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第1章 -失われた記憶と少女の秘密-

かなた:記憶喪失の少女。

アニマの影響を受けない特異体質。

「アニマがなんなのか、どうして存在するのかボクにはわかる気がする」


〈クリオン機密機関ファングラー〉


ファングラー第1部隊


クウォン:第1部隊隊長

かなたの事が気になり、その存在が人生を変える切っ掛けとなる。特異体質。

「かなたを見てると放っておけない。守る…とかじゃないんだ…ただ、傍に居なきゃ不安になる」

シャーシャーと爽快な音をたてて海沿いを自転車で走るかなた。


(今日は何取ろうかな〜♪)


かなたはゲームセンターと書かれた看板が掲げられたお店の前で止まり、中に足を踏み入れた。


「あれ?改装した?」


前に来た時より雰囲気が変わっている店内にかなたはキョロキョロと当たりを見回した。


「いらっしゃい!1週間前に改装したのよ!」


かなたの元にエプロンを付けたポニーテールが似合う女性がやって来た。


「早織さん!」


早織はこのゲームセンターの定員で、この土地一帯の統括者だ。


「ブースを分けてみたのよ?…向こうがお菓子、あっちはキャラクターもの、そのとなりがぬいぐるみと新作はここの赤い絨毯で区切っているの」


「これなら、わかりやすいね!早速新作見てくるよ!」


「うん!行ってらっしゃい!」


早織は新作ブースに駆けていくかなたを見送り、震えるスマホをポケットから取り出して耳に当て、二言程話すと直ぐに電話を切り、スタッフルーム書かれた扉に入って行った。


(早織さん忙しそうだな〜)


かなたは閉まる扉を暫く眺めてからどの台で遊ぼうかと景品を見て回った。


- - - - -


ここは【異界都市クリオン】。


元は日本と呼ばれる国だったが、地震の影響で浦安市から直径数十kmを残して日本は壊滅した。


その影響で汚染された空気が蔓延(まんえん)し、残ったこの島を囲み何人もが命を落とした。

汚染された空気「アニマ」を食い止める為に設立されたのが【アニマ対策本部】だ。


そのお陰で人々は平和に暮らす事が出来ている。


今このクリオンにある全てはAIや3Dシステム、ナノテクノロジーを使って出来ている。


昔の日本とは大きく変わり、人の手を使う事が減った為、労働というものが一切なくなった。

教育機関は今も存在するがそのどれもがAIやナノシステムについての勉強である。


通称ADN(エデン)…昔の日本では不可能とも思っていた。今このクリオンは日本の誰もが心に望んでいた楽園を手に入れているという。


(楽園か…僕は特異体質のせいで昔の記憶がないけど、元々は日本人なんだっけ?)


Prrrrr


「わっ!」


そんなことを考えてボッーとしていたかなたのスマホが鳴り、かなたは慌てて鞄からスマホを取り出した。


「もしもし?萌仁?…海浜市街だけど…うん、良いよ」


ほとんど記憶のないかなたに残された数少ない友人からの電話だった。


かなたは遊ぶことなく、ゲームセンターを出て自転車に跨り、来た道を戻って行った。


- - - - -


「来たぞ〜?」


かなたは萌仁という友人から指定された塾に着いて、遠慮なく扉を開けた。


「あら!いらっしゃい!」


扉を開けてまず出迎えてくれたのは「ミクロ塾」の塾長でかなたの家庭教師をしていた胡桃だった。


「あ!由奈に奈恵だ〜!…生徒増えてる〜!(あの男子だけはお呼びじゃないって顔してるな〜)」


他にもかなたの友人である姉妹の由奈と奈恵がいて、どこか知っている様な顔だが思い出す事の出来ない男子に睨まれて、かなたは少し萎縮した。


「あぁ〜!呼び出しておいてごめん!…帰ろうと思ってたから送ってもらおうと思ってたけど、うちの区域でアニマ(ビト)が出たみたいで…」


慌てた様に事務室から飛び出て来た萌仁はごめんと両手を打ち合わせて頭を下げた。


「それじゃあ〜、暫く帰れないね?…分かった〜!僕はこのまま帰るよ!また何かあったら連絡して〜!根詰め過ぎるなよ〜」


かなたは入り口から見えた事務室で会議をしている友人達に手を振り、また自転車に乗ると帰路に着いた。


- - - - -


「ふんふふん♪」


帰る途中で日が暮れ、すっかり空は夜に覆われてしまった。


(ザッザザー)


キキィーーーッ


かなたは突然頭に流れ込んで来たノイズに自転車を急停止させ、方向を変えると何処かへ物凄いスピードで向かった。


(この辺か?アニマ瘴気とアニマ人の気配…)


「アニマ」…地震の影響で日本全域が謎の紫煙(シエン)に覆われ、人々に害をなした。

その謎の紫煙を「アニマ」と呼び、その瘴気に侵された人はアニマ(ビト)と呼ばれアニマ対策本部に連行され、その生命を絶たれる事になっている。


そして、かなたはアニマを感じ取る事の出来る力を持っていた。


「人払いは住んでるみたい…アニマ人はあの夫人か…瘴気はこの部屋全体に影響してるけど…」


アニマ瘴気が流れ出ている場所から半径5キロは1週間人は立ち寄る事が禁止となっている。


それを知っているにも関わらず、かなたは自転車を押してアニマの瘴気が濃く出ているホテルに足を踏み入れた。


「美術品が多いな?オーナーの趣味か?」


(チャリチャリチャリ)


ホテルのフロントはとても広く、受付の壁には大きな立体アートとフロントの中央の高い天井に3階から1階まで伸びるシャンデリアが飾られていた。


チャリチャリチャリチャリ


「ん?何っ!シャンデリア!?」


先程まで聞こえていた音がより大きくなり音のする頭上を見上げると、シャンデリアが薄い紫色の煙を放ちながらゆっくりとかなたに向かって降りて来た。


「いぃっ!?|||なんかキモイ!」


ドンドンッ


「あの夫人入ろとしてんのか?…こんな瘴気に呑まれたら…・・・」


かなたは自転車に跨ると回転式のドアから入ろうとしたアニマ人が中に踏み込む一瞬を狙ってタイヤをドアに挟み、アニマ人となった夫人が瘴気に近付かないようにした。


「今も苦しいだろうけど、アニマ研究員の人達が来てくれたら楽になるから…深く考えちゃダメだ…」


かなたは回転式ドアの間でバタバタと藻掻くアニマ人にそう声を掛けて、自分も逃げなくてはと…スマホに搭載されている「テレポート」を使おうとした。


「おい!何やってんだ!」


テレポートを押そうとした直前に横から伸びて来た手に担がれ、波のように迫ってくるシャンデリアから逃れ、逃げ込んだ先は…


「男子トイレ?…えぇぇー…」


かなたが連れ込まれた男子トイレには黒い制服に交差する爪と鋭い牙の金刺繍の施されたエンブレを肩に付けた集団がいた。


「大丈夫でしたか?」


唖然とするかなたに初めに声を掛けたのは茶髪にセミロングヘアの少女で、その後ろの鏡の台にパソコンを起き眼鏡を掛けた青年がかなたを横目で睨み、猫耳に肉球の手が垂れ下がったフードを握る少女が呆れ顔でかなたを見ていた。


(初対面でこの空気はキツい…)


かなたはこの状況で味方になってくれそうなセミロングヘアの少女に助け舟の視線を送ったが、それも虚しく少女は呼ばれて外に出て行ってしまった。


「女ってきらーい…」


セミロングヘアの少女が出て行くのを見計らった様に猫耳フードの少女がボヤいていた。


その隣で眼鏡の青年が興味無さそうに鼻を鳴らしてパソコンに向き直った。


「ったく、お前何やってんだよ…立ち入り禁止区域の情報見てなかったのか?」


セミロングヘアの少女と一緒に聞き覚えのある声の青年が中に入って来るなりかなたの前に立ちはだかった。


「…何を言っても仕方ないとは思っているのですが、言い訳させて下さい」


問い詰める様にかなたを上から見下ろす青年にかなたは引き下がらずに背筋を伸ばした。


「僕は特異体質なのでアニマの瘴気が効きません。そしてアニマ人の声を聞いたので、あの夫人が少しでも暗い暗い海の底に沈む事の無いようにしてあげたかったんです」


堂々と言葉を紡ぐかなたに青年を少し考え事をしてから名前を聞いてきた。


「かなた…です」


予想外の流れにかなたは少し驚きつつも名乗り、次に何を言われるのかと身構えた。


「俺達はクリオン機密機関部隊ファングラーだ。そして俺は第1部隊の隊長クウォン…こっちは副隊長のアカネ。そっちの眼鏡はオペレーターのジン。この猫は参謀のミヤ。あと一人医療班のコトネがいる」


怒るどころか機密機関とまで名乗り自己紹介をするクウォンにかなたはぽかんと口を開け、他の3人も何故?と言うように口を開けていた。


「機密機関なのに…教えて良いんですか?」


その疑問に1番に口を開いたのはかなただったが、他3人も同じ事を思っていたのか、ただ状況を見守った。


「あー…そっか、そこも記憶ないもんな…俺は一応、お前の事を知ってるんだ…知ってるのは俺だけだが、このクリオンの創設者の一人はお前だよ…かなた」


バツが悪そうに頭を掻きながらクウォンはかなたがクリオンの創設者の一員である事を告げた。


「…クリオンの創設者?…ぼ、くは何も|||…クリオンの創設には僕の母と父は関わってるけど…」


ほとんど記憶を失ってるかなただったが、ずっと引っ掛かっている事があったものの思い出したくないという思いで考えないようにしていた。


「レイはこの部隊組織ファングラーを作った初代総隊長で俺の師匠。ツクモはクリオンの三大テクノロジーを開発しアニマ障壁ガーディアンを作った。そして、俺の実の両親だ」


目はかなたに向いてるにも関わらずどこか遠くを見ているクウォンにかなたは言い様のない感情が込み上げ、それ以上なにも言えなくなってしまった。


「…悪い。そんな顔させたかった訳じゃない…思い詰めなくても母さん達が死んだのはお前のせいじゃない…記憶はないだろうけど、かなたは母さんと父さんの恩人なんだよ…今はやるべき事がある。この話はまたさせてくれ…」


クウォンはそう言いつつもどこか上の空の様な不安定さのある足取りで外に出ようとした。


「…どこかでは分かってた。僕は両親の子では無いこと…本当は他の人の子どもなのに記憶を失って自分が誰なのかすら分からなくなる…だから、二人が親代わりになってくれてた…僕がクリオン創設に関わってたのなら、きっとそこに僕の失くした記憶がある。レイもツクモも死んでなんかない…僕はいつかこの特異体質を使って二人を探しに行く…一人ぼっちになった僕に手を差し伸べくれた二人を見捨てたりはしない…だから、クウォン…あんたの不安は僕が切り裂いて、不幸は食らってやる」


フラフラと立ち去ろうとするクウォンの腕を掴み、かなたは不安や辛さの吹っ切れた顔で真っ直ぐにクウォンの目を見て笑って見せた。


「きっとは私は…ファングラー部隊の誰よりも強いよ…」


かなたはそう言うと、アニマ瘴気が漂うロビーに周りの制しも聞かず一人駆け出した。


- - - - -


「ねぇ、アニマ…いつか必ずあなたもその暗闇から解放するから…それまでは二人を連れて行かないで…っ」


アニマの瘴気で形を失ったシャンデリアがロビーに水の様に漂い、中央に近づくかなたを囲って大きく円になりかなたに勢い良く降り注いだ。


キィーーーーーン


かなたを追ってロビーに出て来たクウォンやアカネが着いたと同時にかなたがシャンデリアに飲み込まれた。が、次の瞬間耳を劈く様な音が窓を震わせるくらいに響いた。


「なっ!何この音…・・・ッ!?隊長!アニマ瘴気が!」


気を失いそうになる音にアカネは耳を塞ぎながらゆっくり顔を上げて、目の前の光景に目を疑った。


「あぁ…クリオンは母さんの名前と気高き王の由来としてライオンから取った事は知ってるな?…けど、母さんは言ってたんだ…」


かなたを中心に時が止まった様にシャンデリアの粒が宙を舞、アニマの瘴気が光の粒子に代わり、ゆっくりとかなたに引き寄せられていた。


『クリオンは私の都市なんかじゃない。クリオンは私を信じて託してくれた友の想い。クリオンを支え、人々を希望に照らし、不安を切り裂き、不幸を喰らう。その見えない爪と牙でたった一人戦う戦士…』


ファングリア


第1章 -失われた記憶と少女の秘密-〔完〕

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