レオンの主張
瞼が重たい。
目を開ければ天井が見える。
起きなきゃ、と体を起こすと若干体が重くて。
まるで、低血圧に悩まされた前世の体のようだった。
確か......白蛇の蛟さんと契約をしたような。
「起きたか、セシル。我が主よ。」
声の聞こえてきた方向に目を向けると、わぁお!!超イケメンな侍が立っているではありませんか。
「どちら様でしょうか。」
「覚えていないのか?我が蛟だ。今は名をもらって瑞稀だがな。」
あ、思い出した。
契約が終わったと思ったら、眠気に襲われて、助けてくれたイケメン侍だ。
眠いというのに名前が欲しいとかぬかして瑞稀という名前をつけた、はずだ。
「瑞稀さんだ。確か、魔力をたくさん使ったから眠ったという話だったけど。」
「そうじゃ。気分はどうだ?」
「低血圧みたいな体のダルさだよ。」
やべ、敬語が抜けてる。
ま、いいや。面倒くさ。
「低血圧とはな!面白い喩えじゃな!!」
「血圧ってアレだろ?酒飲んでしょっぱいもん食べてっと上がるってやつだろ?高血圧になるから控えろという教えのアレだ。」
五月蝿い、頭に響く.....。前世じゃ慣れてたけど、この体じゃ滅多になかったからな。
そして佐助、血圧に対する認識が粗雑すぎやしないか。
「で、私のが契約で魔力使ったのが原因なら、ノエルとレオンさんはなんで倒れてるんですか?」
「我の魔力に当てられたんじゃろ。」
「みっちゃん、これでも神獣だからな。」
「瑞稀さま。次の手。」
「おう。」
魔力に当てられた、か。よく分かんないけど、酔っちゃったとか、そういうの?
そして、最後の台詞、楓だよね?
声の主を探したら、案の定、楓がいて、瑞稀さんと将棋をしていた。
帰ってくるの早くない?
「ふむ。これは難しいが...こうだな。で、なんの話だったか?」
イケメン侍とツインテールの忍者っぽい少女が将棋を指している絵面。そして、洋風の建物。
「ノエルとレオンさんが倒れている理由の話です。魔力に当てられて倒れたのって目覚めるんですか?」
「あー、そろそろ目覚めるだろう。我の魔力も人を殺すような凶悪な代物ではない。ん?待てよ。その手を打たれると、いや、これだとこの駒がこうなった時に......」
将棋に夢中なようです。
「みっちゃんの奴、楓に将棋に誘われたら直ぐに乗りやがって、俺が花札誘った時は即却下されたってのに。」
佐助は拗ねてるし。
なんなんだろ。
そうしてると、ノエルとレオンさんが目覚めた。
「ん?なんか、契約とか言ってたんだけど、なんで寝てるだっけ?」
「セシルは無事か?」
「餓鬼ども起きたか。」
「佐助さん?姉さんは?」
「馬鹿か。そこに居んだろ。慌てすぎだ。」
「姉さん!!」
「セシル!!」
慌てて私の方を向いた二人にちょっと不思議な感じがした。
「??おはよう?」
「おはようじゃないよ、セシル。ふらっとしているところを見て慌てたんだからな。」
「危なかったかもしれないんだよ?危機意識もってよ。」
「でも、無事だったわけだし、むしろ、倒れてたのは二人のほうでしょう?私は疲れて寝ていただけですし。」
「疲れて寝てた?」
「それだけ?」
それがどうかしたのだろうか?
そんなに溜息つくことでもないと思うのだけれど。
あと、私を心配するなら少し静かにしててほしい。
「起きたな。」
「??誰?」
瑞稀さんを見た二人はハテナマークを浮かべていた。
どっからどう見てもイケメン侍だからな。
「白蛇、蛟じゃ。セシルに名を貰ったから今は瑞稀だ。我のことはそう呼ぶといい。」
「......そんな姿じゃなかったと思いますが?」
「契約したから主の姿に寄せたのだ。我は見た目も自由自在、とな。」
それは参考書に掛けているのか?
自分は参考書だという自覚があるのか?
もはや必携異世界事典を自称しているのか?
「我が主、セシル!!」
いきなり、抱きつかれても、困るんだよ。
そして、イケメンだし。
驚くだろ、そんな距離感。
「その姿じゃ私の近くに居て違和感しかないのですが。」
「む?なら、人前では小さな蛇に擬態して腕にでも巻きついていよう。その上で姿を消せば完璧だな。うむ!」
「だったら問題ないね。よろしくお願いします。」
「こちらこそだ。」
握手を交わして挨拶も上手くいった。
そう、思ってました。
「問題ありだ!!」
急にレオンさんが叫んだ。
「なんだ。なにも問題ないじゃろ。セシルもそう言っとる。」
うんうんと私も頷く。
「いや、大問題だ。俺はセシルの婚約者だ。」
「だから何か?」
「それが何か問題?」
よくわからない理由だけど。
「流石に他の男の影がチラつくのは良くないだろう。」
「あぁ。貴族界の評判のことか。そういうのって、界隈じゃ話題になりそうだよな。好きな人も多そうだし。」
「そうなのか?」
「貴族はよく知らないけど、やっぱり、有名人とかの不倫は結構話題になりますよ。別に愛妾とかは貴族じゃあまり問題ないだろうけど、逆?っていうのかな?女性の不倫は良くないかもしれない。だったらむしろ、商業的にやってるところとかの方がいいかも。ちゃんと口止めとかしてくれそうだし。」
「商業的にって、姉さんどういうこと?」
「ん?子どもは知らなくていいんだよ。というのは嫌いな言葉だから言うけど、ざっくり言うと風俗のこと。」
よく、子どもは知らなくていいって言われるけど、やっぱり、義務教育で習うべきっていう意見が多いよな。
子どもだからと変に隠されるのは私も嫌いだったし。
「フウゾク?」
「餓鬼にゃ、風俗じゃ通じねぇか。後で俺が教えてやる。まぁ、実践は大人になってからだがな。」
私が話すよりは佐助の方がちゃんと話せるだろうから、放置しておこう。
実践させるつもりがないなら問題ないしね。
「不倫が前提なのは何故だ?我とて浮気や不倫の知識はあるし、実際、見たこともあるが、ここまで結婚前から前提とはしていなかったぞ?」
「貴族ってのは政略結婚が多いですから。問題ない家庭もたくさんあるでしょうけど、政略で上手くいかないなら結婚とは別にそういう人をつくるっていうのは一つの方法でしょうね。」
「なるほどな。理解はできる。」
「貴族が平民の愛妾を持ったところで適当に口止めできるでしょう。」
「身分とは面倒だな。」
「私もそう思います。」
話がどんどん弾んでいく。
一夫一妻制で政略結婚もない上、恋愛・結婚に興味なかった高校生じゃ、その程度の知識だ。全てが予測に過ぎない。さらに、不倫のワイドショーも、どうでもいい、と思っていたから、そこらへんの知識も少し低い。とはいえ、人の不幸は蜜の味というのはわからなくもなかった。
......そして、レオンさんのことを忘れ去っていた。
「そういうことを言ってない!!というか俺は愛妾とかもつつもりないからな!!」
あまりに無視し過ぎて謎の宣言をしたレオンさんに、ちょっと悪いなと思った。
「若い頃は皆そう言うんですよ、フフフ。」
「そうね、皆んな最初はそう言うんですよね、ウフフ。」
井戸端会議する奥様のように巫山戯けて瑞稀さんと芝居をした。
あ、意外と合うなこの人。
「ん?少年、そういうことか?」
「この餓鬼、そうなのか?」
瑞稀さんと佐助がよく分からないことを言っているけど、どうにかこの場を収めないと。
「そもそも、我は無性だ。寿命もなければ、死んだら暫くして再び発生する、そういうものだ。だから浮気もに不倫にも無縁なのだ。ついでに、性欲もない。」
随分とあっけからんと言ってしまいますな。
「いや、それでも......。」
何故そんなにムキになっているか知らないが、理屈と心情は別というのは分かる。
「とはいえ、それでも納得できんなら、これでどうだ?」
瑞稀はボンッと蛇に戻ってから頭を捻ってうーんと唸り、ボンッとまた変身した。
「これなら女子のように見えるじゃろ。我、老若男女に化けることくらい容易いぞ。とはいえ、基本は決まっておるから、全くの別人となると、少々別に魔法を使わねばなるまいが。」
「確かに、肩幅が狭くなって髪が伸びて背が縮んだ。服も変わったね。胸は......ないけど、睫毛とか長くして、色々したのかな?」
「見た目を女性に寄せたが無性に変わりないからな。胸もその他、子孫を残すために必要なものはない。臓器も色々と足りなかったりするぞ。そして、我はこの姿なら食事を人間に近しい味覚で味わうことができるのじゃ。」
へぇ、色々あるんだね。
「で、そこのレオンとか言ったな?これならば問題あるまい?」
「はい、問題ありません。わざわざありがとうございます。」
レオンさん、満面の笑み。何がお気に召したんだか分からないけど、よかったね。
レオンさんの好みはこういう人なのかも。意外と和風な趣味を持っているんだね。姉御って感じだ。
白髪に赤い目、水が連想される美しい着物。型としては袴に近く、腰には日本刀らしきものが刺さっている。
私の理想は、もっと完全に男によった感じで、髪もショートで化粧もなし、どっからどう見ても男って感じだ。何故なら、身だしなみが楽だからだ。偏見で申し訳ないけど、母とか見てると、ドレスってコルセットとかキツそうだし、自分で脱ぎ着しにくそうじゃん?そして、フリルは動きずらい。髪は短い方が楽。化粧は、自分じゃできない。侍女さんに任せるにしても、服や髪が男によるならそちらを貫いたほうがカッコいい気がする。
やばい、話がずれた。
まぁ、どうやら、レオンさんがご機嫌というだけだ。うん。
「では、セシル。我はこれから飲み会でな。契約の記念の祭りじゃ。セシルに参加を強要するつもりはないから安心するといい。では佐助、行くぞ!!」
「っしゃあ!!さっちゃん、今日は潰してやるぜ!!」
二人はそう言って一瞬にして消えた。
「嵐のような人たちだったね....」
呆然としてノエルがつぶやいた。
「いつものこと。気にしない。」
いつの間にか隣に来ていた楓が言った。
「レオンさん、これは土産。どこに持っていっても構わない。」
楓はレオンさんに将棋盤と駒を手渡した。
「あとは、コレ。将棋のルールが全て書かれてる。戦略も。ちゃんと共通語だから安心して。」
そして懐から巻物を取り出して渡した。
って巻物??
「セシルも。こっちは日本語。縦書きで筆で書いてある。」
「へぇ、和紙に墨かぁ。懐かしい香りがする。ありがとう。」
「セシルにはもう一つ土産。筆ペン。とても便利。」
「......ありがとう。とても嬉しい。」
ってカートリッジ式??
墨付けずにキャップ外したらそのままかけるやつ。
「っウッソ!!マジで、くれるの??超便利じゃん、ありがとう!!」
「うちじゃ珍しいものじゃない。筆ペンじゃなくても、インクいらずのペンはいくつかある。今度持ってくる。」
「ありがと。大量生産お願いしたいくらいだよ。勿論、お金はだします!!」
キャー!!
すごいよ!!筆記用具の革命だよ!!
早く欲しいなぁ。
「カエデ、すまない。返事が遅れた。ありがとう。向こうでも練習してまた対戦してもらえるように頑張るよ。」
「将棋の沼なら大歓迎。対戦待ってる。」
楓は簡単にレオンさんに返事をした。
「私もそろそろ消える。そこら辺にはいるから、呼べば多分反応すると思う。でもいないと思って。あと、二号機で遊んでる。」
楓は手短に今後の説明をした。
「ありがとう。会えて嬉しかった。またね。」
「バイバイ。ミラージュ。」
そう言ってその場から姿を消した。
......ミラージュって蜃気楼のこと!?ねぇ!?新たな謎を置いていかないで...!!
面白い、続きが気になると思って頂けたら、評価をお願いします!!