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視察 XV 忍

 「忍者??」


 「姉さん?」

 「セシル?」


 その装束は間違いなく忍者だった。


 「<お客人、拙者の言葉を理解できるのか。>」


 私の言葉を聞いた忍者さんは驚いたように日本語で尋ねた。

 拙者とかが古臭いけど、日本語だ。


 「<えぇ。基本的にできると思います。どの時代かで少々齟齬があるかもしれないけれど。>」


 正直、古典の勉強って苦手だったんだよね。


 「<問題ございませぬ。この言葉を伝えたお方は時代劇の言葉だと仰っていたそうで、普通に話す方法というのも同時に伝えられておりますれば。>」


 時代劇って、完全にテレビの時代の人の言葉だわ。

 成る程、江戸時代とかそういう時代からとんだ人でなく、現代からとばされた時代劇が好きな人なのね。


 「<助かります。あ、そうだ。ならばこの歌をご存知?両親に聞いた程度で、観たことはなかったのだけれど。>」


 私はある時代劇のテーマソングを歌ってみせた。

 正直、見たことないけど、偶にコントの題材にされていたりして、金色のあれを出すのは毎回同じ時間帯だという話も聞いたことがある。人生に涙はあるよ。誰かがカバーしていなかったら歌えなかった。


 「<知っています!!その歌をご存知とは!!我らを象徴する歌でございます!!>」


 おい、どういうことだ??

 あの話、忍者なんかが出てくるのか??

 100%の勇気を持って欲しいというあの歌の方が忍者ならば相応しくないか?


 「<泣いて喜ばれるとは思わなかったよ...。ちょっと、罪悪感が。こんなことになるなら時代劇を観ておけばよかった。>」


 完全に小説、漫画、アニメという人間からしたら、ちょっとドラマ?三次元は...と思わなくない。


 というか、日本語に油断して、敬語が抜けてしまった。


 「そいつらの言葉はわかったのかい?随分変わった装束を着ているが、あんたには理解の範囲内だったのだね。」


 突然のサエラさんの言葉にびっくりした。

 正直、超慣れている日本語のせいで、こちらの言葉を聞き逃すところだった。危ない。


 「はい。貴女の格好も何となく想像がつきますよ。あくまで想像ですが、魔女のようだと感じました。」


 私の言葉に彼女は目を細めた。


 「お気に障ったのなら、謝罪します。貴女の背景を存じ上げないので。」


 彼女の顔を注意深く観察する。

 

 しばらくして、彼女は笑い出した。


 「気にしているのかい?だが、その必要はないね。確かに私は魔女さ。しかし、此処に魔女への偏見はない。当然、魔女狩りもない。此処での魔女はこの生薬を煎じる者を指すのさ。魔法とは程遠い。」


 言葉遊びを楽しむように言った。

 そして、忍者さんもこちらの言語で話した。


 「ばあさんに気を遣う必要はねぇ。魔女は魔女であることを誇りに思ってら。」


 感心した。が、一つ。


 「貴方......こちらの言葉を話すとき随分と言葉遣いが粗いのね。驚いた。あまりに印象の異なる話し方をするから。」


 「集落の奴らにゃ、よく言われるが、改める気は微塵もねぇ。これが俺にあってる。」


 日本語話す時はあんなに丁寧なのに??と思った。


 「私は改めて欲しいわけではありませんから。ただ、驚いただけです。」


 「手前こそ、気持ち悪りぃ喋り方すんじゃねぇ。」


 改める必要はないと言ったら、その言葉に彼は違和感を覚えたらしい。


 「そんなに気に障った?」


 何度か素で話してしまったが、基本的に初対面の人に無礼はいけないと思っての敬語だったが。


 「貴族さまは敵が多いからだろうが、気味悪ぃ話し方をするんだ。それに似てる。手前には敵意や悪意はねぇが、本音が漏れねぇように気をつけてる。不自然だ。」


 確かに、ふとしたときに本音を漏らしてしまうことがあるから、気をつけているけれども。


 「<こちらの敬語は不自然じゃないんですか?>」

 「<拙者には不自然にはきこえぬ。>」


 うん。やっぱり、日本語で話す時はそこまで粗雑じゃないんだよな。敬語でもないけど。


 「年季の問題かな......。」


 よく考えると、日本語とこちらの言葉で2つ、英語も含めれば3つ話せることになるわけだ。

 あれ?私ってすごくない?


 「かもな。俺の、俺らの種族は色々と複雑なんだ。だから放置しておいてくれ。」


 成る程。ゲームの種族みたいに簡単に説明できるものでもないと。

 私は軽く頷いた。


 「あと、手前が考えてんのはエルフの集落がないかってことだろ?ばあさんがポツンと暮らしてっから。」


 私の気になっていたことを真っ直ぐに言い当ててくれた。


 「ばあさんと呼ぶんじゃないよ。」


 「うっせ。ばあさんはばあさんだろ。」


 その二人の会話から関係性が何となく読み取れた。


 「セシルの問いに答えようか。エルフは魔術や薬学、戦闘ならば弓矢に精通するといわれてね。特に薬学を使っていく者は私のようにひとり離れて暮らすことが多いんだ。魔女というのはそれらの呼称さ。近いところに大勢の魔女がいても患者の数は限られるからね。もちろん薬草も。」


 確かに病院は密集しているよりも点在している方がいい。特に移動手段に限りがあるこの世界では。


 「それで集落からは離れて暮らしていると。」


 「あぁ、そうさね。基本的に誰でも受け入れるよ。対価は受け取るがね。」


 私の問いかけを肯定した。


 「ここの領民に知識や忍びの技術を与えるようになったのは?」


 私は尋ねた。


 「ただの気まぐれさ。怪我や病の治療を少ししただけ。そのときに聞かれたことに答えただけさ。そしたら、偶に尋ねてくるようになって。ソイツらも同じ。真正面から対峙するしか脳がない奴らに辟易したそうだよ。」


 「そうですか。」


 腐れ縁というのだろうか、何かが縁を運んだのだろう。


 「ドワーフたちとの連絡手段は何かと聞いたら教えてくれますかね。人間以外のコミュニティやネットワークが存在するのかと思いました。あとは、忍者がどれほど我が領を把握しているのかも気になります。勿論、必要ならば情報料くらい支払います。残念ながら通貨を持ち得ないので、私の記憶のうちの何かか、現物支給となりますが。」


 「コミュニティ、ネットワーク、情報料......」

 「通貨......」


 レオンさんやノエルがブツブツ検討しているけどそれは私の交渉と関連はない。


 「手前らは貴族のくせして金がねぇのか?」


 忍びが私に尋ねた。


 「金がない、そうね、ない。貴方も承知かと思っていたけど、現在人間に通貨は存在しない。足し算もできない水準で通貨なんて扱えないよ。」


 「あんたは見たことあったのかい?一度でも人間が金を使うところを。」


 私の言葉に呆れたように同意して魔女・サエラさんは問うた。


 「そりゃぁ、見たことはねぇけどさ。田舎だからかと思ってたんだ。貴族の間じゃ当たり前に使われてんだろうって。」


 忍者はそういった。


 「貴族社会にはあまり触れていないけど、恐らくは使われていない。私も金がないことは嘆いたよ。だって、あまりに面倒だ。だが、通貨の流通は時代を大きく変えた......。だから私はそれが完全にいいことかは判断できない。ただ、とても便利だと思う。」


 私がそう応えるとサエラさんは部屋の引き出しからいくつかの硬貨を持って戻ってきた。


 「人間以外の間じゃ当たり前に使われているものだよ。"硬貨だけで紙幣は存在しない"ということが原初から繋がれている伝言のようなもの、あんたなら意味が分かるだろう。」


 私は出された硬貨をじっくりと眺めた。

 そこにはこの世界の数字で書かれたその硬貨の価値と地球の算用数字で書かれた硬貨の価値が並べられていた。


銅貨 1

大銅貨 10

小銀貨 100

銀貨 1,000

大銀貨 10,000

小金貨 100,000

金貨 1,000,000

******

白金貨 1,000,000,000


 大とつくものは500円玉くらいの大きさ、小とつくものは5円玉や50円玉のように穴が空いていた。そうでないものは100円玉くらいの大きさだった。名前の由来もそのままサイズらしい。

 白金貨は手持ちがないそうだ。滅多なことがないと使わないらしい。そりゃそうだよね。

 そして気になるのが。


 「あんたの思う通り、それは10進数だ。扱いやすいから多くの者たちが使っているが、日常生活ではこちらの数を使うのが一般的さ。そして、ここ。ドワーフ製の硬貨には必ずこの製造番号があってね、偽物を防止しているんだよ。あとは魔法とか色々さね。」


 偽札、偽物のお金を防止する仕組みまで完璧とは。恐れ多い。

 というか、なぜ10進数が便利なのにわざわざ面倒な数を日常で使っているのかが謎すぎる。


 「手前が今見てんのが共通の硬貨だが、集落内で使われているものもある。ばあさんとこで対価として払うのは基本的にはドワーフ製だ。だが、ドワーフ製のも無限にあるわけじゃねぇ。だから、俺らは別の通貨を使ってら。ドワーフ製は基本的に対外向けだな。」


 成る程。頷きながら彼の話を聞くと、懐から集落内で使う金を見せてくれた。説明書と共に。

 それを見た私は久々に叫び出したくなった。


金貨 1両 = 4分 = 16朱

銀貨 1(もんめ) = 10分 / 100匁 = 1貫 / (1匁 = 約3.75g)

銭貨(せんか) 1000文 = 1貫文


 折角、10進数に出会えたのに、なぜ、また面倒な単位が沢山出てくるのか。

 これ、日本の江戸時代かどこかの貨幣だよね?

 転生者だか前世もちか、きっと現代人だったはずなのに、なぜこうなった?


 私は江戸時代の皆さんの計算がすごい理由が少しわかった気がする。


 「へ、へぇ。凄いなぁ。私じゃ扱えるようになるまでに暫くかかりそうだ。ところで、レート、為替レートはどうなっているんです?」


 「あんたは、難しい言葉を知っているね。その話は知っているが、基本的には適当さ。色々な集落のコインを集めたがるのがいてね、そういう奴らは金に糸目をつけないから。正直、レートを決めても困るんだよ。それに、ドワーフ製も数を考えて流通させているとはいえ、変動するんだ。使う人も増えるしね。だから、固定レートでは上手くいかない。かといってレートを動かしてもそれをずっとリアルタイムでしらせ続ける手段もない。よって、その場ごとにうまくやっているさ。」


 成る程ね。

 周りの状況とかもちゃんと鑑みないと。

 完全に理系で正直、社会とかどうでもいいと思っていた私は全然そこらへんの理解が及ばない。


 そうやって考えを巡らせているとサエラさんが言った。


 「さて、そこの呟いているの含めて男ども。少し外に出てな。」


 突然のことで驚いたのは私だけでなかったみたい。


 「ばあさん、何を?」


 忍者の人。


 「ばあさんと呼ぶなと言っているだろう、わからないね。ただの女子会さ。」


 「ばあさんが女子会って......」


 「ウダウダ言ってんじゃないよ。わかるだろう?」


 サエラさんは睨んで言った。

 まるで察しろと言っているかのように感じた。

 それに忍者の人は頷いた。


 「姉さんを一人置いていくなんて。」

 「セシルを一人では...」


 ノエルやレオンさんも躊躇している。


 「私は大丈夫です。敵意もないみたいですし。」


 私は二人を諭したが、納得いかないようで。


 「いや、そうかもしれないが、それでも。」


 「ここまで同席させたんだ。安全だと分かっただろう?時間は取らせない。」


 レオンさんやノエルの言葉を遮ってサエラさんが言った。

 ここまでの同席を許したのは安全証明だったらしい。かなり気を遣ってもらっているな。


 「分かりました。なるべく、短くお願いします。」

 「レオンさん?」


 レオンさんが折れたようだけど、ノエルはまだ納得していないようだった。


 「悪意があるように思えなかったし、それより、俺はそっちの人と話がしたい。」

 「それでも!!」

 「あとは、話を聞いていて何となくだが、正直、何をしたってこの人たちには敵わない。なら、穏便にいったほうがいい。回りくどいことをしなくても俺たちを害することは容易いだろう。」

 「......わかりました。」


 どうやら、納得したらしいけど、その理由はもはや諦めだった。

 確かに、絶対に勝てない自信はあるし、本当に敵意があったら既に殺されていて然るべきだけど。


 色々とあって男三名は席を外した。この家の外で待っているはずだ。


 ここからは二人で話す時間だ。

なんとなく理解していただけると思いますが、「<>」の中に書かれているセリフは日本語で会話されています。


江戸時代の通貨を参考にしましたが、間違いがあったらすみません。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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