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魔族化勇者は遂に広場立ち入り禁止になりました

作者: 騎士ランチ

「うおおおおおお!」


 一人の魔族がこの町の広場へと向かっていた。彼はかつて勇者と呼ばれていたが、仲間を追放した結果落ちぶれ、謎の女魔族の誘惑に乗り魔族化したのだった。今の彼は広場で暴れる事しか考えられない。明日にも肉体が崩壊する運命だが、それまでの間、彼は広場で暴れ続けるだろう。


 だが、この町の住民は誰一人として不安には思っていなかった。法律で、広場は魔族化勇者立ち入り禁止になったからだ。


「あ、あ…?」

「はい、そこの魔族化してる人、アンタ勇者だよね?ここは魔族化勇者立ち入り禁止だよ」


 広場の入り口に着いた勇者は、屈強な衛兵に足止めされていた。


「はい、帰って帰って。この国じゃ魔族化勇者は広場立ち入り禁止なんだよ」

「いや、ちょっと待て!魔族化勇者立ち入り禁止の広場って何だよ!」

「最近お兄さんみたいな魔族化勇者が広場を荒らす事が多くてね。馬鹿をピンポイントで懲らしめる法律作りに定評ある公爵令嬢様が新しい法律を作ったんだ」

「だ、だったら俺はどこで暴れればいいんだよ!」

「少なくとも、この国の広場は全部駄目だね」


 勇者の顔が青ざめる。このままでは何もしないまま朝になり死んでしまう。それだけは嫌だ!だが、この広場は絶対に使えない。目の前に目的のものがあるのに届かない。


「そんな…そんな…広場ー!俺の広場ー!」


 勇者は悲しみ泣き叫んだ。運命のパンと引き離された獣人もこんな気持ちなのたろう。そう思えるぐらいの悲しみに勇者は包まれた。(この勇者は『番』の正しい読み方を知らなかった)


「こ、こんなのってあるかよ!俺は勇者で魔族化したんだぞ!なのに何で広場を荒らせないんだよ!」

「他国の広場なら良いって言ってるでしょ」

「今更間に合うか!こ、こうなったら力づくで広場に入ってや…ぎゃあああ!」


 強引に衛兵の横を通り抜け、広場に足を踏み入れた瞬間、全身にショックが走り勇者は気絶した。


「あーあ、だから入るなって言ったのに」


 この国の広場は魔族化勇者対策に、床を全面聖属性バリアに貼り替えてあった。無論、普通の人間や魔族には一切害の無い出力にしてある。魔族化勇者という、不安定な存在だけを苦しめるバリア床なのだ。


「よいしょと」


 衛兵は勇者を広場の外に運び出し、目が覚めるまで放置した。


 暫くすると、勇者の全身にヒビが入り、右手、右足、左手、左足、胴体と順番に崩れていった。


「もうすぐ今日の仕事も終わりか」

「人の崩壊を時計代わりにすな!」

「あ、起きた。そのまま死んだら苦しまずにすんたのにねえ」


 衛兵は不気味な事を言いながら勇者の首を抱きかかえる。勇者はまだ自分にとって悪い事が起こるのだと確信し暴れようとするが、既に手足は無かった。


「お、おいオッサン!離せ!俺は勇者…いや、それ以前に王国民だぞ!」

「いやあ、オジサンただの屈強な衛兵よ?人殺しとかはしないから安心してよ。魔族化勇者の最終処分所へ持っていくだけだよ」

「やっぱ俺、死ぬんじゃないかあああ!!!」


 衛兵に担がれて着いた場所には、でっかい転送装置があった。


「君は知らないだろうけど、魔族化勇者の中には死ぬ寸前に自爆する奴も居る。だから、魔族化勇者は首だけになったらこの転送装置で持ち主に返す事になった」

「持ち主?」

「君を魔族化した奴の所さんだよ。じゃ、良い最期を」


 転送装置の扉が閉められ、その数秒後、浮遊感と共に景色が変わる。


 転送された先は魔王軍の本拠地だった。勇者を魔族にした奴含め、多数の幹部が会議をしているど真ん中に勇者の生首が突如現れたのだった。


「あ、ども」


 自分を魔族にして広場破壊の命令をした恩人に頭を下げよつとするが上手く行かない。何故なら、勇者の頭はボコボコと音を立てながらどんどん膨らんでいたからだ。この勇者は運悪く自爆機能付きだった。


「「「「「うわああ!俺の頭が破裂しゅる!」」」」


 会議室内部に複数の勇者の断末魔が響き渡る。そう、今日魔族化した勇者は全員広場前で何も出来ず首だけになり、死の直前に一斉に飼い主の元へ返送されたのだった。そして、勇者達の悲鳴の大合唱が終わった後、遂にその時が来た。


「やだぶー!」


 勇者の一人の頭が限界まで膨らみ破裂する。それを切っ掛けに、他の勇者の頭も次々に破裂する。


「りんご!」

「ごりら!」

「らっぱ!」

「ぱせり!」


 中には自爆機能を有していなかった勇者や不発に終わった融資も居たが、他の勇者の爆発を受けて彼らも爆発していった。


 そんな中、爆発せずにひたすら頭が膨らみ続けていた勇者が一人。あの衛兵に運ばれて来た勇者だ。


「ああああ!何で俺だけずっと苦しいんだあああ!」


 他の勇者の爆発を見て、死の恐怖から逃れようとした結果か、元々しぶとい個体だったのか、昨晩踏んだ聖属性バリアのせいなのか、理由は不明。だが一つハッキリしているのは、この勇者が爆発した時、ここら一帯の生物は全滅すると言う事だ。


「ぎゃあああ!俺はただ広場で暴れたかっただけなのに、何でこんな仕打ちおおお!!ゆるじでえええ!これからは、真面目に勇者やるからあああ!!!命に変えても魔王軍倒すからあああ!!!」

 

 勇者は天に向かって謝罪した。今まで常に自分が一番だった男の初めての謝罪だった。だが、その願いが届く事は無い。


「なーんーでー!」


 この日、勇者が死んだ。だが、それを悲しむ者は居なかった。


 勇者は魔族化して、広場で暴れ倒され、時には爆発する。それはよくある事だからだ。


 一方その頃、仕事を終えた衛兵は、愛する妻の待つ家へと帰っていた。


「ただいま。今日は三十人ぐらいの勇者が魔族化していたよ。転送装置はギュウギュウだった」

「まあ、それなら」

「ボーナスいっぱい出るぞ!」

「それは良いニュースね。実は私も良いニュースがあるの。あのね、男の子なんですって」


 衛兵は妻のお腹を見て、おおいに喜んだ。


「やったな!俺達の子、どんな風に育つかな?」

「勇者にさえならなきゃ何だって良いわ」

「そりゃそうだ!魔族化して人生最後の日を広場で暴れる事に費やす様な馬鹿にさえならなきゃ何だって良い」


 衛兵は生まれてくる子供を楽しみに思いながら夜勤の疲れを癒やすためにベッドに入った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 「勇者にさえならなきゃ何だって良いわ」とか、勇者がとにかくこき下ろされてて笑いました。 [気になる点] >勇者を魔族にした奴含め、多数の幹部が会議をしているど真ん中に勇者…
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