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1-4案内人

******

食卓を華やかに彩ったたくさんの食事を平らげても、お腹が苦しくならないのは不思議な感覚だった。

ノナの言う通り、この世界では生存活動に必要なほとんどのことをしなくても存在していられる。


それでもゆったりとした時間に心が満たされる感覚を思えば、ノナがこうして食事の時間を続けてきたことを、無駄と思うことはなかった。



「ノナは毎日こうして食事をしているの?」


ナツの真似をして食器の片付けを手伝いながら、ハルが問いかける。


「そうだね、いつもはマチと食べてるからもう少し少ないけど」


「へぇ、でもすごいや。朝からたくさん用意して…毎日あんなに綺麗にテーブルを飾って大変じゃない?」


「そこはわたしの専門分野だからねぇ。前に言ったろ、わたしは修飾の魔女。飾り付けの天才ってことよ」


ノナが自慢げな様子でテーブルに両手を置くと、ふわりとテーブルクロスが舞って柄が変わる。

真っ白なテーブルクロスはあっという間に美しい薔薇のパターンのレースに、裾にはフリルがあしらわれている。惚れ惚れとするような、美しい魔法だった。


ーー前から薄々気がついていたが、手を振ったり指をさしたり、魔法使いらしいジェスチャーは魔法の行使に必要ないらしい。

今までのジェスチャーも統一されていなかった。

何故やっているのか聞いたところで、「その方がかっこいいだろう」という返事が察せられるくらいには、ノナは率直な性格をしている。


「さて、ダイニングも片付いたし、そろそろ案内人を呼んでこようか。マチ、おいで」


「にッ」


ノナは卓上を綺麗に整えるとぱちん、と両手を合わせ、不意にマチのお腹を抱えて持ち上げる。


床にへばりついて抵抗するマチの胴体はにゅ、と一瞬伸びるも、抵抗虚しく宙ぶらりんにされてしまう。

そうして不服そうな顔をしているマチを、ノナは窓から外へ逃してしまった。


30センチほどの高さからポイと投げ出されたマチは、猫らしい滑らかな足取りで危なげなく着地する。

そうして恨めしげに、たっぷりとノナを見つめた後、トボトボと庭の奥へと姿を消した。


「あ!マチ逃げた」


「いや、ノナが逃したんでしょ」


「あれはマチが居ると出てこないんだよ。ちょっと出かけててもらわないとね。あは…」


マチをぽい、と放り出しておいておかしそうにしているノナに首をかしげつつ、ノナが連れてくると言う案内人を待つことにした。


******


少しの間を置いて、リビングに戻ってくるノナに手を引かれ、一歩後ろには件の案内人の姿があった。



木製の階段を、ローファーで鳴らして歩く人影の目線はノナと比べて頭ひとつ分と少し高く、すらりと手足が伸びている。

見上げる背丈が、しかし威圧的でないのは、近づくにつれ見えてきたその中性的な顔つきと本人の穏やかな振る舞いゆえだろう。


胸元まで伸びる日本人らしい黒髪を肩口でひとつに纏めているのも相まって、一見女性のようにも見えるが、セットアップジャケットの装いと、聞こえてくる話声から男性らしいことが伺える。



「そら、せっかくのお客人…それも同郷なんだ。すっこんでたら寂しいだろ?」


「別にすっこんでるわけじゃ…それに、ボクは今の生活が気に入ってるからいいの」


「やだ、そんな弱った顔しないでよ。ちゃんと子守りできるか心配だわね。大丈夫?」


「それじゃあノナが案内すれば良いじゃない。ボクお留守番してるよ?」


「あーダメダメ、わたしはアトリエで仕事するから忙しいの」


気軽な言い合いをしながらリビングにやってきた男性は、こちらを視界に入れると慌てて笑みを浮かべた。


「ああ、お見苦しいところを。いらっしゃい、ナツ、ハル。…ノナから話は聞いてるよ」


「お兄さんもここに住んでたんだぁ、はじめまして」


ハルは早速男性のもとへ駆け寄るとその顔を下から見上げて笑いかける。

その人懐こさに少し狼狽えながらも、「お利口だね」とハルに笑みを返した。その様子を一歩後ろで眺めるナツも続けて口を開く。


「おじゃましてます、ええと」


「ごめんね、名乗りもせずに…ヒナタです。ここではノナの助手をしてるよ。

年は上だけど、あまり気を使わないでいいからね」


「ヒナタくんがお出かけついてきてくれるの?ありがとう!」


「あはは…うん、そうだね。一緒に行こうね」


嬉しそうに詰め寄るハルを目の前にして外出回避の気運を逃してしまったらしいヒナタは、とうとう困ったように笑って頷いた。


「…さて、待たせて悪かったね。積もる話は散歩しがてらでいいだろう?日が高いうちに、行っておいで」


太陽の主導権を握る魔女が、あまり自然にそう言うものだから、3人はさっそくアトリエの外へと出かけた。

目に留めてくださり、ありがとうございます(*´꒳`*)


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