視察 XVII 家路
泣いていたことがバレないように平静を装って二人に笑いかけた。
「ではまた。」
サエラさん達に挨拶をして、私たちは鳥に先導されポータルまで戻り、教会へ転移し、馬車を目指した。
その間、私たちの間に会話はなかった。
風が木々を揺らす音が、鳥のさえずりが、虫たちの声が、心地よく聞こえた。
疲労回復のお茶のおかげか、気持ちを吐き出したおかげか、気分はよく、体も軽かった。
黙って私の手を引いて、馬車に乗せて、座ってから私は眠りについた。
ドワーフとの約束があったから昨夜はあまり寝れていないし、泣いて体力を消費してしまったから、とても眠かったのだ。
馬車の揺れも私の眠りを深くする。
深く、深く、奥底へ沈んでいくように、私の意識は溶けていった。
目が覚めたのは今日が終わるような頃、屋敷についてからだった。
星空も、聞こえる音も、全てが優しくて、涙が出そうだ。
頬をなぞると涙の跡があった。
屋敷で夕食代わりにスープを少し飲んだら、私は部屋に籠って眠りについた。
今日が終わってゆく。
濃密な今日が終わってゆく。