?」
「……この世界のことはボクにも分からないことが多いんだけれど。知りうる限りでお話しようか。多分、ノナはそのつもりでボクを付けたんだろうし」
そう言いつつ、ヒナタが両手を地面にかざすと、ふわりと草の表面が揺れて3人でゆったりと座れる大きさのラグが現れた。
毛足が短くきつく編まれた繊維で、これなら草の上に腰掛けてもゆったりと過ごせそうだ。
ヒナタが腰を下ろしたのに続く。ハルに関しては靴を脱いで寝転がってしまった。
ヒナタがノナと同じような魔法を使ったのを目にして、さらに聞きたいことが増えたばかりだが、先の話題から逸れてしまわぬようにじっとヒナタの発言を待つ。
「さて、今の状態と、これからの話だったね」
******
曰く、個の実在は3つの観点から形作られる。
1つは肉体などの器。
1つはその器に収まる魂。
そして最後の1つは、その個を『世界が』認識すること。
ーー今、この草原から姿を消しているノナの屋敷は、本当に実在したのか。
屋敷の存在も、そこに息づく穏やかな日常も、世界の観測者が認識しなければ、その存在は確かだとは言えない。
通常、現世にて肉体と切り離された魂は冥界へとまっすぐ旅立っていく。
例外として、この実在を構成する3つの要素のうち、何かが欠けている、不足しているなど、何かしらの理由で実在が確かではない魂は、その道半ばで彷徨ってしまうことがある。
それが「知られざるものたち」すなわちナツとハルの現状だった。
「とはいえ…その大半も、迷いながらいつかは冥界に辿り着く。その中継地点にある、この世界に偶然迷い込むのは、ほんの一握りかな」
「ここに来なかったら、迷っている間はどうなるの?」
「記憶を保つための器がないから…多分、冥界に着いた頃には迷っていたことも忘れてるんじゃないかな。
いま2人が意識を保っているのは、現世に置いてきた体の代わりに、この世界が魔法で体を用意したからだね」
「へえ…?」
自分の生まれる前の記憶がないように、肉体を得なければ記憶を保存することはできないらしい。
日常では触れてこなかった概念的な話の数々は理解するには困難で、半ば他人事のように相槌を打ってしまう。
「あれ…でもヒナタくん、僕たち、なんでここに来ちゃったんだろ。現世には体がちゃんとあるし、お姉ちゃんのことも僕がちゃんと認識…してるよ?」
ハルの一言に、頭を悩ませるのを中断して思考する。
確かに、実在が確かでないものが、冥界への道を迷ってしまうというのなら、それはナツとハルも例外ではい。
ただ、その心当たりが見当たらない。
「それは…ボクにもわからないんだ。ここに居る間に、その理由を見つけられるといいね。ここからいずれ出ていくのに、また迷子になっては困るでしょう?」
「……記憶に残らないとしても、それは嫌ね」
「うぇえ、想像したら、ちょっと怖くなってきちゃった」
「ごめんね、ボクは何もできなくて。
でも、近いうち、道に迷わないようにお守りを持たせてあげるからね。少しは気休めになると良いけど」
「お守り?」
「そう。ノナが今、アトリエで作っているのが、君たちのお守りなんだ」
目に留めてくださり、ありがとうございます(*´꒳`*)
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