閑話 : 家路 ~レオン~
俺たちが外で待っていると、中からセシルが出てきた。
セシルの目は赤く、泣いていたのが容易に想像できた。
泣かされたのかと、サエルウィラスとかいうエルフをどうしてやろうかと、考えたが、セシルが笑うのでやめた。
セシルの笑顔は先程まで泣いていたはずなのに、全く無理がなく、心からのものだと何故か分かった。
だから、俺はセシルの言う通り、馬車に戻った。
馬車に戻るまでも、馬車に戻ってからも会話は少なく、馬車に戻るとセシルはすぐに眠りについた。
眠りながらも涙は溢れてくるようで、一筋、また一筋と涙が頬を伝って落ちた。
ノエルの表情も芳しくなかった。
大事な姉が泣いているとなれば、そういう顔にもなろう。
父はそれに対して何も聞かなかった。
馬車の中には行きが嘘のように会話がなかった。
ドワーフやエルフのことを父や他の者に報告することはなかった。
後から考えれば、セシルは妖精(仮)の時からなるべく知る者を少なくしようとしていたように思える。
セシルはドワーフの正体が判明した時点で言った。
「この件について、亜人関係のことは誰にも言わないでもらえますか。これは、不特定多数の人間が知ってはいけない。彼らを取り込んで生活やその他が向上することは間違いない。でも、それに彼らを巻き込んで、差別・偏見、その他嫉妬の対象になることはあってはならない。少なくとも、今は、時機を見る必要があると思います。」
それならば、なぜ、自分が誹謗中傷の対象となる行為を平然と行えるのか。
なぜ、痛く顔をしかめて言うのか。
なぜ、そこまで確信をもつのか。
普通に考えるならば、亜人差別なんかよりも、自分が矢面に立って授業をすることの方が頭に浮かびやすいに決まっている。たった3歳やそこらで、大人たちに文字を教えるということが、どれだけ悪意の目に晒されるのか。
自分が授業をすることのリスクが思い付かなかったのだろうか。
それとも、思いついた上で、自分が傷つけられることをどうでもいいと思っているのだろうか。
どうも、アンバランスだ。
彼女は授業を他の領に提供するという件を即受けた。
そこにリスクの検討はなかったのだろうか。
リスクを検討しなかったなら、なぜ、亜人差別にそれだけ意識を割くのか。
そして、彼女がもつ、何らかの隠し事。
佐助という男は、どうせ知られているからセシルは自分たちには明かしたと言った。
なら、知らない限り、彼女は抱え続けるつもりなのだろうか。
秘密をもつこと自体にとやかく言うことはないが、そこに何らかの強い想いがあるように思う。
アンバランスで、仕事熱心で、どこか抜けてる婚約者。
彼女を支えるために俺に何ができるのか。
少しでも英気を養うために、俺は目を閉じた。




