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異世界転生して三十年経ちますけど、英雄さん方?なんか状況悪化してません?〜前世より低スペックにされたのでやる気が起きない低級精霊マスターのお話。  作者: 屋代湊
醤油と味醂と酒があれば大体の料理は作れる。だから悲観するな。お前にだってそこそこの料理で食卓を賑わすことはできるのだから。
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第14話 歌います

「いいか諸君、生活感こそ至高なのだぞっ!それが分かってこそ、一人前の男だ!具体的に言えば下着についてだ!いざというとき、ふたを開けてみれば上と下で別のものを付けてしまっていて、それを恥ずかしがるような女が至高なんだ!!だからな、綺麗なグラビア写真で興奮しているようでは真の男ではなぁあああああいっ!!ケツのたるみ、化粧の崩れ、処理し忘れた毛、それら全てが我らの血潮を沸き立たせ、この地に平穏をもたらすのだっ!!!真の美しさは、逆説的にいえば美しさではなぁあああああああいいいいいいいい!!」


決まった。

最早、三島とか角栄の生まれ変わりと言って良いほどの演説をかましてやった。

だが、来るべき群衆の叫びがない。

沈黙である。


「あとはな、飲み物を嚥下するときの音だ!それすら私にしてみれば、性的行為であるっ!!すべてのこの世の女性どもは気を付けろ!私の前で食事をするということはつまぁああありっ!性行為をしたことと変わらないっ!!」


___静寂。

泡沫政党の街頭演説でももうちょっと盛り上がってる。多分サクラだけど。


「ね、ねぇ、君たち?お兄ちゃんが、ないっ!!って断定口調で言ったら、おおおおおっって言ってくれない?寂しいから」


だが、それにすら反応はない。


「う、、、、うるさい、、、ですぅ、、、し、、、静かにしてくださいぃぃぃぃぃ」


青い髪の女が、牢屋の外からもじもじしながら言う。

嫌に露出の多い服を着て。


「黙れ負けヒロイン」


「負けっ!?何をもってして負けなんですかっ!!」


「髪が青い女は負けヒロインなんだと娘が言っていた。それに、無駄にエロい女は三番手以下だと。結論、お前は負けヒロインだ」


牢屋にはもう慣れた。

だって、二度目だから。それも非常に短いスパンで。

出所のときの謝り方、今から考えてた方が良い?

あと顔ね、すごい反省してます顔、あれ大事。


「5歳児に娘がいるわけないじゃないですかぁ!!」


「あとそのキンキン声も止めろ。僕は元来、アニメの無駄に高い声に物申したかったんだ。もっと落ち着いた声を採用しろよ、深夜ラジオみたいな。今日はどのような日をお過ごしになられたでしょうか、えぇ、私はですねぇ、なんとぉ、新しい日傘を買いましてぇ、もう夏も終わりなのに、今?みたいなね、ふふっ、そんな声も聞こえてくるようですが、さっそくお手紙を、、、、みたいなどうでも良い、なんの役にも立たない話をしろっ!!」


「え、、なにそれ、、、えっとぉ、、、その、、、最近、胸のあたりが苦しくて、、、太ったのかなって思ってたんですけど、、、なんか、そうじゃないみたいで、、、」


「ちがぁああああああう!!隙あらばエロアピールをするな!それが負けヒロインたる所以だぞっ!!個別ルートでしか輝けない無能め!!」


私は、娘がよくパソコンでやってたゲームを思い出す。

娘は勉強もできたが、そういうアングラなものも好きだった。

その辺、守備範囲が広くて、さすが私の娘だ。貴賤を問わず、良いものは良いとする審美眼が娘にはある。


「、、、、、うるさい」


それは檻の外の負けヒロインのアニメ声ではなかった。


「なんだ少年、ようやく声を上げる気になったか?」


「少年って、そっちの方が年下じゃん」


「あ、、、、、そうだった、、、ごめんね、お兄ちゃん」


あぶない。

二度目の投獄への苛立ちから、47歳児になってしまっていた。


「いいからもう、黙っててよ」


「なぜですか?」


「殺される、、、みんなみたいに、、、」


「いずれにせよ、ではないでしょうか?こいつらの魂胆は見え見えです。ここにいるのはみな、精霊使いの子供。要するに爆弾です。この負けヒロイン含めた奴らは、きっと帝国の復活とか言って、僕たちを人間爆弾として利用するつもりなんでしょう」


私の推論に、負けヒロインが急に膝をがたがたいわせながら、


「な、、、なぜそれを、、、あなた、、、もしや、、、」


「いや、もしやももやしもないです。別になんでもないです。重要人物とか、そういうんじゃないです。無駄に煽るの止めてくださいね。普通に分かりますから」


青髪負けヒロインは驚愕に打ち震えながらよろめく。

だからそういう劇的な感じ止めて欲しい。

別に大した推論じゃないから。


「それでも、、、止めてくれよ、騒ぐと、あいつが来る、、、」


「ああ、イトゥーとかいう奴?」


「そうだ!!死にたくない、死にたくない!!精霊使いじゃない奴は、みんなバラバラに、、、殺されたんだ!!」


「それはひどいな。でも、お前もそのうち死ぬぞ」


「でもっ!!」


「どうせ死ぬのに黙ってるのか?なぜ?馬鹿なの?アホなの?」


私の言葉に、他の子供たちも暗がりの中で泣き始めたり、喚き散らす。

やっぱり死ぬんだ、とか、ママ、とか。


「おい!みんな静かにっ!我慢しろっ!!そのうち助けが、、、」


「助け?その死んでった奴らに助けは来たのか?来なかったんだろ?」


「でも、、、」


「希望を語って良いのは、行動した奴だけだ。ああ、やっぱり僕は、こういう考え方を変えられないんだ。不幸に浸るな、考え方を変えろ、動け、前を見ろ、それだけだ」


「でも、僕らに何が、、、、」


「簡単さ、確かに、前を見て動けと言うが、何もできないことは確かにある。人間は無力だ。そういうときはな____歌うんだ」


「歌う?」


「ああ、歌こそ、人間に許された祈りの行為だ。だから義務教育で音楽があるんだ。本当に絶望したときでも、歌だけは歌える。ほら、リピートアフターミー?」


私は咳ばらいをして、その美声を披露する。

転生した結果、身体能力他もろもろは雑魚っぽいが、おそらくこの能力は見逃されたのだろう。まぁ、何の役にも立たないからな。

でもな、シゴデキナイ女神、お前は勘違いをしている。

歌こそ、一番重要な、才能だ。

不遇というなら、音痴にすべきだったのだ。

さぁ、歌おう、それこそが人間の崇高さなのだからっ!!


春高楼の 花の宴

めぐる杯 影さして

千代の松が枝

わけ出だし

昔の光 今いずこ


「はい、もう1回!」


徐々に、迷ったような子共たちの声が重なっていく。

二度、三度。


「もっとだ!!晩翠の詩的世界をもっと意識しろっ!!」


なぜか、青髪負けヒロインも合唱団顔負けの表情筋の躍動で歌っている。

テレビの合唱コンクールとかの真ん中にいる奴みたい。

拳が口に入るほど開いている。

なんで?

お前はいいよ。

あれか、メインヒロインの失墜でも祈っているのか?

確かにこれは栄枯盛衰の歌だから。


「いいぞ、哀愁と無常、悠久の時間の流れ、その中の美しさを表現しろっ!!ちょっと男子、ちゃんと歌ってよ、委員長が泣いてるじゃん!」


私は負けヒロインを委員長に仕立て上げる。

すると、アホの子なのか、


「みんなちゃんとやろうよっ!その方が楽しいよ、思い出になるよ!」


とか言ってる。

思い出ってなんだよ。


天上影は 変わらねど 

栄枯は移る 世の姿

写さんとてか

今もなお 

嗚呼荒城の よわの月


「はい、もう1回最初からぁ!!せーのっ!!」


委員長となった負けヒロインが腕を振り上げ、熱量高くそう言ったときだ。


「おい誰だ!!荒城の月歌ってる奴はっ!!!」


イトゥーと呼ばれた男がすごく困惑した顔で牢獄に入ってきた。


「歌うだろ、日本人の魂だぞ、この歌は」


「日本人、だと?」


その時、私は自分以外の転生者がいることを初めて知った。

いや、そんなようなことを言ってたな、女神が。

たくさん送りますから、とかなんとか。

じゃぁこいつ、先輩か。


「お前、もしかして苗字、伊藤だろ」


「お前は、、、テネーカトロとか言ったな、、、」


「ううん。違う。ちゃんと田中太郎って言った。僕が最初に喋った言葉が、あ、田中太郎です、だったのを、母が聞き間違えて、テネーカトロになった」


「あぁ、、、やっぱそうなるよな?」


「なるなる、生まれた瞬間って、なんか一瞬だけ前世の影響残ってるよな、それで田中太郎ですって言っちゃって、でもその後はちゃんと幼児になったらしく、記憶がない」


「分かるわー、普通にもう5歳ぐらいからの記憶しかないもん、こっちのは」


「やっぱそうなん?」


意気投合する二人を、何か恐ろしいものでも見るように、子どもたちが見上げている。

その中で、一人だけ、


「ちゃんと歌ってよぉ、、、このままじゃ、負けちゃうよ?いいの?負けちゃうんだからねっ!!?」


負けヒロインがいったい何に勝とうとしてるのか、その場の誰も分からない。

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