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参上ッ!ですわ!

ここは異世界。


100年ほど前からあらゆる転生者が現れた事でこの世界は急速かつ乱雑に文明が発達していった。

特筆すべきは自動車の普及に伴う道路整備。

これによってこの世界ではありとあらゆる未開地が開拓されていった。


その動きを真っ先に牽引していった男の名は転生者“ロード・アースファルト”。

後に道路王と称され、彼の興した会社は今や大手ゼネコンの一角としてこの世界の経済を牛耳っている。


そして、その息子__ローラ・アースファルトは彼が70歳の時に生まれた嫡子である。

生後間も無くから異常なほどの才覚を現し、最近では若干11歳にしてファーヴァード大学(※一番偏差値高いとこ)を卒業、アースファルトグループ次期総帥として期待を集めている。


「は?…許嫁?」

冬のある日、都内のタワマンの一室にてローラが電話に向かって聞き返す。

相手は現総帥・ロードの秘書だった。


『はい。ローラ様には次期総帥として早々に財政界とのパイプを築いてほしいと総帥から…。』


「お断りだ。そんな大事なことがあるなら直接話しに来いと親父に伝えておいてくれ。」


『それが…もう既に“四名”ほど良家の令嬢がそちらに出向いておられますので、くれぐれも失礼のないようにと…。』


「はぁ…!?なんでそう勝手なことを…!!」


__その時、窓ガラスを突き破り四人の“令嬢”が侵入した!


「うわあーッ!!!?……えっ!!?」


「…ふぅ、死ぬかと思った。」

「誰だよ、窓から行こうって言ったやつ。」

「ええ…だってだいたい空から落ちてくるもんじゃん?ボーイミーツガールって。」

「おい。そんなことより喋り方どうにかしろ…ですえ。」

__へァッ!!


「ああ、そうだったですわ。貴方がローラ・アースファルト様でして?わたくし達、貴方の親御様に言われて参りました。許嫁の良家の令嬢ですわ。」


「は?…は???」


ローラは目の前の存在が何を言っているのか理解できなかった。

良家の令嬢を自称するこの集団はどこからどう見てもほぼ女装した成人男性だった。


『よかった!無事そちらにいらしたようですね。その方々がローラ様の許嫁候補となります。ローラ様にはその四人と三日間寝食を共にしていただき、自らで許嫁を選んでほしいと総帥から預かっております。…おっと申し訳ございません、ローラ様。この辺で失礼いたします。それでは。』


「ちょっとまって!」


ローラの反応に答えることなく電話が切られた。


「さあさあ。こうしててもアレですし、自己紹介としましょうですわ。」

「そうですわ。そうですわ。」

__シュワ!


硬直しているローラをよそに各々横一列に整列し始める。


「じゃ、わたくしから。マリンフィールド家から海を越えてやってきました“モノバロン・マリンフィールド”と申します。よしなに。」


羽のついたヘルメットと黒いドレスの無駄にデカいスリットから生足をちらつかせてくる令嬢はモノバロンと名乗った。


「わたくしは“キチドーラ・テンセンテンス”。荒野のウエスタンからやって参りましたわ。」


角のようなターバンを携えた派手な令嬢はキチドーラと名乗った。


__シュワ!……デアッ!ヘアッ!ヘアッ!


「…彼女の名は“ダークゲン・ルート・デスサイズ”。遠い宇宙から強者を求めたやってきた令嬢と仰っておられますわ。」


__シュワッチ!


モノバロンの通訳を介して、黒っぽいマスクのプロレスラーの格好をした…一人だけ少女のように見える令嬢はダークゲンと名乗った。


「そして、わたくし…わちきは“サド太夫”。 不束者ですがどうぞよろしくおくんなまし。そうそう、こちらをどうぞ。つまらないものですが…。」


そう言って《十兆石饅頭》と書かれた箱を渡してくる着物姿の令嬢はサド太夫と名乗った。


「あっ!ずる!いいなぁ、それ。わたくしもやっときゃよかったですわぁ…。」

「フッ…まさか手ぶらでノコノコ殿方のお家にいらっしゃるなんて、貴方達のお里が知れますえ。」

「ムキー!何よこの女!!」

__シュワッ!シュワッ!


何やら勝手に揉めてる令嬢達を遠目で眺めながらローラはどこか納得した様子で一度だけ頷く。


「セキュリティ!!!」



「いやー、セキュリティの御方も話せばちゃんとわかってくれる人でよかったですわー。」


「嘘だろ……?」


セキュリティをうまく丸め込み、追い返したモノバロンをよそにローラは只々、このマンションの警備のザルさを呪うしかなかった。


「なんなんだよ!?お前ら!誰なんだよ!!」


「だから言ったではありませんか。親御様より仰せ付かって許嫁としてこちらに参った良家の令嬢ですと。」


「良家の令嬢は自分で良家の令嬢って言わねえよ!そもそも令嬢じゃないだろ!ほぼオッサンだろうが!!」


「ともかく、ローラ様にはわたくし達と三日間共同生活していただいてこの中から許嫁を選んでいただきますわ。」


「三日間だと!?ふざけるな!今すぐ帰れ!!」


「まぁまぁ、こんな広いタワマンに一人暮らしでは何かと寂しいでしょう。

わたくし達のことはお手伝いさんと思って接していただければよろしいですので、ローラ様は気兼ねなく…。

見たところお部屋の方もだいぶ散らかってるみたいですし。」


「お前らが散らかしたんだよ!今さっき!」


令嬢達は何やら箒とちりとりを取り出しガチャガチャ窓の破片を掃除し始めた。


「いや!もういいから出てけよ!こっちはお前らなんかに構ってる暇ないんだぞ!」


「あっら、この後何かご予定でも?」


「AREIC(※英語の資格みたいなやつ)の試験勉強だよ!たくッ…会社を継ぐならとれって言ったのは親父の方なのに、なんでこんな嫌がらせを…!」


「…ああ、そのことでしたら親御様より伝言がございますわ。」


「はぁ?」


「そんなクソの役にも立たないもの“嫌なら”やめちゃってもいい、ですって。」


「…えっ?」


「そんなことより、とある情報筋から伺ったのですが…ローラ様。未だ一人でおチャリに乗れないというのは本当ですか!?」


「なっ…!何でそんなこと知ってるんだ!?別にいいだろ…!こっちには専属の運転手だっているし、それに自転車なんて乗れなくたって会社の経営になんの支障もないし…!」


「それはいけませんですわ!アースファルト家次期当主たるもの自転車の一つや二つ乗りこなせなければ休日一家で自転車ピクニックへ行くというささやかなわたくしの願望が叶いませんわ!」


「知らねえよ!お前の家族計画なんて!」


「ともかく!ローラ様には一刻も早く自転車をマスターしていただかねば困りますわ!

みなさん!行きましてよ!」


「「「応ッ!!」」」


えらく野太い声で返事が帰ってきたと思えばローラはモノバロンの肩に担がれ、そのまま連行されようとする。


「うわっ!?はーなーせ!!」



「…というわけで、やってきましたわ!公園に!!」


「うう…何でこんなこと…。」


ローラも含めジャージに着替えた五人は近所の公園に集まっていた。


「ローラ様にはこちらの自転車に乗ってもらいますわ!」


そう言ってモノバロンがどこからともなく補助輪付きの自転車を押してくる。


「ささ、ローラ様。ちゃっちゃと乗ってくださいませ。」

「お手並み拝見ですえ。」

__ジェアッ!


「クソッ…乗れたら帰れよ…お前ら…!」


ローラは渋々自転車にまたがる。

両手でハンドルを握り、ペダルに足を置いた。

初めて自転車に乗ったのは五年前。とある使用人に乗り方を教わろうとしていた時である。

ローラはそれ以来、一度も、ハンドルに触れることさえ無かった。


「ほらみろ。こんなの、どうってことない…。」


「おお、さすがローラ様__あれ?」


少しだけ前進したところローラの上体が不自然に傾いているのが見える。

地面に目を向けると補助輪の右側にだけ異様に重心がかかり半ばウィリーのようになっていた。


「うわああああ!!?」


「ローラ様ッ!!」


とうとうバランスを崩した自転車が横転する。


「ちょっと!モノバロンさん!?どういうこと、これは!!」


「あれぇ…?おかしいですわね、わたくし別に自転車に細工なんてしてないはずですわ…?」


「うるさいな…!素でこれなんだよ俺は!仕方ないだろ!…勉強しかしてこなかったんだから。」


ローラが涙目になりながら立ち上がった。


「…そう言うことでしたら、もう一度。今度はわたくしが後ろから支えて差し上げますわ。」


「ちょっ!放せよ!脇を掴むな!」


モノバロンによってローラが再び自転車の上に座らされる。

今度はモノバロンがサドルの後ろをがっしりと支えていた。


「それでは。行きますわよ!」


「くっ…!」


再びローラがペダルを漕ぎ始める。

出だしは特に変わった様子は無く順調に思われた。


「おお!いけそうですわ!」

「…いや、ちょっと待つですえ。あいつごと傾いて__。」


しばらく進むとまたしても自転車が傾き始め、モノバロンもそれに巻き込まれるように上体がねじれていた。


「うわあああああ!!!」

「うをおおおおお!!?」


バランスを崩すと共にモノバロンが空中で回転しながら地面に叩きつけられた。


「モノバロンさんッッッ!!」

__ヘァッ!!


「ええ…!?お…俺のせいか…俺のせいなのか…?今の…。」


「ローラ様…もうちょっと物理法則に身を委ねてくださいですわ…。」



「ぶっちゃけ、わたくし達も自転車の乗り方なんてどう教えたらいいのかわからないですわ。

ですので、ちょっとした工夫を凝らしてみようと思うのですわ。

…ということで、じゃじゃーん。」


「今度はなんだ…?」


モノバロンが次に出してきたのは直列で繋がれた四人乗り自転車だった。


「まさかこんなのに乗れっていうんじゃないだろうな?俺は嫌だからな?」


するとモノバロンがチッチッと音を立てながらわざとらしく指を振る。


「この四人乗り自転車にはわたくし達が乗りますわ。もちろん初見で。」


「えぇ!?わたくし達が?」

__デアッ!?


「はぁ?」


「この四人乗り自転車とローラ様の補助輪付き自転車。

どちらか先に乗れるようになった方がそうでない方の命令をひとつだけなんでも聞くのですわ。」


「やだよ!そんなの!」


ローラは即座に拒否した。


「だいたいそんな自転車、お前らが示し合わせて簡単に乗れるようにしてあるんじゃないのか?」


「…そう言うのであれば、先にわたくし達が乗って見せて差し上げますわ。

行きますわよ、みなさん!」

__デュワ!!


四人がごそごそと自転車にまたがる。


「本当に大丈夫なのですわ?…こんなのぶっつけ本番で。」


「心配しなさんな。太古昔から悪役といえばこういう感じの自転車。

今回は四人乗りですが…これさえあれば勝ちですわ。」


「それ令嬢じゃない方の悪役ですえ。」


「さ、行きますわよ!せーのッ!」


四人が一斉にペダルに足をかけた。


__ガラン!ドドドド!!!


「「「「うをおおおおお!!?」」」」


四人の自転車は1ミリも進むことなく空中で横回転して倒れた。


「同じじゃねーか!!」


「クソッ…!やっぱり、こいつらとは息が合いませんわ…!」


「息が合わないってレベルじゃなかっただろ!今の!

…ってか一人起き上がらないぞ!?大丈夫か!?」


傍ではサド太夫が白目を剥きながら真っ直ぐ横たわっていた。


「ちょ…おい!なんかこいつ脈無いぞ!?冷たくなってるし!」


「あー大丈夫、大丈夫ですわ。ちょっとこの子冷え性なんですわ。」


「いや、でも呼吸もないし体も硬くなって…!」


「心配いりませんわ。ちょっと呼吸と脈拍が止まってて尚且つ死後硬直が始まってるだけで至って健康体ですわ。」


「今、死後硬直って言ったじゃねーか!!何が健康体だ!!」


「フッ…起きましたえ。」


「うわあああっ!!?」


死体になったかと思われていたサド太夫がいきなり起き上がった。


「あら、意外と早かったですわね。今回は。」

「少し寝てたかもしれんですえ。」


「うう…マジでなんなんだよ、お前ら……!」


「ま、それはそれとして。

これでローラ様もわたくし達の実力がお分かりになっていただけたでしょう?

さっきの勝負、受けていただけますか?」


「クッ……わかった。勝負を受ける。

その代わり、俺が先に自転車に乗れたらお前らにはすぐさま出て行ってもらうからな!!」


「よしなに。」


こうして、ローラと令嬢四人による“自転車乗り対決”の火蓋が切られたのだ!



「く…そぅ…!身体中痛い…!」


ローラはベットの中で体を丸める。


自転車乗り対決は熾烈を極めた。

時刻は夕方まで及び、結局決着がつかずに家に帰ることとなった。

令嬢達はローラに夕飯を振る舞った後自分達が侵入した居間で川の字になって寝ている。


「なんて日だ…!死ぬほど疲れた…!」


__でも。


ローラの頬は自然と緩んでいた。


__こんなの、久しぶりだな。



「ククク…上手く侵入出来ましたわね。」


持参したシュラフの中でキチドーラがつぶやく。


「ちょっとキチドーラさん?その笑い方、令嬢ポイント低いですわよ?もっと“オーッホッホッ”とかあるでしょ?」

__ストリウム光線!!


「もっと令嬢ポイント低い人…いや、最初からずっとマイナスの人がいるでしょ、隣に。

…それはいいとして、肝心なのはこれからローラ様をどうするかですわ。」


「ああ…“ボス”の指令に従うならばもう少し様子を見る必要がありそうですえ。」


「…ま、どちらにせよローラ様には自転車くらい乗りこなせるようになってもらわないと言い訳もできませんわ。」


__シュワ…この喋り方疲れるからもういいかな?


ゲンダークが心に響く声で語りかけてくる。


「やめちまいなさいよ、勝手に。」

「お前だけキャラ付けずっと間違え続けてんですわ。」

「普段からチヤホヤされたがるくせになんでこういう時だけ日和るんかえ。」


「だって…恥ずかしいじゃん…。ストレートにかわいいキャラでいくの。」


「情けねえですわね。だから“源ちゃん”はしどこまで行っても所詮“源ちゃん”止まりなんですわ。」


「うるせえよぅ…!逆になんでお前らそんなノリノリなんだよぅ…!」


「わたくし達は失うもんねえですから。

さ、さっさと寝ますわよ。

明日は早いですわよ。」


「「「「……。」」」」


「なんかここ寒いなぁ?」


「あ、いつの間にか窓割れてんじゃん。なんで割れてんだ?」


「本当だ。誰だ?割ったの。」


「ここで寝る人のことも考えろよ。」


「そうだよ。ふざけんじゃねえよ。

ふざけんじゃねえですわ。」



__ああ、もう永くはない。


ここは、ロード・アースファルトの寝室。

自身の老いた肉体をまじまじ見つめながら思いを馳せる。

30歳で異世界に転移して50年が経った。


『ロード様、大変お待たせしました。準備が整いましたのでそのご報告を。』


そんな中、ロードの寝室のモニター電話に一報が入った。


「本当か…!?それは良かった…!良かった間に合った…!」


『契約内容の確認をさせていただきます。

契約者はロード・アースファルト様。

素体名はローラ・アースファルト。

“儀式名”…“転生”でお間違いないですね。』


「ああ…ああ!それで、いつになる…?」


『ロード様にはすでに契約金を全額振り込んでいただいております。

そちらの都合さえよければ明日にでも実行に移せます。』


「そうか…!そうか…!」



夜中、ローラは用を催しトイレに向かった。

帰りの廊下で洗面所に灯りが付いているのが目に入った。


「なんだ…?」


恐る恐る洗面所を開け、中を確認する。


「きゃー!ローラさんのえっち!(裏声)」


そこにいたのは全裸でほっかほかのロン毛__サド太夫の太夫抜きだった。


「あー…うん。」


ローラは悲しそうな顔で頭を掻くと一言呟く。


「…死ね。」


__バタン。


そう言い残して去っていった。


次回、「あばよ!ですわ!」

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