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異世界転生して三十年経ちますけど、英雄さん方?なんか状況悪化してません?〜前世より低スペックにされたのでやる気が起きない低級精霊マスターのお話。  作者: 屋代湊
醤油と味醂と酒があれば大体の料理は作れる。だから悲観するな。お前にだってそこそこの料理で食卓を賑わすことはできるのだから。
9/19

第9話 婚約します

古城の裏、開けた平野。

焦げた芝生がまだ新鮮なその場に、私とイロイ、あと念のためにノフランが付いて来た。

向かう途中、イロイの話を聞くと、どうやら彼女はもともとフーフェルの知り合いだったということだ。この国で革命があったのは7年前ほど、私が転生してくるちょっと前だ。その時に当時帝国の魔法師団にいたフーフェルがイロイのことをなんやかんやで助けたらしい。その後、義賊を立ち上げたフーフェルのところへ定期的に入団を志願しに来ているが先ほどのように断られている、と。


「ほら、出しなさいよ」


ソーセージのことじゃないのはもう分かっている。

分かっているのだが、、、


「あの、、、耳を塞いでいただくことは可能でしょうか?」


「何よ、急に改まって、気持ち悪い」


イロイが不審そうにこちらを見る。


「お願いです、後生ですから、どうか耳を塞いでください、二人とも。いや、せめてイロイさんだけでも、、、」


私はこちらの世界で通じるか全く分からない土下座を繰り出す。

額を綺麗に焼け野原にこすり付けて。

ああ、土下座って、形式が先じゃないんだね。心から人にお願いしたいことがあるとき、自然にこの形になるんだ。

謝罪という概念を具現化したら、土下座に行きつくんだ。

最初にこのスタイルを確立した人類はいったい何をしたのだろう。

多分浮気だ。浮気以外に男が土下座することなんてない。仕事上で土下座することなんて現実ほとんどないのだから、日曜劇場だけなんだから。それか、土下座以上に誇りと尊厳を失うようなことを回避するためだ。それが今だ。


「え___どうゆうこと、、、あんた、、、ふぅん、、、そうなんだ、、、へぇ、、、そうなら最初から、、、正直に言いなさいよ、、、」


「まぁ、あらあらあら」


だが、二人の反応がおかしい。

ノフランは口に手を当てて、あらあら系ママになっているし、それはいいとして、イロイが顔をちょっと背けて、赤面している。


「ど、、、どういう反応ですか、、、?」


「ちゃ、ちゃんと稼ぐんでしょうね?」と、もじもじしながらイロイ。

「責任は取らないといけませんよ、テネーちゃん」と、ノフラン。


「あの、、、どういう、、、?」


私は土下座スタイルのまま、顔だけを上げてノフランに助けを求める。

それを受け取ったのか、ママは、


「あのね、テネーちゃん、男性が女性の前で地面に膝と額を付けることは、求婚の礼、と言うの。男性は一生に一度だけ、その姿勢を取って良いの。そして、された女性は絶対に受け入れないといけないの」


え?じゃぁ、お馬さんごっことかちょー危険じゃん。

前転は?前転。マット運動とかないのこの国。

あと、女性の人権がやばすぎる。夫婦別姓とか言って盛り上がってる日本ってめっちゃ平和じゃん。


「で、、、でも、、、イロイさんは、、、僕のこと、、、嫌いですよね?」


「ええ、嫌いよ、雑魚で無能だもん」


「じゃ、、、じゃぁ、、、」


「でも、その姿勢を取る前に阻止できなかったから、仕方ない」


「仕方ないって何!?今すぐフェミニスト呼んで来い!その力をここに解放させろっ!ここに暴れる理由があるぞっ!!」


「別に阻止しなかった訳じゃないからね!?できなかったの!いきなりだったからびっくりして反応が遅れただけよ!あんたと結婚したい訳じゃないんだからねっ!?」


「なにツンデレ会話集ダウンロードしてんだよっ!抗えよ!!」


冗談じゃない。

5歳で婚約なんて貴族じゃあるまいし。貴族転生ものじゃないんだよ、これ。作品間違えんなよ!


「ちなみに、女性は断れないって言いましたけど、唯一断る方法として、求婚してきた男性の命を奪う、という選択肢はあります。それは帝国時代も、共和制の今も法的に認められています」


ノフランさん?

さらっとすごいこと言いましたよ、あなた。

ええ、あなたはサイコパスだから気づかないでしょうけど。

分かった。

この結婚システム、女性は断れないんじゃない。求婚に失敗した男が漏れなく死んでるから、成功率百パーセントなんだ。数字のトリックだよ、これ。

とりあえず殺さないでくれてありがとう、イロイさん。

だが、私はこっちの世界で結婚する気は一ミリもない。なぜなら、私は生涯一人、妻を愛しているから。ママはいいんだよママは、何人いても。


「年の差、、、とか、、、ね、、、女性が上だと、、、ね?10ぐらい違うし」


「あら、いいじゃないですか、ママ賛成です。義賊団の男の人たちもよく言ってますよ、女は上の方が良い、妻にするにも、エッチするにもって、どこかの格言でしょうか?あと、エッチって何か知ってますか?聞いてもみんな逃げてくばかりで、全然教えてくれないんです」


おお、ママ。その歳でそれは逆にやばいよ。この世界の子作りが前世と同じ行為だとするならば。まぁ20代に見えるだけで本当は何歳か知らないけど。どうやって僕のこと生んだの?あ、胎盤借りたんだっけ、それなら仕方ない。

あと、上の方が良いってどういうこと?テクニック的に?それとも体位の話?

あとで義賊団のむさくるしい男どもに聞いてみよう。


「ちょっと待ってくださいよ!!僕、5歳ですよ!責任能力のない5歳ですよ!!相場12歳からですよ、損害賠償とか!判例がそう言ってます!!冗談に___」


「__ぐすんっ、、、じょ、じょーだん、、、だったんだ、、、そっか、、、そうだよね、、、こんな傲慢で、居丈高で、胸も小さいし、髪も短くて女らしくもない、一生独身がお似合いで、いずれめでたく婚期を逃したあかつきには足元を見たオジサンたちに無駄に、無意味に求婚されて、殺しまくればいいんだ、そうやって史上稀に見る大量殺人者として歴史に残ればいいんだ。そして銅像にでもなって、女性の人権向上のシンボルとしてその周りで集会とか開かれるんだ」


ネガティブ!!

どしたん?話聞こか?

気が強い女性は、おうおうにしてメンタルが弱いことは知っている。小さい犬ほどよく吠えるということだ。

そして、私のせいでとんでもないシリアルキラーが誕生しようとしている。

あとね、髪短いのはなんとかなるんじゃないかと思う。


「そうだね、、、うん、、、殺すしかない、、、その最初の1人が、、、お前、、、」


やばい。

どうする。

イロイがフーフェルさんも持っていた装飾がすごい剣をこっちに向けてる!

妻への誓いと自分の命が目下、天秤にかけられている。

駄目だ、それでも妻以外の女性と結婚するわけにはいかないんだ!!

この命がどうなろうと、私は、妻を、心の底から愛しているからっ!!!


「じょーだんなんて言ってません。いえ、正確には5歳児の言葉なので冗談に聞こえるかもしれないが、僕は本気です、と言いたかったんです。一目見たときから愛しています、イロイ」


「ふ、、、ふぅーん、それであんなに突っかかってきてたんだ、ガキなんだから、ほんと、しょうがないわね、、、そうとなったら、あんたをうちに似合う男にしてみせるわ、今日から寝る間も惜しんで特訓よ!!」


「まぁ!孫の顔はいつ見れるのかしら!」


ノフランママ、エッチも分からん人は黙っててください。

ごめん、妻よ。

生きてこそ、なんだ。生きてこそ、君を幸せにできるのだから。

まぁ、もう、死んでるけど。そっちに戻れそうにもないけど。


▲▽


二人には目を瞑って、耳も塞いでもらう。

そして、


「____出でよ!!ママぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!」


号泣しつつ、召喚の台詞を叫ぶ。

非常にみっともない。

そして、もっとみっともないものが登場する。お股がどうのとか言って、だが、予想に反して、


「はいはい。呼ばれて飛び出てなんちゃら~。雑魚ゲロ低級精霊のおでましでーす。最下級の魔法でよく燃える薪のような精霊でーす。寒い冬におひとついかがー、今は夏だけど、ぷっ、ウケる。はぁ、死にたい」


ダウナー系のギャルみたいな奴が出てきた。

翼もちょうど黒く煤けてそれっぽい。

缶酒でも持たせればすぐにでも完成して東京の喧騒に紛れ込めそう。

声をかけるのもためらわれる感じなので、私はイロイの肩を叩いて召喚が終わったことを伝える。


「ふぅ~ん、これがあんたの精霊ね、耳を塞いだ意味は分からないけど、見た目は立派ね、見た目だけは」


「そうでーす、ハリボテでーす。中身すっからかんだけど、すっからかんなのに10センチしか飛べませんでしたけどね。ぷっ、ウケる。はぁ、死にたい」


「______暗くない?」


イロイが困惑したように私の方を見るが、そっとしてやって欲しい。

彼女は今、つらい現実と向き合う時間なのだから。

そうやって本当の自分の無価値さを突き付けられたとき、人間は大きく成長するのだから。精霊だけど。


「とりあえず治してあげて欲しい。唯一、ほんとに唯一、この白い翼だけは綺麗なんだから」


心は真っ黒だが、それは私の本音だった。

その雄大な翼は、見る者に畏敬の念を与える。


「_____そのお願いの仕方じゃやだ」


イロイがまたもじもじしながら言う。


「ど、土下座ですか、また」


「違う!!ほら、あの、、、椅子にふんぞり反って、髭でも弄りながら、おい飯まだか、とろいな、俺が飯って言う前に準備するのが嫁の仕事だろうが、本当に使えねぇな、、、胸も小せぇ、料理もまずい、仕事もできない、そんなお前と結婚してやったんだ、感謝して欲しいぐらいだね!みたいな感じで言って欲しい、言う義務がある、夫なら」


うん?

さっき、おじさんに足元見られて結婚するのは嫌だとか言ってなかった?

スーパーマッチングじゃない?本当は。


「おい、さっさと俺の精霊直せよ、おっせぇな。苛つかせるなよ。いつでもお前のこと家から追い出してやってもいいんだぜ。まぁ?仕事できないお前じゃ、1人で生きていくこともできないし、色気もないから誰も拾ってくれねぇと思うがな」


おお、お母様の男性遍歴をこの目で見てきた私、さすが。

すらすら言葉が出てくるよ。

モラハラ英才教育の成果がここで出ちゃってるよ。



「___________いやぁ、そんな、そんなひどいこと言わないで、、、イクっ______イッっちゃった_____『黎明の魔法』稟性ひんせい、ゆえに溢溢いついつ



魔法ってさ、こんなんでいいの?

ずっとだよ。この世界に来てから。

反省するよ、異世界転生小説を低俗だと思っていたこと。

私の転生が一番低俗だよ。誰か空の上から見ている人がいるなら、絶対に文章化しないで欲しい。そっと葬って欲しい。

大丈夫だよね、後半巻き返すよね、この生活。

目立ちはしないよ、目立ちは、スローライフでいいの。

でもさ、もうちょっとさ、カッコいいバトルを見たい。自分じゃなくてもいいから。せっかく魔法とかあるんだから、期待していいんだよね、この先。


「翼が白くなったところで、なんにも変わらない。ただの漂白、洗濯、家事の範疇。この度はお手数をおかけして申し訳ございませんでした。二度と女神とか言いません、誰とも戦いません、大人しく引きこもります」


私じゃなくて、女神、もとい低級精霊のエゼがこの度めでたくニートになりましたとさ。

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