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神様はざまぁをお望みです

作者: 黒猫ている

最後に覚えているのは、馬車の窓越しに見た、剣や槍を振りかざす荒々しい野党の群れ。

御者の叫び声と共に馬がいななき、馬車が急発進した直後――、


「うわあぁぁ!」

「きゃっ!?」


馬車は崖下へと真っ逆さまに転落していく。

激しい衝撃が全身を襲い、私は命を落とした――はずでした。




「……ここは、どこでしょう?」


気付いた時には、私は見知らぬ空間にふわふわと漂っていました。

漂うという表現が、正にピッタリでしょう。

身体が羽のように軽い……ううん、事実私の身体には羽が生えていました。


ここはいわゆる死後の世界なのでしょうか。


「君は殺されたんだ」


ふわりと、私の前に降り立つ姿。

白い薄布を纏った、神々しい青年。


「殺された?」

「そう、国王である君の夫と、不貞相手の君の妹によってね」


青年が苦々しげに吐き捨てます。


「そうだったのですね……」


私は小さく息をついた。

胸の奥に、僅かな痛みが生じた気がしたけれど、不思議とそれ以上の怒りは湧いてこなかった。

私の言葉に、彼は眉をきつく寄せました。


「君はどうしたい? 俺の力をもってすれば、どんな仕返しだって可能だ。このまま天使として地上に降り立つことも、時を巻き戻してやり直すことだって出来る」

「どうして仕返しをしなければならないのでしょう」


私が首を傾げると、青年はさらに身を乗り出してきました。


「だって、悔しくないのか!? 君は二人に騙され、罠に嵌められたんだぞ!! これからあの二人は何食わぬ顔で君の葬儀を執り行い、喪が明けたらあの妹が後妻として新たな王妃の座に就くことになる」

「そう、二人は想い合っていたのですね」


陛下とは、政略結婚の間柄でした。

今にして思えば、陛下を見つめる妹の目はキラキラと輝いていた。

そうか、あの子は陛下を慕っていたのね……気付いてあげられなくて、ごめんなさい。


「私に代わって妹が陛下と国を支えてくれるなら、それに勝る喜びはありませんわ」

「んな……っ」


青年が目を見開き、硬直する。

そんなに驚くようなことを言ったかしら。


「どうして……君は長年夫には冷遇され、妹にも虐げられてきただろう」

「冷遇と言われましても、政略結婚の妻など、愛情の抱きようもないでしょう」


青年の言葉に、苦笑が浮かぶ。


「妹だって、長年王妃になる為に私ばかりが優遇されてきましたもの……私を恨んでいても仕方ありません」

「そんな!!」


声を荒らげる青年に、笑顔を見せる。


「私の為に怒っていただき、有難うございます。でも、私は平気ですのよ」


これは紛れもない本音だ。

二人が共謀して私を亡き者にしたという事実を知った今でも、二人に対し恨みを抱く気にはなれない。


「どうして……」

「だって、恨んだところで何も変わりませんもの」


青年の顔は、これまでにないほど驚愕に満ち溢れていた。

ふふ、コロコロと良く表情の変わる御方だこと。


「では……何か望みはないか? 俺に出来ることなら、君の望みを叶えてあげたい」

「そうですね、でしたら息子が無事に成長して、幸せに生きられますように」


唯一心残りがあるとすれば、王宮に残してきた八歳になる息子のこと。

息子の小さな手が私の指を握りしめ、「母上、行ってらっしゃいませ」と言ったあの朝の光景が鮮明に甦る。

王子として今でも何不自由なく王宮で暮らしているが、私が居なくなれば、肩身が狭い思いをするかもしれない。


「もしここが死後の世界であれば、息子を見守ることを許していただければ幸いです」

「こんなにも欲のない人は、初めてだ……」

「あら、欲ならありますわよ」


彼の言葉に、ふわりと微笑む。


「私ではなく、私の息子と、臣民達を幸せにしていただきたいのです」

「それが君の望みならば、別にいいけど……俺は、君にも幸せになってほしかったのに」

「息子の幸せが、私の幸せですから」

「どうしてそんなに穏やかなんだよ……」


青年が困惑気味に頭を掻いた。




後から知ったことですが、彼はこの世界の管理者だそうです。

管理者というのは、世界を司る神のような存在。

てっきり私達を見守ってくださるのは女神様とばかり思っていたのですが、管理者も代替わりするんですって。

「今は俺が管理しているんだ」とのことですが、神様の世界にも色々あるのでしょうか。


私が彼の提案を断り、天使となって祖国を見守る決断をした様子の一部始終は、なんと全国民が夢に見たそうです。

陛下と妹の目論(もくろ)みは広く知れ渡り、断罪を受けた二人は生涯塔に幽閉されることが決まりました。

そんなことは望んでいなかったのですが、天使()の加護を受けた王子(息子)が成人するまで王弟殿下が摂政として補佐してくれることになりました。


若き王となったあの子の未来には、これから多くの困難が待ち受けていることでしょう。

仕返しよりも、広い世界に羽ばたいていく我が子を見守ることこそが私の望み。

これ以上多くを望むことはありません。


「俺は望んでほしかったんだけどなぁ……」

「今のままで十分ですよ」


良き話し相手に恵まれて、地上で息子が頑張る様を見守れる。

これ以上幸せな死後の過ごし方があるでしょうか。


管理者様の愚痴を聞くのも、楽しくなってきましたしね。

そう、人生とは案外、思いがけない幸せに満ちているものなのでしょう。

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