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異世界転生して三十年経ちますけど、英雄さん方?なんか状況悪化してません?〜前世より低スペックにされたのでやる気が起きない低級精霊マスターのお話。  作者: 屋代湊
醤油と味醂と酒があれば大体の料理は作れる。だから悲観するな。お前にだってそこそこの料理で食卓を賑わすことはできるのだから。
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第10話 デートに出発します

「なんだ、精霊使いの戦い方も教えてあげようとしたのに、帰っちゃったんだ、あんたたち仲悪いの?」


イロイがつまらなそうにそう呟く。

よくそんな平然としていられますね。あなた、さっきものすごい痴態を晒してましたが?情報化社会だったらもう生きていけないレベルで。

ただ、彼女の言葉の中に聞き捨てならないこともあった。


「精霊使いの戦い方って、イロイは魔法、、、精人なんじゃ?」


ほら、私はもうお前のこと下に見始めてるよ。ナチュラルに呼び捨てになってるもん。


「お前と違って、うちは優秀だからね、精人であり、精霊使い。ほら__」


イロイがまるで友人でも紹介するように掌を天に向けると、そこには筋骨隆々な大きな男が現れていた。ボディビルダーみたい、というかボディビルダーそのものだ、というのが私のファーストインプレション。褐色の肌に、コーンロウみたいな髪型してる。あれなのね、召喚って叫ばなくてもいけるのね、早く教えて欲しい、そういう大事なこと。


「___おい、女。敵がいねぇじゃねぇか」


「ひうっん!!ごめんなさいごめんなさい、お帰り頂いて結構です」


「結構ですだぁ?呼び出したのは女じゃねぇか、まったく俺様の睡眠を妨げるな、クズが」


「い、いやぁ、、、そんなこと言わないでぇ、涙でちゃう、、、だってうち乙女なんだもんっ、____と、このように天使使いです」


「あれ天使なのっ!?」


一瞬だけ出てきてすぐに霧散していったテストステロンの権化。

プレイみたいな会話はいったん置いといて、私は自分の偏見を反省した。天使って女性、もしくは中性的な存在ばかりだと思っていた。あんなプロテインの奴隷みたいな奴が天使だとは到底思えない、思いたくない。


「そうよ、何か文句ある?」


「い、、、いや、、、でも、、、天使ってことは、すごいんじゃ?」


「ええ、すごいわ。大天使使いとか魔人使いなんてほとんどいないから、実質最上級の精霊使いよ、うちは。それもかなり希少な」


「でも精霊使いって、弱いんだよね?」


「ええ、そう」


「あんな湘南のビーチかゴール●ジムでしか見ないような大男でも?」


「精霊使いが弱いのは、精霊が弱いんじゃないの。精霊使いが弱いのよ」


「うん?同じことでは?」


「全然違うわよ、精霊っていうのは、例え低級精霊や魔物であっても、本来は人間なんかより圧倒的な存在なの。でも、その使う側のキャパシティがそれに追いついてないの、だから弱いの、無能なの、雑魚なの」


入力側ではなく、出力側に問題があるということか。

なんとなく分かるぞ。

ただ、


「でも、だとして、なんで精霊が人間より圧倒的って分かるの?だって精霊使いを通さないと、この世に顕現できないんでしょ?」


私の質問に、イロイが少しだけ唇を噛む。そしてノフランの方を伺うように見た。


「教えてあげて、イロイ。いずれ知ることだし、知っておいた方がいいと思うの。テネーちゃんは賢いから、大丈夫よ」


ママに背中を押されて、イロイは私の顔を真剣に、これまでにないすっと通った目で言った。


「精霊が単独でこの世に存在できる方法が1つだけあるの。でも、絶対にやっちゃだめ、約束できる?」


「___うん、大丈夫、イロイ」


「そう。絶対よ。あのね、、、」



____精霊を召喚した状態で、精霊使いが自死する、それが条件。



「でも、絶対に駄目。お前の命がどうとかじゃない。精霊使いというくびきが外れたその力は1国をも亡ぼす。低級精霊程度であっても町が消える」


おいおいおい。その方向性の才能はちょっと、不穏だ。

つまり、それじゃぁ、、、


「つまり、待って、、、、、、え、、、もしかして、精霊使いって、迫害されたり、殺されたり、、、監禁されたり、、、しないよね、、、?」


そんなに危険な存在、国が放っておくとは全く思えない。

聞く限り核爆弾みたいなもんじゃないか。


「ふ~ん、師匠の言うように賢いのね。そうよ、国家にとっては危険な存在でしかない。もちろん敵に対しては有用すぎるけど。でも、いくら敵とはいえ、そこに住む人も土地も破壊尽くしたら、戦争する意味がない。奪う物自体がなくなるんだから。だからね、国によっては精霊使いと判明した時点で殺されるところもあるし、丁重に飼われるところもある。まぁ、通常時無能で、いざというときは強力すぎる力だから、まず人に好かれることはないわね」


おーい。やってるよこれ、やってます。

不遇ってそういうこと?

やばいじゃん。

シゴデキナイ女神に言われなくてもニート生活するしかないじゃん。目立ったら終わりじゃん。


「ちなみにこのザミヘル共和国は、、、?」


「今は精霊を出しづらくなる強力な魔法をかけられてから人民軍に強制入隊ね、死ぬまで」


「就職活動終わった、ES書かなくても受かっちゃったよ、ばんざーい。いえーい」


「いえーい」


イロイと謎のハイタッチをして、私は膝を抱え込む。

え、人民軍って、公務員?

私、こっちの世界でも公務員なん?


「ちなみに入隊を拒んだら?」


「死刑」


「死刑なんだ」


「うん死刑」


やっぱりニートになるのは難しいってことですね、はい。


▲▽


翌日のことである。

イロイは今、休暇中とのことで当面この義賊団の城に泊まっていくとのこと。

軍の人が義賊と関わっていいの?という疑問はあるが、まぁ私の知ったことではない。


「我が息子よ!!どうした!!そんな蛇に睨まれたカエルのように立ち竦んで!!もっと打ち込んで来い!カエルが蛇に立ち向かうようにっ!!」


どういう状況だそれは。

だが、そうだ。

弱いなりに、手を止めてはいけない。

私は木剣を持って、何度も何度も、パパ、そうドダイに向かっていく。


「いずれ、僕は、、、パパを超えるっ!!無能でも、超えて見せるんだ!!」


「そうだ、その調子だっ!!トンビが鷹を生むこともあれば、トンビが鷹になることもあるのだっ!!!お前は鷹になりたいかっ!!」


「なりだいっ!!!」


「じゃぁトンビから生まれてみやがれっ!!」


「それができるなら普通に鷹から生まれたいっ!!」


私はこれでもかというほど吹き飛ばされながら、至るとこに痣を作っては立ち上がる。早朝稽古というやつだ。

魔法が使えず、最終手段が核爆弾的な終末兵器しかない私は、地道にこうして頑張るしかない。

だが、この身体、圧倒的に覚えが悪い気がする。

前世の私はどんな運動でもすぐにできた。短距離はもちろんのこと、長距離も、跳躍系も常に学年トップだった。球技だってある程度練習すれば出来た。

5歳児の通常の身体能力なんて知らないが、なんとなく、このテネーカトロは平均以下な気がしてならない。

稽古は言ってしまえば、ただ私がドダイに飛び込んでいき、いなされる、それだけだ。

ほとんど気絶の一歩手前というところまできたとき、


「よし、素晴らしいぞ我が息子よ、よく最後まで諦めなかった」


「パパ、、、強いんだね、、、」


「それはそうさ、毎日こうして訓練しているんだぞ、何十年とだ。流れる水が石を丸くしていくように、涓滴けんてきでも岩を穿つことはできるんだ、立ち止まるなよ、息子よ。あとはママに傷を治してもらえ」


「はい!!パパ!!」


私はパパに一礼して、それから中庭をノフランママのところに向かって走っていく。

朝日の中、日傘のようなものを差して息子の頑張りを見守るその姿は、まさにママ中のママだ。

近づくほどに日傘の影が徐々に上がっていく。

と、そこにいたのはママではなく鬼、もとい蛇だった。


「テネーちゃん、あの人をパパと呼ぶのを止めるか、私をママと呼ぶのを止めるか、1秒で選びなさ___」


「パパと呼ぶのを止めます」


まさに蛇に睨まれたカエルのように私は直立不動でそう答えた。


「そう、そうしてください。あれと夫婦みたいになるのであれば、ママは死にます。ママに死んでほしい___」


「死んでほしくないです、パパと呼ぶのを止めます」


「うん!テネーちゃんは偉いね、ママの自慢だよ」


「ままぁああああああ!!」


これからはドダイのことは兄貴か師匠と呼ぶことにしよう、そうしよう。

ママの愛を失うのが怖いんじゃない。

命を失うのが怖いんだ。

ママに死んで欲しいのか、と言っていたが、絶対違う。

死ぬのはこっちだ。


「今日は確か、午後からイロイとお出かけだったんですよね?」


「はい!まだ町を一回も見たことないって言ったら、連れてってくれるそうです」


「じゃぁ、おデートだ」


「そうなりますかね?」


「だって、婚約したんだもの、そうでしょう?」


「____そうで、、、す」


そうだった。そうなのだ。

昨晩は妻に謝罪をし続けながら眠りについたのだ。

ブラウンのゆるふわショートカット、髪に似た茶色の瞳の少女が、この世界での私の妻になる。まぁ、ノフランやフーフェルよりは親しみやすい。見た目だけで言えば。

そして、彼女は学生であり市民軍の兵だと言う。

私も精霊使いであるから、就職先は市民軍になる。

あれ、ダブル公務員?いずれはパワーカップルなのか、これは。

経済的には安定かもしれない。この国の治安具合は全く知らないけど。


▲▽


「いい?ハンカチは持った?帽子は外しちゃだめよ、あとこれお金。何か困ったことがあったらイロイを頼るんですよ、いいですか?」


ノフランは膝立ちになって、彼女が用意して着せてくれたシャツの襟をぴっぴと整える。それから私のことをぎゅっと抱きしめた。

ママ過ぎる、、、。

これがママ。


「う、、、うぅ、、、こんな、、、こんなお出かけは、、、は、初めてです、、、いつも、お尻を蹴られて家を出てた、、、というか追い出されるばっかりだったから、、、」


「うぉおおおおおおおおおおおいじらしぃぃぃぃぃぃぃぃいぃ!」


フーフェルは今は無視でいい。この幸せな時間においては雑音でしかない。


「あらあら、もうハンカチを使わないといけないですね。こうしてしっかり服を着ると、どこかのおぼっちゃんみたい、かっこいいですよ」


「あ、、、ありがとうママ。お土産買ってくるね」


「気にしないで楽しんでいらっしゃい。安全に、無事に帰ってくるのが、ママの喜びなんですから」


ママ、決意したよ。

イロイと結婚しても、ぜったいママと一緒に住む。

昨今の核家族化なんてクソくらえだ。ありがたいことに、イロイはママのことを師匠と崇めているから、嫁姑問題もない。

イロイはイロイで、黄色の鮮やかなフレアワンピースを着ていて、馬子にも衣裳という奴だ。こうしてみると、胸は薄いがスタイル自体は悪くない。腰の位置が高いのか、そもそも身長も高めだからか、モデル体型と言われればそうな気がする。


「ほら、いつまで抱き合ってんのよ!!師匠から離れなさい!!行くわよ!!」


「ママ、、、、ままぁあああああ!」


「気を付けてね、、、ぐすっ、、、、、いってらっしゃいっ!!」


ノフランが手を振りながら、涙声でそう言う。

周りにカメラマンとかいないよね、初めてのお●かいじゃないよね、これ。

ビニール袋には気を付けないと、あれ、引きずって破れるのがお決まりだから。

私はまさに初めてのお出かけに、内心わくわくしていた。

ようやく異世界の姿を、この目で見ることができるのだから。


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