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読み・書き・そろばん

 「え?いいの?楓のお気に入りのセットだと思ったのに。」


 私は楓に言った。

 というのも、その巾着の柄が楓だったからだ。


 「確かに気に入ってる。でも、どうせ、ここにいる時間が長いなら二号機は置いておいていい。」


 あぁ、持ち歩き用で、一番気に入っているのは自宅にあるのね。

 そして、これからはここら辺を拠点にするから置いておけば自由に将棋ができると。

 こっそり持ち出して自分も将棋をやるつもりだと。


 「しかし、俺はあと数日で領地に戻らねばならない。流石に領地には持っていけないだろう。」


 レオンさんは少し残念そうに言った。


 「ここでやるならと思った。......一度戻って持ってくる。今日中に戻る。」


 楓はそう言うと目の前から一瞬で消えた。


 そんなに将棋を布教したかったのか......。


 「行ってしまったな......。」


 レオンさんが呆然と言った。


 「だが、将棋が領地でもできるのなら、これほど嬉しいことはない。」


 レオンさんも将棋にハマるのかな。

 本気で勉強されたら、多分勝てないよな。


 というか、将棋でよかった。私は囲碁もチェスもルールがわからない。


 さて、ここまで放置してきたノエルはというと......。


 「これが、ここで......。まだ、この数字には慣れない.....。」


 10進数に苦戦しながらも算盤に挑んでいた。


 私は算盤ができない。

 小学校で一瞬触ったことがあるが、便利だと思うところまではいかなかった。

 普通に計算した方がよほど速い。


 「慣れねぇだけで、一発で理解してんだから、既に異常だ。」


 うん、私もそう思うよ。

 佐助は呆れたように言って、それにノエルは苦笑いして謙遜しているけれど、私よりよっぽどノエルの方が天才で覚えもいいと思う。意味分かんないくらいに。


 近寄ってみると、私の知っている算盤と形は一緒だった。


 「これがソロバン?この間言っていた計算するための道具?」


 レオンさんは近づいて興味深そうに見ている。


 「あ、姉さんにレオンさん。終わったんだ。僕はソロバンというのを教えてもらっているのだけれど。姉さん、これが姉さんの使っている数字なんだね。」


 「うん......。こちらの方が慣れていて、使い勝手も良くて...。」


 ワクワクしながら聞いてくるノエルを適当に受け流した。


 「このソロバンは興味深いよ。慣れてきたらとんでもないスピードで計算できそう。こっちの数字に直すのが難儀だけど。」


 既に、ソロバンの利便性を理解しているらしい。

 正直、コンピュータ世界の人間としては物足りないし、計算機でもないと有り難みを感じないんだけど。


 「うん。存在は知っているけれど、私も算盤は扱えないから、佐助さんにしっかりと教わった方がいいと思う。」


 手で計算する時代、ソロバンは凄い味方になるだろう。


 「意外だな。できねぇのか?」


 「できないよ。少し触ったことはあるけど、習ったことはなかった。」


 佐助に聞かれたが、正直、珠算教室にでも通ってないと算盤なんて扱えないと思うよ。


 「あっそ。要は計算ができりゃいいんだ。っつーか、楓はどこ行った?将棋は?」


 佐助は算盤が使えなくとも計算できればどうでもいいらしい。


 「将棋は私が負けた。楓は新しい将棋盤と駒のセットを持ってくると言って消えた。今日中には戻るそうだ。」


 「新しいセットだぁ?その二号機を屋敷に置きっぱなしにしていつでも将棋をするつもりだと聞いていたが。」


 最初からそのつもりだったのね。

 楓はかなりの将棋好きみたいだ。


 「レオンさんにあげるそうだよ。将棋の沼に引き摺り込むって。」


 「あ゛〜。御愁傷様。」


 何かを察したようにレオンさんに南無南無〜している。


 「佐助さんは将棋しないの?」


 「呼び捨てでいい。俺は将棋のルールは知ってるが、コッチのが好きなんでな。」


 佐助は懐から四角い箱のようなものを出した。


 「花札??」


 「御名答。テメェ、花札もできんのか?」


 「一応は。少し微妙だけれど。難しいのは分からないから説明は必要。」


 祖父母とやってたことがある。

 理由はあるアニメでやってたからなんだけど、コイコイとか、猪鹿蝶とかまでは理解する前に終わった。完全な花札というより、超基本ルールのみ適用した亜種なんだろうな。


 「なら、やろうぜ。説明はする。」


 その誘いに乗ろうとしたが。


 「佐助さん?ソロバン教えてくれるんだよね?」


 ノエルが止めた。


 「あ゛?そんなの明日でもいいだろ。十分やっただろ?」


 この様子じゃ、この人勉強嫌いだったな。


 「まだ不十分。あと寺子屋の話も聞いてない。」


 「寺子屋?佐助、集落に寺子屋があるの?」


 私も流石に寺子屋は聞き流せなかった。


 「ったく、面倒な兄弟だなぁ。クソッ。寺子屋は餓鬼の頃全員通うんだよ。読み書き算盤は必修だかんな。」


 時代劇好きな現代日本人が居たんだと聞いたところから推測していたけれど、ここまで江戸時代に似せる必要あったかな?まじで寺子屋だし、読み書き算盤だし。


 「さっきの楓って子もそのソロバンというのを使って計算できるということ?」


 驚いてレオンさんが尋ねた。


 「ったりめぇよ。義務教育ってヤツだと。クソいらねぇ。」


 この人、マジで勉強嫌いだな。

 でも、花札やるなら、当たり前に計算できないといけないよね。

 そして、義務教育、恐らく明治時代以降のワードが出てきた。


 「義務教育??」


 レオンさんの頭がハテナで覆われている。


 「年齢に合わせて全員が教育を受けなければいけないということです。子供を働かせて教育機関通わせない親には罰があったそうで、学力水準、識字率が大幅に上がる施策ですよ。」


 あまりに疑問に思っていたようなので解説する。


 「親に罰則なのか......。」


 レオンさんは納得したようだった。


 「寺子屋が終わったら、晴れて専門学校ってとこで訓練受けながら忍びをするってわけだ。」


 「忍者に専門学校あるの?」


 時代がはちゃめちゃなんだけど。


 「忍者にならねぇ奴も少数いるが、ほとんどが忍者やるってんなら、一気に教えた方が効率がいいんだと。」


 寺子屋卒業して専門学校。

 違和感が半端じゃない。

 江戸時代っぽい学校から、明治以降と思われる、現在もある専門学校へ。

 そして通貨は江戸時代。


 破茶滅茶無茶苦茶

 すごい茶って漢字がゲシュタルト崩壊を起こしてる。


 「へ、へー。そうなんだ。」


 脳内でツッコミが爆発しているため、適当に相槌をうつしかない。


 「どーでもいいから花札やろうぜ。」


 そして、話は花札に戻る。


 この人たち、賭博とかしてんじゃないかな?


 ルールを確認しながら花札を楽しみましたとさ。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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