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第1章

 ―じゃり…じゃり…じゃり…。落ち葉が混じる砂利道を、1人の男が歩いていた。

「……ふぅ」

 男はほっと息を吐き、立ち止まって上を仰いだ。無数の木々から伸びた梢が頭上で自然のアーチを形作っていた。その隙間から木漏れ日が覗く。

 その眩しさに目を細めながら手の甲で額の汗を拭う。今男が歩いているのは小さな森の中。太陽の位置的に時刻はまだ午前であろう。歩き始めてから既に30分程経っているが、森はまだ先に続いているみたいだ。

 何故男が何もない森の中を歩いているのか…。その理由は―

「―おーい?何をぼ〜っとしているんだい?まさかもう疲れたのかい?」

 男の前方から呑気な声が届いた。…声の主が理由の一つでもあるのだが…。男が黙っていると、声の主―茶と黒の毛が混じり合った体長15cm程の小さなリスはさらに言葉を続けた。

「それとも罪悪感に打ちのめされてしまったのかな?」

「……行くぞ」

 少々図星だったので、悟られないよう無視をする。…そもそも、何故リスが喋っているんだ?聞きそびれてしまったな。その内に絶対に聞いてやろうという決意をしながら、男は黙って先を急ぐ。

 さらに暫く歩いた頃、ふと遠くの方で物音がした。森の中では決して聞かない様な音と、声。…感じからして、誰かが争っているのか…?

「…何やら前方の方で誰かいるみたいだね。行ってみるかい?」

 いつの間にか男の肩に乗っかったリスが、そう問いかけた。

「いや。どうせ誰かが野生獣でも狩っているんだろう。先を急ごう。次の目的地まであとどれくらいだ?」

 リスが言うには、((?))は友人を殺してしまったらしい。俺からリスに話したらしいのだが、何故かそのことを忘れてしまっている。その友人が消えた理由を聞いても教えてもらえず、とにかくリスに言われて元いた場所から一刻も早く離れなければならない。なにせ男はひとを殺してしまっている、今誰かと出会うのは危険だし、友人の所在をつき止めなければ。

 突然、前方の状況が激カして悲鳴に変わった。

「…!……」

「君が想像しているよりも悪化しているみたいだよ。本当に行かないのかい?」歩きながら肩頭(けんとう)のリスが言う。

「…俺の今の状況を知っておきながら、何を言う。早く探さないと―」

「でも行かなければと君の(さが)が言っている。…ねぇ?元()()()?」

「…っ!なぜ知っている!?それも俺が言ったのか?」

 驚いて大声を出す男に、肩に止まっていたリスはピョンと飛び降りて少し進んだのち、振り向いて言う。

「さぁ、どうだろうね。それよりも、早く行こう。…大丈夫さ、まだそれほど君のことは広まってないはずさ、結構離れたからね。それに次の街まで行くには、声のした方を通らなきゃいけない」

「…っ。…くそったれ…!」そう言うと男は勢いよく駆け出した。

 このリスは何を知っている?何者で?なんで着いてくる?……思考がまとまらない

 走る。走る。走る。

 何のために?((?))には関係の無い事なのに心が叫ぶ 《助けに向かえ!》…と

 生い茂る木々を抜け少し開けた草むらに出た。

 そこに居たのは大きな角の生えた1つ目で上裸の大男。大男は腕よりもでかい棍棒を振り回している。

 そいつに対峙するのは貧弱な身体つきをしている4人の人間。駆け出しの冒険者だろうか?内1人はもう瀕死で動きそうにない。だが、杖を持つ白髪短髪の少女が号泣しながら何かを瀕死の彼に唱え続けている。

 大男がトドメだ!と言わんばかりに棍棒を杖の少女に振り下ろす

 ほか2人も膝を震わせ立ち尽くすのみ

「何をしている!」

 傍観者であった((?))だったが。想いに反し口に出していた。

 すると、少女に当たる直前で棍棒がピタリと止まる。大男がこちらを向く。途端棍棒を置き跪いたのだ。

「王よ…」

 確実に大男から((?))に向けられた言葉だった。わけがわからない。どうなっている。

「な、なんで…こんな所に魔王が……」

 冒険者のリーダーらしき赤髪の男が俺を見て言う。何を言っている?元とは言え勇者だぞ。なぜそんな言われ方をしなければ―

「殲滅だ」

 ?口が勝手に言葉を発した。

「仰せのままに」

 次の瞬間赤髪の頭が吹き飛んだ。いや、刹那だった。ほかのメンバーも声出せぬまま叩き潰された。

 大男はゆっくりと目の前に戻ってきてまた跪いた。

 許せないと激情した。その後のことはあまり覚えていない。ただ、あの大男をズタズタに斬り裂いたという事実がそこにあった。

 大男はあまりにも無抵抗で静かだった。斬られる事を受け入れているかのようで。それも奇妙で許せなかった。

 どんな顔をしていただろうか。

「行こう…」と一言。

 リスは少し前を歩き始めた。


 —5年前。元・自由帝国ウェスタル。俺の故郷であり、魔王城である。

「……勇者よ…。…よくぞここまで来たな…」

 全身黒ずくめの禍々しい鎧を着た男が声を発す。胸には剣が突き刺さり、背中側まで貫かれていた。

「…はぁ…はぁ…」

 勇者と男は近距離で対峙しあう。短髪の黒髪や服は激しく乱れ、お互いに傷まみれであるが、相手の男の顔は兜で見えない。

「……ふっ。お互い、瀕死だな…。ごほっごほっ…」

「…あぁ。お前はもう終わりだ。そして俺は生き残ってみせる」

 剣を胸に突き刺したまま、兜の向こうにある顔を見すえる。くぐもった荒い息遣いが聞こえる。もう何も出来ない筈だ。両腕を斬り落としたのだから。

「…そうだな。…長い間生きてきて今までに殺した勇者は49人。…君が50人目になるはずだったが…。褒めてあげよう…勇者よ。君は真の勇者だ…あぁ…何という巡り合わせ…」

 そう言うと、鎧の男は後ろに倒れ込んだ。剣が抜け、地面に倒れた際に兜にヒビが入り真ん中から左右に割れた。

「……!!」

 兜の中の顔を認めた瞬間、俺は目を瞠った(みはった)

「―…お前が…いや…君が…魔王だったのか……?」

 それは…たった一人の友人―


「―どうしたんだい?立ち止まって。次の街へ急ぐんだろう?」

「…っ!」

 ここは…?そうか。森を抜け、歩き、目的の街の正門近くまで来ていた。くっ…、頭痛がする。俺は一体何をしてたんだ…。

 ―君は、あの時に死んだ。俺が魔王である君を殺した。そして昨日、森で…また君を殺した…?今度は人間の君を。そして消えた。さっきの冒険者がこちらを見て言った言葉は…。

「―あいつを探す意味って…あるのか…?きっと、何かの間違いだ…。……それより変装…しておくか…」

 そんな俺を、リスはただ静かに見上げていた。

 ((?))は歩きだした。

 暫くしてリスがまた肩に登って言う。

「もうそろそろ見えてきてもおかしくないと思うんだけどなー」

 俺は黙って歩き続ける。

「なぁ、おまえはこの先にある獣王国家ティグリオンについてどこまでしってる?」

 リスは独りでに語り続ける。

「獣王国家ティグリオンは獣王ティグリスが治める獣の国!と思われがちだけど実は多種多様な種族が住みやすい国造りを政策に掲げてる由緒ある国なんだ。もちろん人間や魔物も暮らしてるって噂だぜー。」

「向かうのは端の端の街だがな」

「そうだけどさぁ〜、もっとテンション上げてこうぜ?獣王国だよ?リス仲間もいるかもだよ〜!」

 リスが膨れながら言う。

 っとその時―ビーーー―異様にでかいアラートと共に放送が鳴り響いた

『北西部で膨大な魔力反応検出!推定魔王級!!獣民の方は直ちに避難を!!獣民の方は直ちに避難を!!』

 突然のアラートのうるささに、思わず俺は顔をしかめた。

「流石は獣王国家!防衛システムもぬかりなしだな!はて、魔王級の魔力反応だってさ、ぼくたちも逃げた方がいいんじゃない?ね?ね?」

 と、肩にいるリスが何か意味ありげな表情を含んだ顔で、そう言った。

「(こいつ…。絶対分かってて言ってやがる。その手には乗らねぇぞ。…つかこいつ、こんな喋り方だったか?勝手に仲良くなったつもりでいてやがるな…。)いや、主街地には用はないんだし。…それに何かの間違いだ。気にせず行くぞ」

 警報(アラート)がいまだ大地に鳴り響く中俺はついに獣王国家ティグリオンに到着する。

 巨大な石造りの大橋が伸びた先に、これまた大きな門構えが待ち受けていた。さらにその門を貫くように彼方には壮大な建物が縦に伸びている。趣の違った建物の形がここからでも見てとれるが、これは先ほどリスが説明した通り、多種多様な種族が獣王の名のもとに共存できる国造りをしているためだ。

 ―ここには腕に覚えのある者達が数多くいる。…俺も勇者として過去にここを来て仲間を探しに来たっけか…。当時から獣王ティグリスは長らく不在と聞いていたが、果たして今はどうだか…。

 そんなことを考えながら王国の壁沿いを歩く。

「―おっ、警報が鳴り止んだね!」

「…だから言ったろう。何かの間違いだと。…そもそもこの国にこんなシステム―」

「―んっ?誰か来たみたいだよ?」

 リスの言った通り、すぐ後方でドンッ!と音が鳴った。何となく嫌な予感を抱きながら、後方を見やる。すると。

「あんたが魔王だな?そっちから出向いてくれるなんて、優しいこった!」

「随分舐められたものね!たった一人で私達勇者パーティをどうにかできるとでも?」

 豪奢(ごうしゃ)な鎧を身に纏った男の戦士と魔法使いらしき女が口々にそう言った。―いや、舐めるもなにも、お前達がこっちに来たんだろ。

 それよりも気になるのが女が言った言葉。勇者パーティだと…?

「…君達、何か勘違いしているぞ。俺は魔王ではない。俺は―」

「―君は魔王だよ。―そして勇者である僕が、君を止める」

 勇者パーティ二人の後ろから歩み出てきた人物の声に俺は唖然する。

「―何故…。……何故お前がここにいる…?」

 そこには確かに俺の手で殺めた()が、いた。

 そしてさっきまで方の上に乗っていたリスもいつの間にか消えていた。

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