第5話 ママに出会います
「な、、、殴らないでぇぇ、、、ごめんなさい、、、ごめんなさい、、、いい子にするからぁ、、、」
「だ、か、ら、殴らねぇって言ってんだろうがっ!!!」
私は両手で頭を抱えながら、腹部への攻撃にも備えて小さく丸まる。
ほじくり返されたダンゴムシスタイルである。
だが、私には硬い表皮はない。
首根っこを掴まれて簡単に持ち上げられる。
ああ、そうか、小学生に弄ばれるダンゴムシってこんな気持ちなのだろう。
ということは、この恐ろしい赤い髪の女は小学生なのだろうか。
「どこ小だてめぇおぉん?やんのかコラ?一寸の虫にも五分の魂って知らねぇのか!!?」
「ほっほぉ、急に威勢が良くなったじゃないか、虫ケラ、いいぜ、やろうか?」
私はほとんどボーリングの球のように持ち上げられながら啖呵を切ってしまっていた。やるって何を?ケイドロ?ドロケイ?
情緒が乱高下していることは許して欲しい。
五歳児、人生の荒波にもう負けちゃいました。
あと、小さい子に虫ケラとか普通に言っちゃダメよ。
「お前警察な、僕ドロボー」
「警察?警備隊のことか?皮肉なもんだな」
「よーい、スタート!」
「_____『白日の魔法』蒼炎、ゆえに麗佳_____」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああ」
やばいやばいやばい。
こいつ、蟻の巣穴にガスバーナーとか突っ込むタイプのガキだ!!
消しゴムをカッターとかで切り刻むタイプだ!!
なんか青いバラのような炎が中庭らしき空間に咲き誇ってる!!
わぁ、、、これが魔法ってやつかぁ、、、ってならない!
熱い、熱過ぎる!!
「で、でたぁあああ!!魔法の難易度は、下から、『残夜』『黎明』『白日』『宵闇』『星辰』の五階梯!そしてこれはフーフェル首領の十八番にして番外魔法!美しく、あまりにも実用性と鑑賞性に長けたオリジナルが炸裂したぁっ!!ちなみに番外魔法とは、使用者が10人未満のものを指し、実際的にはほとんどある個人、固有のものであることが多いぃぃぃぃぃぃっっ!!」
微に入り細を穿つ解説をありがとう、男性A。
今後、実況は君に任せるよ。ちょっと力を入れるとこ間違ってるけど。
多いぃぃぃぃぃぃ、じゃねぇよ。ホームランで叫べ、ファールだぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!って言ってる奴みたことあるか?ないよな、そんな奴すぐにクビだ。
でも、出来ればそんなつまらない生き方は辞めて、この馬鹿を止めて欲しい。
ほら、炎上したじゃん。どうして生まれてから大人になったときに照明さんになろうと思ったんだろう、って言った女優。
私も思うよ、なんで解説なんてやってんだろうって。助けて欲しいよって。こいつ頭おかしいよって。
「、、、あ?お前、精霊使いか?低級精霊の力を感じる」
フーフェルという赤髪の女が、眉を顰める。
ほほう、へぇ、ほほう、そう、あ、そうなん?
「______はっ!仕方ないな、、、本当は、使いたくなかったんだ、この力は、、、あまりにも強大だから、、、。変態____間違った___女神の加護を受けた、このテネーカトロの本領を______え?低級精霊?」
「うん。低級精霊。ほら、守護の力が弱過ぎて、お前、あと3秒で消し炭だ」
「消し炭なんだ?」
「うん、ごめん」
「精霊使いって、すごいんじゃないの?」
「全然、珍しいだけでめっちゃ弱い、だからごめん、謝まっとく」
「何に謝ってんの!?己の所業に?それとも哀れみぃぃぃぃぃぃぃぃぃいぎぃいぃぃぃぃぃゃあああああああああああああああああああああああ!!!」
かっこよく手で顔を覆うようにしながら、私は青い炎に食い尽くされた。
▲▽
「___『宵闇の魔法』鵬翼、ゆえに望郷______」
ああ、私はきっと、間違い続けていたのだ。
これこそが、本当の慈愛。
見返りを求めない、真実の愛。
変態の狂愛はときにこれと見紛うが、似て非なるもの。
これがママ。
ママの愛。
「ママぁああああああああああああああああああ」
暗闇の中、その母の手を求めて手を伸ばす。
「よ〜し、よし、良い子良い子、怖かったねぇ、みんなひどいねぇ」
「ママ、ママ、ママ、マンマ〜〜〜〜!」
興奮しすぎてイタリア人的な発音になってしまった。
伸ばした私の手をしっかりと掴んで、その柔らかな体に包み込んでくれる女性。
見ずとも分かる。
「おっぱいのおっきいおんなぁぁ〜〜〜!!」
「お、、、おんな?そ、そうだけど、、、困っちゃうな?」
DNAに刻まれたチョイ悪イタリア人の本能が顔を出している。
頭を撫でてくれる手の暖かさと柔らかさが、私の苦難を吸い取ってくれる。
今、私は虫から人間に輪廻転生して生まれ変わる。
「僕の本当のママはここにいたんだ、、、きっと、ママがお母様の胎盤を借りて、僕を産んでくれたんだね、今までどこに行っていたの?」
「えっと、、、ご、、、ごめんね?迎えに来るのが遅くなって、、、」
「本当だよ、、、罰として、そのおっきいおっぱいと長い舌で僕の心と僕の体を包み、撫で回し、舐め回し__________え______?」
ゆっくりとまぶたを開けると、そこには灰を混ぜたベージュの髪と、綺麗な青い瞳、そしてぽってりとした唇の間から常時べろりと枝垂れている長い、長い、爬虫類的な舌。
「あの、、、舌のことは、、、ちょっと恥ずかしいから、、、言わないでね?」
「_________ストレートにエロい。メジャー級の豪速球でエロい。僕のキャッチャーミットが破瓜しちゃう」
「うん?え?うん?まだ混乱しているのかな?」
そうだね、混乱しているね。
転生の意味は、ここにあったね。
僕はここにたどり着くために5年も生きてきたんだね。
その時、部屋の扉がばたんっと暴力的に開く。
「おい!!起きたか!!よし、もう1回特訓だ!!」
「てめぇゴラ!!ガキ!!邪魔すんじゃねぇよ!!」
私は自分の中の攻撃性に驚く。
いつも冷静を保っているこの私が、こんなに本気で怒ることができるなんて。
これが、愛、か。
「おお、さすがノフランの治癒魔法、ギンギンじゃねぇか」
フーフェルが私の横たわるベッドの脇に立って覗き込んでくる。
「萎え萎えだよ!てめぇのせいで!」
「ほう、ゾクゾクするな。あたしはそういう反抗的な目、嫌いじゃないぜ」
「好きな子虐める小学生マインドかてめぇ!女子の持ってるポーチをからかったりするタイプだろお前、そういう奴が一番、許せねぇんだ!!」
「す、、、すすすすすすす好きじゃないしぃぃぃぃ、ちょっと可愛いなって思っただけだしいいいいいいい、お前のことなんて嫌いだよ、嫌い、ばぁーか、ばぁーか、だれが訓練なんてやってやるかってんだよ、ばーかあーほおたんこなーす!」
おお、こいつオリジナリティの欠片もねぇな。
何が番外魔法だ。ぜったい人のパクってる。
私が赤髪の女と睨み合っていると、部屋の空気がどんどんと下がっていくのを感じる。あれ、誰か冷房入れました?ちょっと寒過ぎます。体感温度の違いって、意外に離婚理由になったりするんですよ?
「フーフェル、、、こんな小さい子に、、、酷いことをして、良心が痛まないんですか?」
「___________す、すまん、ノフラン、だ、だがっ____」
「ダガーもアックスもないんですよ、こんな身寄りのない、明らかに虐待を受けてきたような、貧相で、小汚い、薄汚れて、きょどった、生ゴミのような子に対して安息も与えないで、いったい何を考えているんですか?」
ひどくない?
すごいひどいこと言ってるの、気づいている?
愛ゆえ?愛ゆえにそんなこと言うの?
「で、でも、、、こいつは闘う力をつけないと、これからこのくそったれな世界を生きていくのに_____」
ノフランという、この世から隔絶したような美人のお姉さんが、僕のママが、その暴力的な胸を大きく膨らまし、長い舌を乱舞させながら、出し慣れていない掠れた怒声を吐く。
「戦える訳がないでしょう!!!少しは頭を使いなさいよ!!ちょっと考えれば分かるじゃないっ!!クソ雑魚よこの子!!精人でも武人でもない雑魚!!低級精霊とかいう、何の役にも立たないオマケ程度の力ぁっ!!まだ幼いから顔も可愛らしいけど、これに髭生えて、体毛濃くなっても優しくできる?ごめんなさいだけど私はできないっ!!絶対ムリ!!一生ママのおっぱいを吸って生きていくしかない穀潰しなのよ!!!ママ以外には相手にされなくなるから!!だから今だけはもっと優しく扱いなさいよっ!雑魚なんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
あ。
優しくないよ、その言葉。
チクチク言葉のエレクトリカルなんとかパレード。
あまりの精神的ダメージに視界の中に光が飛んでる。
この歳で飛蚊症かな?
このままだと学級会議開かれちゃうよ。そして親が呼び出されるよ。
この子、虐められてるみたいなんですって。
虐めてるの、ママだけど。
二人がその後も何かしらを言い合っているが、私は静かに眠りにつく。
体の傷に加えて、心の傷も回復しないといけないんだから。




