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閑話 : 2回目の授業

 セシルがノエルと共にレオンに会い、婚約を結び、視察に出て、亜人たちとの交流を盛んにしていた頃、領内ではセルジュとエマがイーヴを巻き込み授業のために奔走していた。


 そして、今日。

 セシルが瑞稀と契約をした次の日、リベンジを果たすべく2回目の授業に挑む。


 「やはり、緊張しますね。」

 「大丈夫ですよ、エマ。今回は対策に対策を重ねましたから。」


 授業を行う部屋の黒板の反対側にイーヴが控えていた。


 「今日は俺も出番があるんだよな。お嬢の授業じゃないから受けなくても問題はないが、地味に疲れんだよな。」


 イーヴは少し高い机に座って大きな紙を弄りながら開始の時を待っていた。


 「おや、イーヴどうしたんだ、そんなところで。これから授業が始まるぞ?」


 パトリス、エマール伯爵家当主は授業に参加するために教室に入ってすぐ、机の上に座っていたイーヴに質問した。


 「これも、仕事なんっすよ。今日は俺はエマとセルジュの手伝いなんです。」


 「そうなのかい?まぁ、頑張ってくれ。どんな活躍をするのか、楽しみにしているよ。」


 パトリスはいつも通りの席についた。


 「パトリス、私たちはどこへ座ればいいだろうか?」


 アズナヴール公爵とレオンはせっかくだからと授業を受けることにしたらしい。

 パトリス、エマール伯爵が今日は演習が中心の内容になると忠告するも、それでも構わないからと押し通したらしい。


 「こちらの席へどうぞ。筆記するための道具は揃っているので。」


 公爵とその子息は席についた。

 それがエマとセルジュ、そしてイーヴの心労を増やすことになるのだが、それでもなんとかやり切ろうと、それぞれが覚悟を決めた。


 少し時間は遡り、セシルとノエルは図書室にいた。


 「瑞稀、酔っ払ったままでしょ?2日酔い?お酒飲み過ぎじゃない?」


 セシルは自分の腕に巻きついた小さな白蛇に話しかけた。


 「ふっ、我が此度の酒豪大会も優勝したからな。当然、アルハラはご法度じゃ。」


 (アルハラとご法度を掛け合わせる言葉選びのセンスって......。)


 心の中で瑞稀につっこみながらもセシルは瑞稀に説明する。


 「今日は私とノエルの代わりに新米の子たちがリベンジの授業をするの。だから、こっそり見にいくつもりなの。レオンさんは正式に授業受けるみたいだからここにはいないけど。」


 「新米、セシルの弟子か。」


 「そういうわけでもないよ。本当に、そういうのはできないから......。」


 「姉さんは前回の彼らの初めての授業でわざと助言しなかったのを気にしているみたいで。僕もまだ全然分からないのだけど、放置する優しさ?っていうのがうまくいくか心配なんだよ。」


 ノエルが言い淀んだセシルの代わりに瑞稀に説明した。


 「そうか。そういうことの経験はなかったか。突き放すのがどのくらいかの匙加減というのは難しいのう。我も理解できるところだ。スケとカクも難しいところであったし。それに、その様子じゃ、失敗した後もなるべく助言を与えないように気をつけていたのだろう?」


 瑞稀はセシルの心配事を当てた。


 「そうです。だから、彼らに心配かけずに授業を見に行くのです。」


 セシルは強く決めていたことを告げた。


 「なるほど。お前一人なら我が姿が見えないように隠してやれるが。弟がいるとなると、楓を呼んだ方がよいな。」


 と瑞稀が言った瞬間セシルとノエルの目の前に楓が現れた。


 「話は聞いていた。瑞稀さまとセシルは問題ない。ノエルを一緒に見えなくする。」


 「うむ。頼むぞ。」


 「あ、うん。姉さんと一緒に見れるなら。よろしく。」


 ノエルはよく分からなかったが、勢いに乗せられて楓に姿を隠してもらうことになった。


 そして現在、セシルは瑞稀に、ノエルは楓に姿を隠してもらい、授業直前に部屋の後方に忍び込んだ。


 「姿を隠すのみで音は隠せないから注意せよ。」


 と事前に瑞稀から助言をもらっていたため、声を出さずに、音を立てずに、気をつけて待機した。


 『おい、聴こえるか?我とセシルは契約で繋がっておるから近くにいればこうして声を使わずに話すこともできよう。心の中で話すようにしてみるといい。』


 『これでいい?』


 『あぁ。聞こえるぞ。で、あの少年はなんだ?』


 『あれはイーヴ、うちの庭師。今回は......机に登っているところと紙を見ると、あれだね、カンペ係。』


 『カンペ、カンニングペーパーか。台詞を全部読み上げるためのカンペを持つ役か?』


 『そう。前回下見てばっかりで前向けなかったことが反省点だったから、それの対策だと思うよ。』


 『なるほど。で、その案は自分たちで考えたのか?』


 『恐らくは。私のノートを除く許可は与えたのでそこから派生させたのだと。まぁ、やったことはありませんが。』


 『なるほどな。』


 こうして、セシルと瑞稀は静かに会話を続けていた。


 しばらくして、時間となった。


 「こんにちは。本日もお嬢さまとノエルさまの代わりに授業を行うエマです。」

 「同じく、セルジュです。」


 明るく、笑顔で、挨拶から始まった。


 「今日の算数もテストを1つとお楽しみ問題を1つ用意しています。」

 「そして、後半の国語では以前学習した<ベルと小鳥とわたし>を参考にして自分だけの詩をつくっていきます。」


 「では、まずは毎度お馴染みタイムアタックです。セルジュさん、いつも通り説明お願いします!!」

 「はい。制限時間はいつも通り、この砂が全て落ちるまでです。終わったらそれぞれの教会ごとに回収して、こちらで確認をします。では、会場の司祭どのに配って頂きましょう。」


 (結構、うまくやってるじゃん。姉さんや僕に泣きついてきた時より数段階いいね。イーヴが大変そうだけれど。そっちに書く文字もかなり削ってる。これが考えた結果か。)


 ノエルは感心したように授業を見ていた。


 (前回、配り終わる前にコッチが進めちゃったらしいから、注意しないと。まだ、まだよ。待つ......。)


 エマはエマでタイミングを読むためにすぐに次に進みたい衝動を抑えていた。


 そして、イーヴがもう一つの小さな砂時計を観察して、それの砂が落ち切ったところで次のカンペを挙げた。


 「皆さんの手元にテスト用紙は届きましたでしょうか?それでは始めます。よーい、スタート!!」


 エマがアナウンスすると同時に大きな砂時計をひっくり返した。

 そしてエマとセルジュは一礼をして画面から消えた。

 イーヴも一旦休憩とばかり力を抜いて休んでいる。

 そして、それぞれが次からの工程の再確認を始めた。


 対して、生徒側はとても真剣に集中して問題を解いている


 砂が落ち切った時、エマとセルジュはまた気分を一新して教壇に上がるのだ。



 こうして、授業は進み、終わった。


 「とても充実した時間だったよ。セシルやノエル以外にもちゃんと授業ができる人がいたんだな。人材が豊富なのはいいことだ。」


 公爵が満足そうに言った。


 「レオン、お前はどうだった?」


 「私も、すごく勉強になりました。計算のテストでは少し悔しかったですが。」


 「素直が一番だな。だが、それについては全く同意見だ。練度がやはり違う。」


 公爵もレオンも授業を受けることが新鮮でありながらも、テストの成績に満足するつもりはないようだ。


 セシル一行は授業が終わった瞬間、こっそり部屋を出て、図書室に移動していたため、このやりとりを聞くことはなかったが、このやりとりを聞いたエマとセルジュ、そしてイーヴは密かに嬉し涙を流していた。彼らは、報告するためにいち早く図書室へ向かった。


 エマ、セルジュ、イーヴが図書室に姿を表したとき、セシルとノエル以外はまた姿を隠していた。


 ノエルは彼らの顔を見て、

 (また泣いているのか?)

 と内心、呆れていた。


 「で、どうだったの?」


 セシルは前回と同様、ぶっきらぼうになるように最大限意識しながら声をかけた。


 「はい、前回の対策はうまくいきました。この、イーヴもつかって、何を言えばいいのか分からなくならないように、そして、前を向いていられるようにできました。正直、アズナヴール公爵閣下を見てから頭が真っ白になってしまいましたが、イーヴの持っていた紙のおかげで、なんとか凌ぐことができました。」


 「私も。なんとかやりきれました。間違えても、なんかダメだと思っても、なんとか笑顔で隠しきりました。セルジュにイーヴが協力してくれて、なんとかやり切れましたが、毎回イーヴがもつ紙を作らずともできるように方法を考えたいと思います。それに......公爵さまも満足してくれたそうで、私...嬉しくて。」


 「俺も、今回はお嬢たちに頼まれたわけじゃなかったが、こうやって授業ってするんだと思って。俺のときは大変だろうって思ったけど。こうやってみて、出来たことが嬉しくて。」


 セルジュ、エマ、イーヴがそれぞれ言った。


 (想定外のアクシデントにもなんとか対応して、イーヴを巻き込むという案、そしてエマは次の見通しまで。前回と別人じゃない。いい意味で予想を裏切られた。)


 (嬉し涙か。にしても、泣きすぎだろ。)


 セシルとノエルはそれぞれの変わりように驚いていた。


 「もう、大丈夫そうね。安心できた。来月からエマとセルジュも休息日ごとに授業をすることになるから、イーヴも加えて頑張って。イーヴも数ヶ月したらもっと小さな子に向けて授業をしてもらうから、その練習だと思って欲しい。そして、エマとセルジュの授業だけど、他の領でも放送するそうだから、観る人は私たちのときよりも増えることになると思う。そこも意識して欲しいかな。来月からは私とノエルの授業も新しい教科書に入るし。頑張りましょう。」


 セシルは爆弾を次々に投下した。


 やっと、細かい修正点はありながらも、授業をやりきることができたというのに、まさかの他の領での放送。本人らによりプレッシャーがかかったことは間違いない。さらに、新しい教科書の内容も勉強する必要があるということは、大変なことになるということが目に見えているのだ。


 「これからは持続可能な対策を立てなくてはね。」


 そんなことをセシルが笑顔で言っても、彼らの心境は変わらず、むしろ、焦るしかない。


 (姉さんは授業を毎週行いながらテストと教科書、教材作りを並行していたのだから、不可能ではないだろうけど、流石にキツそうだから、数ヶ月間は他の仕事が減るように根回しをしておこうか。)


 ノエルは三人衆の様子を見ながら彼らの仕事が軽くなるように根回しすることを決めた。ちなみに、そこら辺にはセシルは思い至っていない。


 (持続可能なってSDGsみたい。なんか、環境問題とかに使いそうな形容詞だよな。)


 セシルは呑気に関係のないことを考えていた。


 少し話をして、三人衆が図書室から出て行った後、セシルはあまりの嬉しさにニヤケが止まらなくなっていた。


 「よかったー!! きっと大丈夫って信じてたけど、ほんと良かったよ〜!」


 (結局、一番心配してたのは姉さんなんだよな。)


 ノエルはそんなセシルを見て、微笑んでホッと溜息をついた。


 「比較対象を知らないからなんとも言えんが、セシルが信用したというのなら、それだけの人物なんだろう。よかったな。」


 蛇の姿のまま、瑞稀はセシルに言った。


 楓は既に撤退し、陰で楽しく二号機で将棋をしていると皆に思われている。当然、その予測はあたりなのだが。


 セシルの『後輩の育て方』というノートにまた一つ、今日の出来事が書き加えられたのだった。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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