閑話 : 家路 ~ノエル~
姉さんは、自分が居なくても大丈夫なように、自分が死んでもいいように、と考えているような節がある。
姉さんは僕に、惜しまず、多くの知識をくれた。
姉さんが僕を信用しているから、と言えるならよかったが、それが僕でない他人だとしても同じことをしたような気がする。
姉さんが僕を好ましく思ってくれているのは分かる。そして、それを伝えてくれる姉さんが大好きだ。恐らく僕は、姉さんを大事にしないような人とは結婚してもうまくいかないだろう。幼いながら、そう思う。
だから、姉さんが自分が消えてもいいようにと思っていることを悲しく思う。
人は誰しも終わりを迎えるけれど、それでも、いつ死んでもいいように、という風に見えてしまうのは僕の杞憂だろうか。
まるで僕を自分の代わりにしようとしているかに感じるのは気のせいだろうか。
姉さんは、いつ過労で倒れてしまわないかという危うさと、いつかどこかへ消えてしまうんじゃないかという怖さがある。
姉さんがエルフの家から出てきたとき、目が赤く腫れていた。
姉さんはきっと泣いたんだ。
でも、姉さんは泣いてスッキリしてしまう人だから、姉さんの笑顔は曇りなく、すっきりとしていた。
馬車へ戻る道中、木々が風で揺れる音がした。
自分がいかに小さい存在かが思い知らされるようだった。
もし、僕に知識を教えて姉さんが居なくなってもいいようにしているのだとしたら、僕に知識なんか教えなくていいからずっと居てほしい。
でも、そうしてもきっと姉さんは僕じゃない人に全てを教えて自分を居なくなっても大丈夫な存在にしてしまう。
どうしたらいいんだろうな、と考えながら馬車で姉さんが眠りながら流す涙を見ていた。