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くノ一

 視察から戻った翌日から、レオンさんはいるが、通常通りの過ごし方をする。


 「えっと......他に繋げて授業を放送するなら、バックアップ要員のためのマニュアルが必要で......」


 公爵さまに宣言した他の領での授業放送に向けた準備を始めることにしたのだ。

 授業は放送するし、教科書等も提供するが、いくらなんでも、ウチだけで丸つけなどの作業をするのは不可能だ。そのための人員は用意するそうだから、誰でもその作業ができるようにマニュアルを作成するところなのだ。


 「急に授業内容の変更ができないところが辛いが......丸付けだけ依頼できればいいかな?そうすれば......」


 そんな感じで、他の領の指導についての検討をしているのだが、うん、最低限お手伝いさんは文字の読み書きができることを条件に加えよう。


 「そうだっ!!」


 私は思い出して立ち上がった。


 「セシル、どうしたの?」


 そう言ってこちらを見てくるのはレオンさんである。

 彼はもう暫く滞在するらしいのだが、こうやってずっと私とノエルの作業を見ているのだ。


 本当に暇なの?

 確かに人の家って暇かもしれないけれど、それで暇は潰せているのかな?


 「いや、その...やることを思い出してしまいまして。」


 私は部屋から持ってきた封筒を取り出した。

 これはサエラさんから受け取ったものだ。

 彼女曰く、欲しい情報は全部入っているらしい。


 「姉さん、やることを増やすなら言ってね?僕もまだできるからね?」


 ノエルに心配されているが、今回は問題ないと思う。

 因みにノエルは次の教科書のためのテスト問題を作成中だ。教師を交代したほうがいいんじゃないかな?


 「いや、大丈夫だと思う。すぐ終わるから、多分。」


 「多分??」


 そう、多分すぐに終わるはずなのだ。

 手紙を読むというだけだからすぐに終わるのは間違いない。しかし、読んだことから新しい仕事が湧き出てくる可能性があるのだ。


[情報料は貸しにしておくよ。]


 と一行目に書いてあって、そこから情報が連なっている。


[亜人ネットワークは意外と広く、王都など他の地域にも点々と存在している。全てが友好というわけではないが、基本的に人間から隠れ暮らしているという点で共通。亜人のリストは以下を参照。]


 特色とともにわかりやすく表にされている。


[忍者の連中はエマール領内は全て手中に収めている。独自の連絡技術ですぐに情報を共有する。アンタの近くにもおそらくはいる。アンタも見知ったアイツをつけているから、言伝があるならソイツに頼むこと。あと、私はばあさんではない。]


 「へ??」


 間抜けな声が漏れてしまった。


 「<拙者のことであろう。>」


 と目の前に音もなく現れたのはサエラさんの家で知り合った忍者だった。


 「<拙者、佐助と申す。以後よろしく頼む。>」


 「へ??」


 あまりに急な登場に読んでいた私ですらびっくりしたんだ。

 その情報を知らなかった二人はというと、声なく驚いて固まっていた。


 「<佐助って名前だったんですね......。昨日ぶりです。......まさか、猿飛とかいう苗字だったりしませんか?>」


 「<確かに、拙者は猿飛佐助ぞ。>」


 マジか。

 よくわかんないが、The・忍者★みたいな名前じゃないか。


 「サスケ、さん。どのような御用向きで?」


 「はぁ。テメェがそれ読んでっから出てきてやっただけだろうが。まぁ、用が全くねぇって訳じゃねぇ。隠れてねぇで出てきな。」


 相変わらず、この世界の言葉では粗雑に話す佐助である。そのギャップは本当に面白い。

 忍者の装束はやはり異世界で少しアレンジされているようで、着物の下にハイネックみたいな服をきて、襟巻きと耳が隠れる帽子を装備している。


 佐助さんが出てこいと言ったら目の前に女の子が現れた。見た目は十代半ばくらい、いや、もう少し幼いかな?

 似たような格好だが、細かいところが少しずつ違っていて、頭の上の方で二つに纏めた髪がぴょこぴょこしている。


 「この屋敷にも何人かいるが、俺とコイツは一応顔を知っといてくれ。ばあさんに手紙があるときは俺らを呼べ。いいな?」


 「うん。ありがと。」


 私は素直に感謝したが、佐助さんは目を逸らした。


 「感謝されることじゃねぇが。まぁいい。おい、挨拶しろ。」


  「楓。歳は九つ。」


 その子は小さな声で必要事項を端的に告げると黙ってしまった。


  「コイツァ口下手なんだ。無愛想なとこは見逃してくれ。だが、流石にこれだけはキツイなぁ。セシル、テメェは将棋できるか?」


 佐助は楓さん?ちゃん?のフォローをすると私に将棋ができるかを尋ねてきた。


 「えぇ。ルールは分かるし、一応できるけど、強くはないよ?」


 「あぁ、問題ねぇ。ただ、コイツが将棋が好きで、一度将棋をやりゃ、少しは距離を縮められるだろうってだけだ。」


 なるほどね。


 「そういうことなら、楓ちゃん?さん?。将棋でひと勝負いかがですか?」


 佐助の思惑に乗って誘ってみると、無言で素早く懐から駒の入っているであろう巾着と盤を取り出した。心なしかノリノリな気がする。

 ヤバイ、これ絶対負ける。

 でも、問題ない。

 目的は仲良くなることだ。


 「......こちらを無視されても困るんですよ。姉さんにばっかり......。仕事があるんですよ!」


 ノエルが拗ねるように言った。


 「いいじゃねぇか。これだって大事なことだぜ?それによ。約束の算盤、教えてやるって言っても文句言うのか?」


 約束の算盤?いつそんな約束をしていたんだか。

 恐らくは、私がサエラさんと人生相談的なことをしてた時だと思うけど。


 「それが、算盤??」


 佐助は懐から算盤を取り出してジャラジャラと鳴らしてみせた。


 「あぁ。ちゃんと2つあるぜ。10進数を覚えにゃならんが、そんくらいなんとかなんだろ。」


 ノエルと佐助は二人で向かい合って話し始めた。


 そちらを見ていたら、服をクイクイと引っ張られた。

 引っ張っていたのは楓ちゃん、さんで、見たところ将棋の催促のようだった。


 「それが将棋というもの?」


 レオンさんはこちらに興味があるようだ。


 「邪魔しないから、見てるだけ。」


 そう言って、見学する気まんまんのようだ。


 楓ちゃん、でいいかもう。

 楓ちゃんはレオンさんをものともせずに盤を広げ、ジャラジャラと駒を出した。


 楓ちゃんは黙って駒を最初の位置に並べていくのを見て、私もそれに倣った。


 「ふぅん。」


 本当に黙って見ているだけのレオンさんがなんか不気味。


 「<よろしくお願いします。>」

 「<よろしくお願いします。>」


 机の上だったから正座ではないけれど、互いに礼をして日本語で挨拶をした。


 先手を決めるのに本来ならば歩を5つ投げて決めるのだけれど。


 「<貴女が先手でいい。>」


 と静かに言われたので、私が先に指す。



 それから暫くしてー。


 「<負けました。>」


 私は呆気なく負けた。


 それに対して、何も言わずに楓ちゃんが頭を下げた。

 それはもう、美しかった。

忍者の二人が被っている耳が隠れる帽子、調べたところトラッパーというそうです。


飛行機やバイクの操縦時に着用し、防寒、防風を目的とした、耳まで覆う帽子。飛行帽やフライトキャップともいう。


忍者が被っているものは形こそ似ているものの、防寒等の目的はないため、あまりもこもこしていません。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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