第15話 転生者に会います
「え、イトゥーは何年生まれ?」
「200●年」
「え、めっちゃ歳下じゃんっ!どゆこと?向こうで死んだのは?」
「20●×年で、こっちに来てからは30年経つ」
「うん?僕が死ぬ1年前に死んでるのに、こっち来て30年?」
「そうだ」
「はへ~、なんだろう、時間は自由に弄れるのか、それとも女神にとっては数十年なんて誤差なのか、、、、」
牢屋の檻越しにそんな身辺情報を整理していると、イトゥーは何か空中に指を向けて、すっすっと奇妙に動かす。あれかな、そろばんとか空中で弾くタイプなのだろうか。
「それ、何してるの?」
「あ?ステータスの確認だろ?」
「ステータスって何?」
「え?」
「_____え?」
イトゥー曰く、ゲームのようにステータスというものがそれぞれの個人にはあり、それを転生者は確認できるという。
え、そんなもの知らん。教わってない。
教わるのを待つな、自分から聞け、と新卒によく言っていたものだが、申し訳ないことをしていたのかもしれない。そもそも存在を知らなければ教わるという考えすら出てこないのだから。
確かに前世でもステータスとかいうものは聞いたことがあるが、ゲームなんて娘がしているのを聞いたり見たりしていただけだから、発想もなかった。
「____田中太郎、お前、、、信じられないくらい___」
「待てっ!!言うな!知りたくない!!せめて弱・中・強の三段階で教えてくれっ!!」
考えてみて欲しい。
前世では誰も、自分のステータスなんて知らなかった。だからこそ頑張れるのではないだろうか。自分はまだまだできるとか、もっと隠れた才能が、とか、本当はこんなものじゃ、とか。
もちろん、頑張った分だけステータスが上がるというなら、一定の肯定感の醸成には役立つかもしれない。それでも、成長しているかも分からない、正しい道を歩んでいるのか分からない、その暗中模索の中で努力するからこそ、人生は楽しく、また感動的なのではないだろうか。
それがステータスとして見れるようになってしまったら、何か、ひどく自分の人生に対する冒とくのような気がするのだ。
だから、どんな評価を受けようが、自分には関係ない。
ただ、努力するだけ。
それだけだ。
「____最弱中の最弱、そしてそれでカンストしてる」
「三段階でって言っただろうがっ!!勝手に階段増やすなよっ!あとカンストなんだねっ!!最悪な情報をありがとうっ!!」
絶望だった。
5歳児でカンストってどゆこと?
え、筋力とかは?一生この筋力でいくの?嚥下能力とか大丈夫?
虚無に陥った私をよそに、イトゥーは少しほっとしたように息を吐いた。
そして、
「なんだ、雑魚じゃないか、お前」
「おお、どうした、思春期特有のテンションの乱高下止めろよ」
イトゥーが、同じ転生者だと知ったときの僅かな親近感を脱ぎ捨て、攫ったときのような冷たい表情に戻った。
「お前は同郷のよしみとして見逃してやってもいい、雑魚だしな。ただし条件がある」
「条件?」
同郷のよしみ、とか2000年代生まれの青年が使う言葉ではないようだが、そこにこちらの世界で過ごした時間の長さを感じる。それは切ないような、不思議な気持ちだ。それとは別に、雑魚って言うな、年上に向かって。いや、年下だからいいのか?いや、もっと良くないだろ。
「俺が死んでからお前が死ぬまで1年間、アイドルの____ちゃんは元気にしているか?どうなんだ、あの可愛らしい笑顔は顕在か、それとも綺麗系になってたりするのか、写真集は出たのか?曲は?年末の歌合戦はっ!?」
なんか話が突飛なのと、イトゥーの鼻息がすごい。
ちょっと気持ち悪い。
「いや、47のおじさんがアイドルなんて知って______あ、あぁ、うん、知ってる、すごく知っている」
「なんだ。有名になったのか!映画とか、女優業をずっとしたいと言っていたからな」
「あ、うん。映画には出たらしいよ、それで、、、」
「なんだ、早く言え!!」
「いやぁ、、、知らなくていいことも、、、ある、、、よね?」
「ない!!ほくろの位置、髪を切るペース、よく着るブランド、使ってるシャンプー、彼女に関して知らなくていいことなど1つもないっ!」
きっしょぉーー。
お前が知りたいこと、絶対相手は知られたくないよ。
その辺が気持ち悪いんだよ、おタクって。
余裕と距離感を持てよ、大人なんだから。
でも、良いと言うなら良いんだろう。私は知らんぞ。
「えっと、映画に出たんだけど、それは監督の愛人だからって、週刊誌にすっぱ抜かれて、もちろん不倫なんだけど、それが1人じゃなくて、他の俳優とか、事務所の社長とか、何人も不倫相手いて、金を貰ってたらしくて、、、グループの他のメンバーからも告発とかあって、確か、古参ファンの悪口を1人1人丁寧に書いたデ●ノートみたいなのも晒されて、なんやかんやあって、すぐにAVデビューしたって、ニュースとか、娘が、、、」
「古参ファンの悪口、、、、」
あ、そこなんだ。
不倫とか、AVとかじゃないんだね。そこに関してはファンの鏡だ。
「いや、まぁ、相手も人間だしね、、、そういうことも、あるでしょうよ、人生。あとはそこから何を彼女が反省し、どう生きていくか、だろう?」
「人間じゃないっっっ!!」
えええ。
人間じゃなかったよ。
あれかな、戦時中の天皇かな。
人間宣言まだかな?
「彼女は偶像だ、、、アイドルだぁ、、、。男となんか付き合わない、ないし、会話もし、しししししないっ、男が触ったものもさわ、さわ、さわさわ触らないぃぃぃ、、、ずっとファンのことだけを見て、、う、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!うそだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
発狂した。
このまま第二形態にでも進化しそう。
普通、もっと追い詰められてこうなるんじゃないの?そして巨大化とかするんじゃないの、戦隊物みたいに。
精神的に第二形態に移行することある?
なんか嵐のように風が吹き荒れてるんだけど。
「う、、、うぅ、、、、、くそだ、この世界なんて。くそったれだ、、、ゼンブ汚い、、、美しいものなんてない、、、、、やっぱり皆殺しだ、、、、この世界の奴らも、、、、皆殺しにしてやるっ!!虚仮にしやがってっ!!」
すごい論理の飛躍をしながら、イトゥーは牢屋のある部屋から逃げるように出ていった。
「ねぇ、もしかして、あれがお前にとっての主人公なん?」
私は渦巻く風でその青い髪がぼさぼさになった負けヒロインに声をかける。
その大きな瞳からは、涙が一筋、零れ落ちる。
「____昔は、、、昔は、、、良い人、、、だったんですよ、、、それが、、、どうして、、こんなことに」
「はい、長めの回想入りまぁああああああすっ!!」
私はそれこそAV監督のように、牢屋の中からキューを出した。