酒場
ギルドを出てすぐ、酒場がある。ガンテロンは、むしゃくしゃしていた。いくらなんでも理不尽すぎる。あの受付は、仕事をまっとうしていない。酒でも飲まないとやってられない。酒場に入り、カウンターに座るとガンテロンは、ミツバチ酒を頼んだ。辺り見渡す。まだ人はいない。そんなに日が暮れていないのか。ガンテロンは、出されたミツバチ酒を思いっきり飲みほした。口の中で弾け、酔いが一瞬で回る。喉あたりで甘さが広がる。この高揚感は、他の酒では味わえない。ガンテロンは、もう一度ミツバチ酒を頼んだ。
それから何杯も飲んでいると気づけば酒場は、賑やかになっていた。酔っている状態は、これくらいのうるささが丁度良い。ガンテロンは、本日10杯目を迎えようとしている。少し飲み過ぎであった。11杯目の差し掛かった時、横から話しかけられた。
「おいおい 大丈夫かあ? お前」
ガンテロンは、この声に聞き覚えがあった。声の聞こえた方向に顔を向けるとかつての戦友がいた。
「おおおう! ギガスじゃないか!! 一緒に飲もう」
「テンションが、高いなぁ。だいぶ酔っ払っているじゃないか。」そう言うとギガスは、マネキズ酒を頼み、ガンテロンの横に座った。
「で、最近何してるんだよ」ギガスは、飲みながら聞いてきた。
「何もだよ。何も、 今日冒険者ギルドに行ったんだが、なれなかった。冒険者。」
「お前冒険者になるつもりだったのかよ!」
そう驚き、酒をちびちび飲み始めた。「冒険者には、なれないよ。俺たちは。」
「なんで俺たちはなれないんだあ?」
「多すぎるんだよ。戦争帰りで冒険者目指すやつが。特に第一次征服戦線終結で帰った奴らが多いんだとさ。」ギガスは、またチビチビと酒を飲み、ガンテロンの方を向いた。
「だから、第二次征服戦線まで残ってた俺たちには、もう席がないってことさ。おまけに戦争終結はもう2年前だ。いくらなんでも遅すぎぜ。ところでこの2年間どうやって生きてきたんだ?」
「貯金を切り崩してさ。戦争時代は、全然使ってなかったから」
ガンテロンは、いい感じに酔いが回ってきたと思ったが友人の話を聞き、一気に気分が悪くなった。現実を直視せざるおえない。冒険者になるなんて最初から無理な話であった。なのにガンテロンは、そこに希望を抱いてしまった。なんとも愚かな話だ。ガンテロンは、自分を貶した。こうなったらやけ酒だ。この時ガンテロンは、家で待つティファの存在を完全に忘れていた。
ガンテロンは、酒を飲みながら友人ギガスを見た。ギガスの様子はとても戦争帰りとは思えない。悠々としていて余裕があるように見える。焦るガンテロンとは、大間違いであった。
ガンテロンは、ギガスに聞いた。すると
「ああ。ちょっといい仕事をもらってね。稼がせてもらってるぜ。」ギガスは、突然辺りを警戒し始め、小声で呟いた。
「実は、地下で護衛の任務に着いてる。大悪党たちのね。」
「犯罪組織についてるのか!?おい!冗談やめろよ!」ガンテロンは、驚き、声が大きくなったがすぐに抑えた。「大丈夫...なのかよ」
「かなりイカれた野郎がゴロゴロいて生きた心地がしない。だが、その代わり稼げる。重要なのは、そこだ。稼げる。そこでだが。お前に話がある。今日俺とお前が再開したのは偶然じゃない。」ギガスは、目を細めた。「ボスに命令されたんだ。お前をスカウトしろって」
ガンテロンは、ギガスの顔を凝視した。
「なぜ俺を!?いや、そこはいい。俺をスカウトしろって。俺に犯罪に加担しろってか!?ふざけるな!そこまで落ちぶれてないぞ!ギガス!」
「驚くのはわかる。だが、このまま職を探し続ける気か?どうせどこも雇ってくれないぜ。それにあの拾った少女と住んでるんだろ?お前には、責任が生じてるんだ。つべこべ言ってられる状況じゃねえだろ」
ガンテロンは、ハチミツ酒を飲んで飲みまくった。聞きたくなかった。しかし、友人の言っていることは一理ある。しかし、だからと言って犯罪に関わるのは御免だった。
どうすればいいのか。
「今考える必要はない。だが、会って欲しい人がいる。俺の雇い主だ。」ギガスは、マネギズ酒を飲み干して言った。
「詳しい話はそれからだ。」
勝手に話が進んでいる気がする。ここで断れなかったらどうなるのか?ガンテロンは、拒否しようとした。しかし、できなかった。
心のどこかで職にありつけると喜ぶ自分がいた。ティファに顔向けができない。
その時ガンテロンは、気づいた。ティファが、自分を待っていることを。
「ギガス。俺は帰る。今日はありがとう。」
「そうかい。俺はここで待ってる。なるべき早く来てくれ。俺の首もかかってるんだ。いい返事がもらえるのを期待している。」