視察 XIII ニルンプカ
ニルンプカは教会と支部が隣り合っていて、どちらも大通り沿いにあるから、支部のポータルからニルンプカの教会に移動する必要がない。これは私としては良いことだと思う。
まずはニルンプカに関する事前情報を整理しよう。
1. 狩採集を行う集団がいて、戦闘及び知識がすごい。
2. エルフが居るらしい。
この二点だ。
他にも上の理由から、きのこや野草、狩で狩った肉などが彼らの名産というか、元手というか、になっていて、皆の食卓に並ぶ動物性タンパクはここから来ていると聞いている。
私は戦闘集団ということもそうだが、採集の方に注目して、野草などの知識が多い人を紹介してもらいたい。
そして、エルフにも会って交渉をして、いい関係を築いていきたいと思っている。
そんな意気込みで私はこの視察に臨んでいるのだが、ここには問題がある。
レオンさんとノエルだ。
彼らは何故か私の行動に警戒しているようで、行動中滅多に手を離してくれない。更に、ドワーフの一件以降、彼らの警戒が強まっている。何に警戒しているのかがわからないから交渉のしようもないのだけれど。
ノリノリで英語を使ってしまったことは反省しているけれど、それ以外に何もやらかしていないと思うんだよね。
そんなこんなで監視されながらではあるが、視察を開始した。
ニルンプカは雰囲気は雑木林という感じで、集落という集落は見当たらないが、教会にあるポータルからある所定の場所に飛ぶと、自然に馴染んだ集落があった。
ツリーハウスって言うのかな?とても幻想的で秘密基地みたいで、ワクワクする集落だ。
周りを見回っていると、一羽の鳥が真上を旋回し、紙を一枚落とした。
その鳥は近くの木の枝に止まり、私たちを見ているようだった。
「姉さん、ここは木々ばかりで、この集落も木に擬態していて上から見てもさっぱりだよ。って、それは?」
ノエルが戻ってきて、私が拾い上げた紙に注目した。
「流石に、紙を拾うくらいはと思ったけれど、そうでもなかったかな?」
レオンさんは分かっていてわざと私を止めなかったみたい。
「レオンさん、手を放して頂けますか?これを開くことができません。」
レオンさんに手を離してもらい、折られている紙を開くと、中に文字が書いてあった。
[セシルと供の2人。その鳥についてこい。ドワーフから話は聞いている。]
なるほど、これが例のエルフかな?
「俺たちも行って構わないなら、付いていってみてもいいかもな。」
「僕も興味がある。」
と、このように二人の許可も取ることができたので、視察の集団から離れて、その鳥についていった。
鳥は私たちの会話を理解しているようで、話が決まった途端に飛んで先導した。
道なき道を歩いていく最中、道を覚えようとしてもコンパスが機能せず、樹海というのが正しいのかもしれないと思った。
前世で富士の樹海というのは聞いたことがある。
方位磁針が使えず、似たような木々ばかりが生息し、紐などで印をつけねば帰ることのできない場所だと。
絶好の自殺スポットだと。自殺者を減らす対策を進めているときいた。
私は富士の樹海に入ったことはなかったが、それを彷彿とさせる。
集落の人々はここで道がわかるのだろうか。
その樹海を進み、少し開けた場所に出て、その案内してくれた鳥が止まったのはとても小さな家だった。
その家は、地上にあったが、造りがしっかりしていて、古くからあるのか、蔦が家に絡まった、自然に親しんだような建物だった。ドワーフと会ったあの人工的な雰囲気の建物とは正反対であるが、どちらも機能面は充実してそうだ。
鳥が止まると、鈴の音が鳴って中から人が出てきた。
よく見るとドアに来客を知らせるような鈴が取り付けられており、飲食店などを彷彿とさせた。
「グーテンモルゲン.シュプレヒェン・ズィー・ドイチュ.」
その妙齢の女性と思われる人は私の方を見て、そう言った。
ヤベェ。何言ってんだかさっぱりわからない。
首を傾げながら、彼女のセリフを頭の中で繰り返す。
グーテンモルゲン......確か、ドイツ語??おはようとか、挨拶みたいな意味じゃなかったかな。
「グーテンモルゲン。すみません、その言語は分からないのです。私がセシルです。この言葉でわかりますか?」
とりあえず、親しみ?を持ってもらうために挨拶と思われる部分だけ繰り返してみた。
よく、マイナーな言語を使う国でも、挨拶だけ覚えておいてカタコトでも言うと、印象がいいんだよね。
「おや、この言葉は喋れないのかい。ドワーフの話じゃもう一つくらい話せそうだったから、試してみたのだが、まぁ話せなくても問題はないさ。改めて、おはよう、セシル。私がエルフのサエルウィラスだ。ドワーフから聞いているだろう?」
「えぇ。サエルウィラスさん、貴女はこちらの言語を扱えるのですね。」
「あぁ。生活していたらすぐに覚えたさ。」
へぇ。そういうもんかな?
「なら、もういくつか質問いいですか?」
「構わないよ、だが、ここで立ち話もなんだろう、入ってゆっくり話そうか。」
「なら、お言葉に甘えて。」
私たちはその家に入った。