閑話 : 契約の後
「セシルも眠っちまったか。」
佐助が息をついた。
「随分と魔力を使うからな。瑞稀か...いい名を貰った。」
蛟あらため、瑞稀は新しい名前に若干興奮していた。
「瑞稀、響きが似てんのは意図的かぁ?」
「そうかもしれん。お前がみっちゃんと呼ぶからかもな。」
「瑞稀でもみっちゃんだもんな。」
これからも、変わらず、みっちゃんと呼べることに少し嬉しそうな佐助である。
瑞稀はセシルを所謂"お姫様抱っこ"で抱き抱えて、近くの長椅子におろした。
「さて、そちらをどうするか。」
瑞稀の目線の先にはノエルとレオンが倒れていた。
「みっちゃんの魔力に当てられたんだろ。ったりめぇだ。」
「佐助だって倒れてよかったんだよ?我が看病してやったものを。」
契約の儀式で唯一倒れなかった佐助をジト目で見た。
「さっちゃんの魔力にゃ慣れてっからな。よく、酔っ払って魔法ぶっ放してんじゃねぇか。」
瑞稀は意外と酒癖が悪かった。
「佐助、普通は我の魔力に当てられたら倒れるものだよ。」
「普通って知らねぇよ。倒れてねぇんだからさ。」
「まぁ、どうでもいいが。」
「どうでもいいんじゃねぇか!!で、この餓鬼どもどこに寝かせておくんだ?」
「そうだな。川の字にでも並べておくか。」
瑞稀はノエルを、佐助はレオンを抱き抱えて移動させた。
「とはいえ、その見た目、慣れねぇな。前もそんな見た目だったのか?」
長身、袴、イケメン。
アニメに出てきそうなサムライで、髪は後ろで一つに束ねている。
「いや、以前は金色の着物をきていたな。我は特別なにも思っていなかったのだが、どうやらそれが主の好みらしくてな。普段はもう少し地味な格好をしていたが、いざ、成敗するときには決まった格好をしていたのだ。印籠を出すところまで再現させられたわ。まぁ、いい思い出だな。」
「昔のこととして語られても、俺にとっちゃ、伝説の話だからな!!」
「今度の主、セシルは貴族の娘じゃ。持てるものが多いから、為すことの規模も必然、大きくなろうて。今から楽しみじゃ。」
「人間って数が異様に多いからなぁ。それをやるってんなら、すげぇことになるんだろ。」
そこにスッと現れたのは楓だ。
「戻った。」
今日中にと言っていた割に、意外と早かった。と驚く者は今は眠りについていた。
誰もツッコミを入れることはできない。
「!? 蛟さま?」
楓は当然のように敬称をつけて呼ぶ。
佐助の方が異常なのだ。
「おっ! よく分かったな。我は姿を変えていたのだが。」
「......分かる。」
でも、敬語は使わない。
蛟に会ったことがある亜人ならば姿が変わろうと、本人であることが分からなくなることはないのだ。
「想像の通り、契約を結んだ。我の名は瑞稀じゃ。響きが似ておるから、覚えやすかろう。」
「瑞稀、さま。」
楓はいいなまえ...と呟いて微笑んだ。
「瑞稀さま。」
「なんじゃ?」
「瑞稀さまの主、セシルを呼び捨てにしても大丈夫...ですか?」
先ほど、互いに呼び捨てで呼ぶと約束してしまった楓は戸惑っていた。
普通に考えて、自分より目上の瑞稀の主なら当然楓から見ても目上である。
「問題ない。主もセシルと呼んでほしいと言っていた。」
その言葉にホッとしたように微笑んだ。
「して、何をしに行ったのじゃ?」
「将棋の盤と駒、そこのレオンさんに渡すのを持ってきた。」
「ほぅ?また将棋を布教するつもりか。」
「巻物もある。」
楓は得意げに懐から巻物を取り出した。可愛らしいドヤ顔に瑞稀は微笑んだ。
「なら、其奴らが起きるまで我と一局どうだ?」
「やる。」
無表情ながら興奮して目が輝いている楓はレオンに渡す方でなく、お気に入りの二号機を素早く準備した。
「みっちゃん、俺と花札やろーぜ?」
「佐助、お前とは呑み比べする約束をしたであろう。」
佐助は即振られた。
三人が目覚めるまでしばらくの間、彼らは歓談を楽しむ。