1-1魔女の庭
はじめまして、優しいお話にできたらいいなと思います。よろしくお願いします。
その昔、魔女と呼ばれる職業が確かに存在した。
それは、不治の病をも治す薬師
それは、未来のことを見通す占い師
それは、超常の力で他を圧倒する闘士
それは、いつまでも美しさを保つ不老の美女
卓越した能力を持ち、時にはその才能を恐れられた魔女たちは、その力を他に施すため使い、民と共生を続けてきた。
「ーーとは言うけどさ…
ズバっと言っちゃうけど。ここでおとぎ話を持ち出すのは無理あるよ。子供だからって舐めないでよね。あたし子供騙しは嫌いなの、わかる?」
「お姉ちゃん、い、言い過ぎだよ…」
青々とした芝生の上、裸足の小さな子供が2人。
一方は意志の強い、凛とした目つきの少女。背丈が足りないながらも下から一生懸命に魔女をねめつけているつもりらしい。
もう一方は鏡のように正反対の柔らかい垂れ目を更に情けなくさせて、少女の袖元を引く少年。
「あらやだ、年配者の言うことは一度聞き入れておくべきなのよ、ボクたち?お名前言えるかな?」
「あ、ぼくハルです。こっちはお姉ちゃんのナツ。」
「こらハルッ!!知らない人にすぐ名乗らないのっ!しかも不審者…」
魔女を名乗る女性は、自らを年配者と呼ぶには若過ぎる出立ちをしている。
すました様子で立ち、艶のある金髪を大きなリボンでひとまとめにした装いは目の前の2人と比べても大差なく、ほんのこぶし2つ分背丈が高い程度のものだ。
3人が言い合っているところは外から見れば子供の微笑ましい言い合いにも見えた。
「ま、子供騙し結構、おとぎ話結構。そのうち分かるさ。きみたちはこの庭で迷子になっちゃったんだから」
ツンとそっぽを向いたのに、いまだ魔女の方をチラチラと気にしている少女、ナツに魔女は赤い瞳の片目を瞑る。
しばらくして観念したようにひとつ息をつくと、背を向けて歩き出す。地平線の見えるような草原にも関わらず、その姿はあっという間に見えなくなった。
「あぁ…せっかくの第一村人だったのにぃ…ほ、ほらぁ!お姉ちゃん、やっぱり僕たち迷子なんだよ…」
「うるさいうるさい!もうっ、ハル。こっち来なさい。早く母さんたちのところに戻るわよ」
「びぇえ…」
気づけば、見渡す限り草原だけの世界にぽつんと残された2人は、戻る先なんてどこかも分からないまま歩き出した。
不自然なほどに広がる草原の世界にふたりぽっちのいまに、不安で泣き出しそうな気もしたし
見上げれば美しく広がる青空に、心が晴れるような気もした。
*********
どこまでも続く草原は、足元の芝生以外に目印になるものが何もない。
「もう…どこなのよ、ここ…」
ナツは不安に視線を揺らしながらも、ハルの手をしっかりと握って離さず歩みを進めた。
どれくらい歩いただろうか。太陽は常に頭上にあり、変わらない明るさで2人を照らし続けている。
時折気持ちのいい風が吹くとはいえ、喉の渇きも、空腹も感じない。
ちら、とハルを見やっても、不安そうに袖を掴んでいるだけで疲労の色は見えない。
それに安心すると同時に、心が晴れない現状に釈然としないまま、改めてハルの手を握り直す。
不意に、草原の景色が歪むように途切れた。
瞬きの直後、目の前に現れたのは、大きなガラス窓を持つ、淡い色の木肌が素朴な屋敷だった。
周囲には、手入れの行き届いた小さな畑や、色とりどりのハーブが植えられた花壇が広がり、どこからともなく甘く優しい香りが漂ってくる。
「わっ…こんなお屋敷、ここに来るまで気が付かなかったね。お姉ちゃん。」
「……気が付かなかったというより、急に出てきたって感じね。…ともかく、よかった。元の道に戻る方法、お家の人に話も聞けるでしょ」
突然現れた屋敷に2人は顔を見合わせてしばらく呆然としていたものの、人里に戻って来れた安堵から先ほどよりもいくばくか力の抜けた顔つきに変わっていた。
レンガを歪に敷き詰めた道を進むと、屋敷の玄関が見える。
特に華美でもなければ、古びてもいない、清潔そうに見える洋館は、しかし凝った意匠の古めかしいデザインをしている。
その屋敷の玄関先に、一匹の黒猫が座っていた。
光を吸い込むような艶やかな毛並みを持つ、少しふっくらとした猫は、二人の姿を認めると、ゆっくりと立ち上がり、彼らの足元へと歩み寄る。
「なぁーぅ」
猫は二人を見上げてひとつ鳴くと、踵を返して屋敷の方へと進んでいく。瞬きをしてその様子を眺めていると、振り返って立ち止まり、こちらをじっと見つめてまたひとつ鳴いた。
「へ…?」
「わたしたちのこと、待ってるのかな。あの猫も迷子かも」
二人が黒猫のそばへ歩みを進めたのを見ると、黒猫はしっぽを一度、ゆったりと振って静かに屋敷の扉を見上げた。
その視線につられて顔を上げると、屋敷の奥から軽やかな足音が聞こえる。
すると少しも待たないうちに屋敷の扉がカロン、という軽いベルの音と共に軽快に開かれる。
「おっと、来たか!これまた早かったわね。けっこう飛ばしてきたでしょ、迷子ちゃんたち?」
「ああーーっ!魔女のこども!」
「もぉ…!」
声を張り上げて魔女を指差すナツを大慌てで止めるハル。
つい数刻前に見た様子を再度繰り返すようなやりとりに、魔女は肩を揺らして笑う。
「ふにゃっ!」
ナツの足元では大きな音に驚いたらしい黒猫の全身がぶる、と波をうつ。
大慌てであしを動かし魔女の足元へと体を滑らせたのを見ると、魔女は黒猫を抱き上げてやりつつ、また笑った。
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