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オリエンテーション

 私とノエルが退出した後、エマとセルジュは1年目組に対して授業を行った。


 内容は基本的には昨年と同じく、洗礼式の紙をもとに自分の名前を書くことを主軸としたものだ。

 しかし、算数については変更を行った。

 私は駆け足で数の仕組みや計算まで扱ったが、今回は数字を書くことの一点に絞ることにしたらしい。昨年、理解が十分でなかったという反省点を考えた結果だそうだ。


 次の授業ではサイン交換会についても、算数を潰してでもサインのアレンジを教えるという熱意のもとに、全てをサイン関連で埋めること、そして、その次の授業は算数のみにすることになった。

 エマとセルジュも色々と考えてくれていた。


 そして、私とノエルは2年目組に対するオリエンテーションを行うこととなったのだ。

 当然、2年目組には両親やエマ、セルジュ、イーヴなども含まれるわけで、それはそれは忙しいのだ。


 「本日2度目になりますが、こんにちは。エマール領からお送りします。セシルと、弟のノエルです。よろしくお願いします。これからは既に1冊目の教科書を履修している方に向けて授業を行っていくことになります。今日はオリエンテーションと軽く国語の文章に触れようと思います。ノエル共々、よろしくお願いいたします。」


 私とノエルは頭を深く下げた。


 「早速、オリエンテーションを始めていくのだけれど。」


 「姉さん、先ほど言っていた2年目の大事なことは伝えることと考えることだというのはどういうこと?」


 見ていた人も見ていなかった人も理解できるようにノエルは質問した。


 「わかりました。まずはそれから説明しましょう。伝えるということについて。何故、伝えることが大事なのかって分かる?」


 「いや、よく分からないよ。」


 分かっているくせに、ノエルはしれっと分からないと言い放った。

 授業のためとは思うけど、そういう演技ってどこで身につけてきたのだか。


 「伝えるといってもたくさん方法があるわけですが。文字だったり、言葉だったり、その両方だったり。上手い伝え方をしないと、誤解を与える恐れがあります。それは人間関係のトラブルのもとです。」


 「確かに、それは困るけど、それってわざわざ授業でやることなの?当たり前に普段の生活でやっているでしょ。」


 「そうね。普段の生活でもやっていることであることは確かです。では、私のように大勢に向かって話すことは?本のようなものを書いて知らない人に読んでもらうには?そういうことを意識して、印象に残るように、分かりやすいように、伝える力を身につけてほしいと思っているのです。」


 「でも、それなら尚更関係なくない?だってさ、本なんて書く機会ないし、話す機会なんてないでしょう。」


 これ、伝えたい情報のメモはあるけど、アドリブだよな?

 ノエルが段々と恐ろしくなってきたんだけど。


 「いいえ、それは勘違いです。私は最初に、授業のゴールは研究ができることにあると申しました。研究して、その後どうするんです?」


 「どうするって?」


 「研究したものは発表しなければ何にも変わりません。その方法は文字で書くのも、言葉で説明するのもいいでしょう。研究とは重ねることに意義があります。自分の研究を知った誰かがその研究をより発展させるかもしれない。その研究を使って、生活をより便利にしてくれるかもしれない。研究の真価は研究を発表してこそ、現れるのです。」


 「だから、そのために練習をしてくんだね。」


 「そういうことです。考えることは、そのまま研究に直結しますね。実は、これまでの知識を用いれば解ける問題って色々あるんです。持っている知識をどう使うのか、そこに注目してやっていきたいと思います。」


 「知っていること、使えること、使いこなせることは違うってやつだね。」


 「よく覚えていたね。そう、皆には知識を使いこなせるところにまで辿り着いてほしいと思っています。ということで、これからもよろしくお願いします。」


 ノエルと共にお辞儀をした。


 ノエルが口にした言葉には素で驚いた。


 私のその言葉は数学の先生が学校で言っていた言葉で、他の人からも聞いたことがあるから、前世でも有名な言葉だと思う。だけど、それを台本には書いていないのだ。つまり、ノエルはあの一度で言葉の意味を理解したことになる。そして、使っている。


 天才というのは彼のような人を言うんだよね。


 私が前世の知識を持つことは、亜人の皆には常識のように広まってしまっているけど、秘匿することにしている。


 私がこの世界で凡人に成り下がるその時までー。


 「では、今日は初回なので、国語で最初に学習する説明文を軽く読んで終わりにしましょう。もし、1年目の授業を受けている子が近くにいたら、そのサポートもよろしくお願いしますね。近くにできる人がいる方が、上達は早いはずです。」


 「姉さん、今回の説明文ってどんな内容なの?というか、2冊目って1冊目とどう違うの?」


 「簡単に言うと、文章の難易度を上げています。1冊目では身近で簡単な話題ということに注意して文章を選びました。今回は身近なことから少し離れた話題について、しっかり読めるようになりましょう。他にも文章を書くという授業や話すという授業も入れたいなと思っています。」


 「なるほど。それで、最初の説明文は?」


 「今回の説明文の題名は『自分の目を信じていいの?』です。」


 「不思議な話だね。自分の目って信じるとか、信じないとかいう話ではないよね。見えてるものが全てなんだから。」


 「これは歴とした説明文です。読んでいけば、理解できるはずです。とはいっても、すぐに読むのもナンセンスですから、こちらを見てください。上の線と下の線、どちらが長いと思いますか?」


 「矢印みたいなのは含めないんだよね?じゃぁ、皆にも聞いてみよう。では、上の線の方が長いよって思う人は手を上げてください。周りを見てみてください。どのくらい居ますかね?では、下の線の方が長いと思う人は手を挙げてください。どうでしょうか?では降ろしてください。」


 「下の方が長いっていう人が多かったように思えるのですが。」


 「僕もそう思うもん。」


 「では確かめてみましょうか。こんなふうに赤いペンで直線の端に印をつけて、こうすると......。」


 「あれ?これってもしかして、同じ長さ?」


 「そうなんです。実はこれ、同じ長さの線なんです。人の目というのは案外騙されやすいもので、こういうのを錯視と言います。今回の説明文はこの錯視について述べられたもので、これ以外にも騙される絵が沢山載っています。ビックリすると思うので、楽しい文章かな、と思って選定しました。ぜひ楽しんでください。では、ノエル、読んでもらえる?」


 「はい! では読み上げますので、文字を追いながら聞いていてください。」



 こうして、ノエルが説明文を読み上げて授業が終了した。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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