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3.真実を映す目

 真白が話し終わるとアルは一つため息をついた

「……にわかには信じられないな。アンタはこの世界じゃない世界から来て、ワイズマン先生からプロビデンスの目を託された。ワイズマン先生はアンタに力を渡して光になった。この世界に来たアンタはなぜかその杖を持っていて、しかもこどもの姿になっていた」

 アルはひとつひとつ状況を整理しながらそう言った。だがアルの言葉に真白は気になることがあった。

「そう。……ところでさっきから気になっていたんだけど」

「ん?」

 真白の言葉にアルは首をかしげる。

「アンタアンタって偉そうに。さっきから失礼じゃない? 私、今はこんな姿だけど本当は二十四歳なのよ?」

 そう、年上に対する敬意が足りないのよ、と真白は感じたのだ。

「そ、そうなんだ。俺は十五だよ。でも今アンタは十四歳くらいの時の姿なんだろう?」

 真白の言葉にアルは動揺しつつそう問い返す。

「まぁ、そうだけど」

「じゃあ、今は俺が年上なんだ」

 真白の言葉にアルは少しだけ得意げにそう言った。

「だから何よ? こども扱いしないでくれる? あと、アンタって言われるのは心外だわ。呼び方変えてくれる?」

「あぁ、悪い。そういえば名前も聞いてなかったな。アンタの名前は?」

 少しだけ不機嫌な声を出す真白にアルはそう聞いた。


「私は真白。光兎真白(こうさぎましろ)よ。よろしく」

「そうか。光兎真白か。変な名前だね」

 真白の名乗りにアルは首をかしげてそんな言葉を言った。


「私は気に入ってるけどね! それより、あなたの名前は?」

「俺は、ア――――、アルだ。アルって呼んでくれ」

 真白に名前を問われアルはそう言った。言葉の途中で本名を言うのをやめたのが真白にははっきりとわかった。

「なんか途中で止めたわよね。アルって本名なの?」

 真白の指摘にアルはくるりと後ろを向いた。

「まぁ、……あだ名みたいなもんだ。しかし不思議だ。どうしてワイズマン先生はわざわざこの世界じゃない世界の人間に力を託したんだろう。何か理由があるのか」

 考え込むように首を傾げた。

「……ごまかした?」

「違うって。それよりそろそろ肉が焼きあがりそうだ。真白も腹減ったろ」

 アルはそう言うとレンガのコンロのそばに行った。

「……美味しそうな匂い」

「ほら、できた」

 アルはレンガのコンロの薪のそばに置いて弱火で焼いていたらしいソレをトングで取り出した。

「ひっ!!」

 レンガのコンロの中から取り出されたものを見て真白の喉から声にならない音が出た。


 皮を剥いだ状態のウサギの姿焼きが目の前に現れた。こんがり焼かれてきつね色になったソレは、美味しそうな匂いはしているものの、真白には到底許容しがたいフォルムだった。なじみのないウサギの姿に真白は吐き気を(もよお)した。

 アルがウサギの丸焼きをまな板にどんと置くと台所の流しの近くに置いてあった大きな包丁を手に取った。

「いつも面倒だから締めた後、そのまま焼くんだ。俺は料理ができなくて毎朝こんな感じ――――」

 アルがしゃべりながらウサギの首に包丁をつきたてたところで、真白は吐き気を抑えきれずに勝手口から外へ飛び出した。

「ちょっとごめんっ……!」


 外に飛び出すと真白は新鮮な空気を思い切り吸い込んだ。森の香りを胸いっぱいに吸い込むと徐々に気分がよくなってきた。


「……どうかしたのか? 顔が真っ青だぜ」

 しばらくしてアルが呆気にとられた様子で追いかけてきた。

「アルよ、どうやら真白はあのウサギを見て顔色を悪くしていたようじゃぞ」

 アルとともに外に出てきていたアセナが呆れた声を出した。

「え?」

 アルは真白とアセナを交互に見て素っ頓狂な声を上げた。

「ごめんなさい。ちょっと、動物の丸焼きはあまり見慣れなくて……」

 真白はなんとかそんな言葉を絞り出した。近所のスーパーや白ひげのおじいさんがマスコットのチキン屋さんを今日ほどありがたいと感じたことはない。


「あぁ、そっか! そういうことか!」

「私のことは気にしなくて良いから、あなたが全部食べて」

 真白はせっかく食事を用意してもらったことに申し訳なさを感じつつアルにそう言った。

「俺もここに来て初めての頃は、真白みたいにウサギの肉が食えなくて随分痩せたのを思い出したよ」

 アルが照れたように笑った。

「え?」

「さすがに一週間もした頃に腹が空きすぎて、思い切って食ってみたら美味くて、それから食えるようになったんだった。まぁ、つまり、慣れるよ」

 アルは口角を上げて肩をすくめて見せた。


「ちょっと待って。最初に来た頃って言ったけど、アル君ってこの家で昔から暮らしていたわけじゃないの?」

「うん。一年半くらい前にちょっと色々あってね。その頃からここで暮らしてるんだ」

 真白の言葉にアルは少しだけ声のトーンを低くしてそう言った。心なしか重苦しい空気になった気がして、真白は何と声を掛ければ良いかわからなくなった。


「それよりさ。何か真白が食べられそうなものを考えようぜ」

「え?」

 アルは先ほどと打って変わって明るい声を出したので、空気の変わりようについていけず真白はそんな声を上げた。

「真白がここに来たのは何かの因果だ。ワイズマン先生が理由もなく真白をこの世界に送ったということはないと思う。ワイズマン先生に教えを乞うていた俺としては、異世界から来た真白をワイズマン先生の代わりにもてなす義務がある。とりあえず真白が野垂れ死なないようには守ってやるし、食わしてやる。真白の目的が定まるまではとりあえずここで過ごすと良いよ」

 アルは口角を上げて真白にそう言った。その言葉に真白の胸がじんわりと温かくなった。

「……ありがとう。意外と優しいのね」

 真白は嬉しくなってアルに向かって微笑むとアルは一瞬口をポカンと開けた。しばらく沈黙が続いた後、アルは焦った様子で真白から顔を背けた。

「せ、せっかくこの世界に来たんだ。何にもない場所だけど、まぁ、住めば都だ。楽しんでいってよ」

「そうね。そうするわ!」

 心なしかアルの頬が紅潮している気がしたが真白は気にせずそう返した。

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