エマール領からお送りします
一度、各貴族家編を飛ばしてお送りします。
そのうち話が追加されると思います。
こんにちは。セシリア・フォン・エマールです。
よくセシルと呼ばれるから自分の名前がセシリアっていうことを忘れてしまいがちなのが最近の悩み?です。
相変わらず、増えた2本の指の使い道はわからず、ペンを持っても2本の指は暇を持て余しています。
……。
正直、一ヶ月が長いし、一日は短いし、本当に慣れん。
誰だ、人間は適応能力が高いとか言った奴は!!
今日から私とノエルは2冊目の教科書の内容に入り、教科が増える。そして、エマとセルジュが本格的に授業を行うことになり、それらが他の領でも放送されることになるのだ。
放送されるのはエマール伯爵家が懇意にしている家が治めている領で、王家が治める王都エナーメル、王家直轄領ケリルス、レオンさんたちのアズナヴール領、パルテレミー公爵家のパルテレミー領、カステン辺境伯家のカステン領、シャノワーヌ子爵家のシャノワーヌ領、ダンデルヌ子爵家のダンデルヌ領、ラコルデール男爵家のラコルデール領、ローラン男爵家のローラン領だ。
正直、多すぎるし、横文字まみれで覚えられていないのだけれど、まぁ、気にすることはない。私にそこまでは手に負えないっていうことだし。
実際のところ、全ての業務を私が負うわけではない。フランチャイズっていうのかな?放送は共有するけれど、実際の業務はそれぞれに任せる形だから、私はマニュアルをドンと送りつけただけなのだ。だって、仕方いなよね?私は既にキャパオーバーなんだから。
それまでに色々準備した。
まず始めに、制服を手配した。
生徒用ではなく、教師用だ。
導入決定の決め手となったのが放送地域の拡大だ。今まではそれぞれ私服で行っていたのだが、身内だけでないとなると、流石にまずいだろう。そして毎度正装のドレスというのも嫌だ。侍女のエマや執事のセルジュは貴族的な正装というものはなく、貴族という風に見えてあまり敬遠されるのも望ましくない。
よって、ラフでもなんかしっかりしているようなデザインにして、制服だからですと言い張ろうという作戦だ。ちょっと常識と違くても、制服だと言い張ればいいよねという安直な考え方である。
以前から考えていたことなので、そこまで手間はかからなかった。
制服は前世のブレザー式に近しい感じになった。
今回の制服はユニセックスとなるように意識した。
ワイシャツにジャケット、セーターやカーディガンは主流でなかったので今はベストを着用している。
私はズボンが好きなのでもちろんスラックスを履いているが、スカートタイプも用意した
スカートは足首まで隠れる長さで作り、同時に幅が広く、スカートに見えるズボンも作った。
ネクタイを用意したが、リボンや他のタイなどを着用しても良いことにしている。
我ながら、頑張ったと思う。
そして、私の微妙なデザイン画から実現してくれた服飾屋さんに感謝を。
他には授業の内容の調節だ。
実験の授業に代表されるが、私の知識で対応しきれない内容も、サエラさんや瑞稀、その他とのツテでだいぶ解決してきた。本当にこの繋がりには感謝しかない。
そして最後に、挨拶の原稿を考えることだ。
施策のマニュアルをつくって投げるところまではよかった。
しかし、授業という大きな施策を初めるに当たって、挨拶をすることに決定してしまったのだ。
なんでやねん!!
なんでこんなガキンチョがやらねばならないのだ。エマール領だけでないのだから、4歳のガキがやっていいことではないはずなのだ。放映するための機材がここにあるからというのが理由ならば、お父さま、伯爵がやればいいじゃない!!と思った。実に理にかなった意見だと思う。
しかし、面倒なことに伯爵家よりも身分の高い家も参加しているのに伯爵が出ては少し良くないんだと。
だから、しがらみから解き放たれた私に...って、どう考えてもこじつけだよね?
だって身分がというなら、伯爵令嬢の方がよほど身分が低い。
あ〜ぁ。泣きたいのはこっちだよ。
私は泣く泣く原稿を仕上げて、何度も練習を重ねている。
みんなの前で話すにあたって、何を話そうかなぁって思った。
まず最初に確認することは...誰が聞くのかと何を目的とするスピーチなのか。
ここを穿き違えると結局何がしたいんだか分からなくなってしまう。
[聴衆]
・エマール領の初めて授業を受ける人たち
・他の領の人たち
[目的]
・授業にやる気と興味をもってもらう
私がそれをノートのページに書いた時、隣から瑞稀が乗り出して言った。
「む?エマール領の者は皆聞くと言っておったぞ?」
「え?2年目の人たちは別の時間なんだけれど。」
呑んだくれの瑞稀の話に耳を疑った。
どうせ、酒の席かなんかの情報なんだろうけど、とても役に立つんだよな。
「だが、言っていたぞ?始めに話があるなら初めて受ける子どもと一緒に聞いておこうと。」
「マジか。それは初耳だよ。そっか...加えて、いや、趣旨がブレるから入れないでおこうか。」
私は念の為(エマール領の人たち)と()付きで書き加えた。
「姉さん、どちらも初めて授業を受ける人たちなのに、なんで二つに分けたの?」
手が空いたのか、ノエルが私のノートを覗き込んで私に尋ねてきた。
「エマール領で初めて授業を受けるのは基本的に子どもで、前回授業を受けるのに年齢が達していなかった子たちだ。少なくとも彼らの親を含めた身近な大人たちは勉強する意義やそこから生まれる楽しいこと、授業の必要性を理解していると思う。対して、他の領の人たちはそうでないんだよ。エマールでは子どもが嫌々言っても近くの大人が嗜めることもできる。しかし、他の領では参加しても本当の意味に気づいていないかもしれない。これが大きな違いだと思っているよ。」
「なるほどね。本当に理解させたいのは他の領の初めて授業を受ける人たちか。」
ノエルは納得したみたいだった。
「うん。それでもって、エマールの人たちにも飽きないように考えようと思っている。そうなると...そうだね、こうしよう。」
私は方針を決めた。
エマールの人たちがたくさん見るなら、一度、資料というかフリップみたいなものを使ったプレゼンを見てもらおうと思ったのだ。イラストを多めにし、文字は大きく少なく。読めなくても見ていられるようなものを作成する。
そして、ノエルに相談してあるものを手配してもらった。
そして、当日、1年目の授業の方が先にあるため、そこで私が挨拶してから、エマとセルジュに引き継ぎ、彼らが終わったら、2年目の授業を私とノエルで担当する。
真新しい制服に腕を通し、髪をきつく縛って、姿勢をただした私は緊張しながら放送のときを待つ。
目の前には屋敷のみんながいる。
エマとセルジュの授業は皆通ってきた道であるが、仲間の活躍として見ることにしているのだ。
そして、ノエル専属の4人は授業を行う側としての勉強、イーヴは裏方として彼らを支える。
私は深呼吸した。
放送が始まる。
私はカメラを見て、大きな声でハキハキと、笑顔で言った。
「皆さん、こんにちは。エナム王国エマール領からお送りします。」
最初から決めていた、はじまりの挨拶だ。




