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【短編】世の中やっぱ顔でしょ

作者: 柊れい

私、相田みなみ。中学3年生で、そろそろ大人の恋に憧れてる年頃。クラスの男子はみんな子供っぽいし、なんかもう「恋愛」って感じじゃないんだよね。夢見るのは、白馬に乗ったかっこいい大人の男性が、運命的に私を迎えに来ること。不良に絡まれてるところを助けてもらって、ドラマみたいに「大丈夫?」って言われる…そんな出会いを想像してた。


でも、その日目が覚めた場所は、なんと森の中。しかも見たことない植物ばっかり。え、これ夢?だよね?そう思って思いっきり頬を叩いたんだけど、痛い。うそ、夢じゃないの?


とりあえず、どこにいるのかも分からないし、少し歩いてみることにした。あたりは静かで、風の音だけが響いてる。いや、待って。あれ、何かいる?


すると突然、変な生き物が私に向かって走ってくる。見たこともない姿で、なんか不気味。慌てて逃げ出す私。でも足がもつれて、転んじゃった!やばい、絶対に追いつかれる!


その瞬間――


「そこまでだ!」


え、何?声が聞こえたかと思ったら、私の前に現れたのは…王子さま?いや、違う。なんか違う。え、これ…ゴブリン?ちょっとアニメとかで見るやつに似てる。とりあえずそのゴブリンが、私を襲ってきた生き物をあっさり倒してくれた。強い。


「大丈夫か?」


「う、うん。ありがとう…」


いや、ちょっと待って。これ私が望んでた展開じゃないんだけど。もっとこう、かっこいい人が現れるはずだったのに。ゴブリンて。




++++++++++



「あ、あの…本当にありがとう」


とりあえず礼を言ってみる。そりゃ、助けてもらったんだから感謝はしないと。でも、どうしてもそのゴブリンの姿が目に入るたび、私の中で何かが違うって思ってしまう。


「うむ、これでお前は無事だ」


そう言って満足げに頷くゴブリン。身長は私より少し小さめで、灰色の肌に大きな目、尖った耳。どことなく親しみやすい表情をしているのに、どうにもその顔が受け入れがたい。いや、別に嫌いとかじゃないんだけど…ただ、私の夢に出てくる王子様像とは程遠いというか。


「それより、ここってどこなの?」


気を取り直して、今の状況を確認することにした。だって、目覚めたら森の中だし、見たこともない生物に襲われるし、何もかもが意味不明すぎる。


「ここはエルシルの森。異界だ」


「え、異界?」


「そうだ。お前がどうしてここに来たのかはわからぬが、エルシルの森は外の世界とは別の場所だ。だが安心せよ。私がいる限り、お前に危険はない」


いや、そう言われても安心できるわけないでしょ。異界って、もう完全にファンタジーの世界じゃん。これはやっぱり夢?でも頬叩いたときの痛みはリアルだったし…


「それで…どうすれば元の世界に帰れるの?」


とりあえず最も重要な質問を投げかけてみる。早く帰らなきゃ、学校にも行けないし、友達だって心配するだろうし。


「ふむ、それは私にもわからん」


は?そんな簡単に「わからん」とか言わないでよ!いや、まあゴブリンだし、人間の世界のことなんて知るわけないか。


「だが、道はきっとある。私が助けてやる」


そう言い切るゴブリン。うーん、なんだかんだで頼もしいところはあるのかもしれない。見た目はともかく。うん、見た目は本当にともかくとして。


「ありがとう、助かる…けど、どうして私を助けてくれるの?」


一応気になって聞いてみた。だって、理由もなしに助けてくれるなんて普通はないよね?


「それは…運命だ」


「は?」


運命?なんか今、よく分からないこと言ったよね?まさかこのゴブリン、私に運命感じてるとか、そういうこと?


「お前はこの森に現れた時、私にとって特別な存在であると感じた。だから、守らなければならないと思ったのだ」


「いやいやいや、待って。それってどういう意味?」


「つまり…お前が気になるということだ」


「えぇぇぇっ!?ちょっと待って、私ゴブリンに惚れられてるの?」


何その展開、聞いてないんだけど。私はかっこいい王子様が現れて助けてもらって、運命的な恋に落ちるはずだったのに。しかもゴブリンって。


「お前は私に救われた。それは運命の繋がりだ。だから、私と一緒にここで暮らそう」


「いや、無理無理無理!私は元の世界に帰るんだから!」


焦りまくって全力で否定する。こんな異界でゴブリンと暮らすとか、ありえないでしょ!もっとこう、現実的に考えてよ!


「だが、私にはお前を守る義務がある。お前は私に感謝していると言った。それはすなわち、お前も私に惹かれているということではないのか?」


「えっ?違う違う、助けてくれたことには感謝してるけど、惹かれるとかそういうんじゃなくて…」


もう、どう説明したらいいのかわからない。この状況、誰か助けて!


「ならば、これからもお前を守っていこう。そうすれば、いずれお前も私に心を開くはずだ」


「いや、そういう問題じゃないんだってば!」


必死で説得しようとするけど、ゴブリンはまったく聞く耳を持っていない様子。どうしてこうなったの?なんで私、こんな異界でゴブリンに求愛されてるの?


「さあ、これからも危険な目に遭うかもしれん。私が常にそばにいよう」


そう言って、ゴブリンは勝手についてきてしまう。ああ、もうどうすればいいの?早くこの世界から帰りたい。


そう思いながらも、またしても襲ってくる謎の生物を、ゴブリンが鮮やかに倒してくれる。何度も助けられるうちに、感謝の気持ちは増していく。でも、それと恋は別だって!


「助けてくれるのは本当にありがたいけど、私が求めてるのは…もっと違うタイプの人なの!」


言い訳するように叫んでみるけど、ゴブリンは笑顔を崩さない。


「お前がそう思うのは今だけだ。いずれお前も私の心を理解するだろう」


「絶対にない!」


そう、絶対にないって。私は帰るんだ、この異界じゃなくて、普通の世界に!でも、どうやって?


ゴブリンの求愛攻撃をかわしながら、元の世界に戻る方法を必死に考える私。だけど、今のところ手がかりはゼロ。どうにかして、この異界から抜け出さなきゃ。


次こそ、出口を見つけてやる!





++++++++++



もう本当に勘弁してほしい。ゴブリンがずっと私の隣にいる。それも、まるで護衛みたいにピタッと。いや、護衛っていうか、求愛?どっちにしても、これ以上近づかないでって感じ!


「お前、何かあったらすぐに言え。私が守ってやるからな」


「は、はい…」


そう言ってくるゴブリンを適当に流すけど、内心はため息しか出ない。この異界から脱出したい、それだけが私の願い。でもゴブリンは助けてくれるどころか、どんどん距離を詰めてくるし、気持ちが重すぎる。


「ねえ、私、ちょっと休憩したいんだけど」


少しでも彼から離れるため、あたりを見回して適当に言ってみる。森の中で何もないけど、とにかくこの場から離れたい一心で。


「うむ。ではこのあたりで休もう」


と言いながら、ゴブリンは周囲を見回して、安全そうな場所を探してくれる。優しいところは確かにあるんだけど、だからといって恋愛感情には絶対に結びつかない。


「ありがとう…」


しぶしぶ座り込んで、少しの間だけでも静かに過ごせるかなと思った瞬間、またしてもゴブリンが話しかけてくる。


「お前の世界では、どうやって暮らしているのだ?」


「え?普通に…学校に行ったり、友達と遊んだりしてるよ」


「学校とは何だ?友達とは、どういうものだ?」


うーん、この世界にはそういう概念がないのか。考えてみれば当たり前かもしれないけど、説明するのが面倒くさい。


「学校は勉強するところで、友達は…一緒に笑ったり、悩んだりする人たちだよ」


「ふむ。では、私はお前の友達になれるのか?」


「え?」


いやいやいや、ちょっと待って。そういう意味じゃないんだけど。


「お前がそう言ってくれたのだ。私はお前を笑わせ、守っている。つまり、私はお前の友達ということだな」


「いや、それはちょっと違う…」


必死で否定しようとするけど、ゴブリンは嬉しそうな顔をしている。なんだかもう、この状況がますますカオスに感じてきた。どうしてこんなことになったんだろう?


「お前の世界には、私のような者はいないのか?」


「ゴブリンはいないよ。人間ばっかりだし、こんな異界もない」


「それは寂しいな。お前はこれから私と共に生きるべきだ。そうすれば、私がずっとお前を守る」


「いや、だからそれは無理だってば!」


何度も繰り返すけど、ゴブリンには全然通じてないみたい。私が望んでいるのは、普通の生活に戻ること。それに、ゴブリンと恋に落ちるなんて絶対にありえないし。


「あ、あのさ…私は本当に元の世界に帰りたいんだよね。だから、手伝ってくれると嬉しいな」


一縷の望みをかけて、そう言ってみた。するとゴブリンは少し考え込んだ様子で、ゆっくりと頷いた。


「お前がそこまで望むなら、何とかしてやろう」


「ほんと!?ありがとう!」


一瞬、希望の光が見えた。これで帰れるかもしれない。だけど、その次の言葉で再び絶望に落とされた。


「だが、条件がある」


「え…?」


「お前が元の世界に帰る前に、私と結婚するという条件だ」


「な、なんですって!?」


耳を疑った。結婚!?しかもゴブリンと?いやいや、そんなの絶対に無理でしょ!


「お前は私に救われたのだ。それに、私はお前に心を捧げている。だから、結婚は当然のことだ」


「全然当然じゃないよ!」


もう頭が混乱しすぎて、どう言い返したらいいのか分からない。結婚なんて、普通は好きな人とするものでしょ?しかもゴブリンって!私が憧れてたのは、もっとこう、かっこいい大人の男性だったのに!


「だが、お前がそう望むなら、元の世界に帰す方法を探そう。だが、それには時間がかかるかもしれん」


「時間がかかる…」


正直、時間がかかってもいいから、何とかして帰りたい。でも、そのためにはゴブリンとずっと一緒にいなきゃいけないの?それもまた、耐えがたい。


「では、私が探し続ける間、お前はここで私と共に暮らせ。そうすれば、いずれ道は開けるだろう」


ゴブリンはそう言って、にこりと笑った。その笑顔が、ますます私を不安にさせる。どうしてこんなことになってしまったんだろう?


「うん…でも、絶対に帰る方法見つけてね」


「もちろんだ」


そう言うゴブリンの声には、確かな自信があった。でも、その自信が私には怖い。だって、結婚とか言ってるし。絶対にそんなことになりたくないのに。


ゴブリンは再び周囲を見回し、警戒を怠らない様子。守ってくれるのはありがたいけど、なんでこう、もっと違う相手じゃなかったのかな…。いや、助けてもらってるし感謝はしてるんだけど!


「さあ、次の目的地へ行こう」


ゴブリンが言うと、私は重い足を引きずりながら、彼の後ろをついていくしかなかった。どこに行くのかもわからないけど、今はこの世界で生き延びるしかないみたい。


もう一度、白馬に乗った王子様が現れてくれないかな…なんて、そんな都合のいいこと、起こるわけないか。




++++++++++



「さあ、今夜は祝宴だ!」


ゴブリンがそう言い放つ。どうやら、私とゴブリンの結婚を祝う宴を盛大に開こうとしているらしい。


「え、ちょっと待って。まだ結婚とか決まってないよね!?いや、そもそも結婚なんてありえないし!」


私は慌てて否定する。だけどゴブリンはニコニコしながら勝手に話を進めている。


「お前が元の世界に帰りたいと言うならば、結婚が条件だ。だから、今夜はその前祝いだ!」


「前祝い!?そんなのいらないってば!」


もう頭がぐるぐるしてきた。なぜこんなことになったのか、全然わからない。確かに助けてもらったことには感謝してるけど、結婚だなんて無理がありすぎる。しかも相手はゴブリン。ごめん、やっぱりゴブリンは無理だ。


「さあ、さあ!祝宴の準備をしよう!」


ゴブリンはすでに準備に取りかかっている。他のゴブリンたちまで出てきて、わちゃわちゃと忙しく動き回っている。いつの間にこんなに仲間がいたの?


「え、ちょっと待って…他にもゴブリンがいるの!?しかもみんな結婚を祝ってるの!?うそでしょ!?」


私はパニック寸前だった。ゴブリンが数匹集まって、私と彼の結婚を勝手に祝ってる。なんか、どんどんおかしな方向に進んでいくんだけど!


「さあ、宴を始めよう。まずはお前の婚礼の衣装を用意する!」


「衣装!?そんなのいらないって!」


全力で拒否する私。だけどゴブリンたちはお構いなしで、勝手にドレスっぽい何かを持ってきた。いや、これドレスじゃなくて、なんか草と花でできてるんですけど!?何これ、どこの原始時代!?


「さあ、着てみろ。似合うはずだ」


「いやいや、無理無理無理!絶対に無理!」


私は必死に逃げ出そうとする。だけどゴブリンたちがどんどん寄ってきて、まるで私を囲むように取り囲んでくる。やばい、このままじゃ強制的に着せられる!


「助けてー!誰かー!」


私は叫んだ。でも、もちろん誰も助けに来るわけがない。だってここは異界だし、周りはゴブリンしかいないんだから。


「さあ、私と共に新しい生活を始めよう」


ゴブリンが優しく手を差し伸べてくるけど、私はその手を見てまた混乱する。いや、顔が…!顔がどうしても受け入れられない!


「やっぱり無理ー!顔が重要なのー!」


私は叫びながら、その場を全力で駆け出した。ゴブリンたちは驚いて後ろから追いかけてくる。


「待て!どこへ行くんだ!?」


「待たないよ!もう顔が無理なんだもん!」


私は全速力で森を逃げ回る。後ろから聞こえるゴブリンたちの足音が迫ってくるけど、必死で逃げ続ける。こんなところで捕まってたまるか!


「やっぱり顔がだいじー!」


私は叫びながらさらにスピードを上げた。元の世界に帰る方法はまだ見つかってないけど、とにかくここから逃げることが最優先。どこかに出口があるはず、そう信じて走り続ける。


だけど、ゴブリンたちはしつこく追いかけてくる。彼らの足音がどんどん近づいてくるのを感じて、さらに焦りが募る。やばい、このままじゃ捕まっちゃうかも…!


「いやー!やっぱり顔が重要なんだー!」


叫びながら、私はとうとう森の奥深くへと消えていった――。




異世界に挑戦したく書いてみました!お読みいただきありがとうございます!

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