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視察 V 視察1日目の終わり

 「次のユォまではまた遠いので今日はここで過ごす予定です。我々はまだ仕事が残るので失礼しますが、滞在場所は男性がゾバール支部、女性がレムリペラ支部ということになりましたので、よろしくお願いします。食事はゾバールの方に用意してありますので、終わり次第、侍女とセシルがレムリペラ支部に移動することになっております。なに、うちの子どもたちは身の回りのことくらい一人でできますし、支部にもそれぞれ管理するものがおりますれば。」


 珍しく貴族らしい喋り方をするお父さまに驚いているセシルです。

 ノエルもポカンと口を開けて、お父さまに驚いている。


 「パトリス、無理しなくていい。私は貴方の本性くらい知っているから、今更取り繕わなくてもなにも思わんよ。」


 公爵さまも、宥めている。

 王都でも貴族の話し方してないのではないか。

 疑惑の目を向けたくなったのも仕方ない。


 「では、ゆっくりと食事にしようか。」


 私たちは公爵さまに続いてゾバールの支部で食事を取った。


 「ゾバールとレムリペラで気づいたことで印象的だったのが、乾燥機と洗濯機だな。あれは貴族の屋敷くらいにしか置かれていないものだが、村のど真ん中に置いて、洗濯物をもってきては洗って持ち帰っていたな。貴族の屋敷に勤めているのは貴族や元貴族、貴族の子供などだ。水仕事などありえないという我儘が多くてな、かといって平民を連れてくれば分不相応と罵り虐めるものが多くて困っていたというのが開発の経緯だ。そもそも魔道具が贅沢品という思考が強いから、なかなかこういったものは開発されてこなかったんだが。」


 コインランドリーみたいなものだね。

 というか、洗濯をしたくないという要望に応えて平民を連れてきたのに、それに対して虐めるってどうよ?


 「たとえば、外注とかなら話は別だったんだろうけど......。」


 思わず口に出してしまった。


 「外注とは?」


 公爵さまが興味を持ってしまった、まずい!!


 「一緒の場所で仕事をするからイジメが起こるのですから、平民の村に依頼して、そこに洗濯物を運び込み、終わったものを回収すれば良いのです。そもそも、何度もやるよりも回収して一度にやった方がきっと手間も減るでしょう。大量生産のコストはとても低く、平民には求め易いと思います。」


 何とか、説明はしてみたが。

 洗濯事業だなんてないからな。クリーニング屋さんみたいな。


 「大量につくった方が費用が少ないというのがあまり理解できないが。」


 そうだった。

 1あたりの数といった概念が存在しないから説明しにくいんだけどな。


 「そうですね......たとえば1人で1つの家に住む時に必要なコスト、即ち、土地代、食費、その他光熱費ではなく薪などの量、他にも色々と必要なものはあるでしょう。それが、例えば2人になった時、その倍、2人分必要なわけではないということです。」


 「もう少し詳しく。」


 「家や土地は少し手狭になりますが、同じもので十分。他にも囲炉裏などの火に焚べる薪の量も同じで問題ないでしょう。同じ部屋にいるのなら何人だろうと火は1つで十分です。食料は多く必要でしょうが、これまで食べきれずに腐ってしまい捨てていた分を考えると、厳密に2人分という必要はありません。それを考えて1人分を算出、つまり必要なものを半分に分けると、1人あたりの必要なものは少なくなるはずだ、ということです。」


 理解してもらえただろうか?


 「ふむ。完全に、とはいえないが、全く分からないわけではない。確かに必要な火は人が増えても変わらない。」


 公爵さまの理解は完全ではないが、要点はつかめているようだ。


 「割合に通じる考え方だね。1あたりと姉さんが言っていたものだけど、割り算まで必要だし、貨幣がないと理解が難しいかもしれないと思うよ。僕が一番納得した考え方は人口密度だけどね。領地の面積と人数から一人がどれだけの広さを使うことができるかを算出した値。人件費だとかが分かりにくいけど、何となく理解した。」


 そうだったね。

 貨幣がない分、価値を比較することが難しいが、人件費は彼らの生活保障、生きるために必要なご飯等を当てはめればいい。


 「俺は微妙。だけど、大きな洗濯機の方が1回で全てを済ませられそうだから、そういう意味で効率がいいのはわかる。」


 レオンさんの話で一番最初に戻ってきた。


 「それは賛成だ。私も領内の洗濯を一箇所とはいわないが、いくつかの拠点で一括して終わらせた方が効率がいいのは理解できた。」


 だが、そこにはたくさんのデメリットも存在する。


 「効率はいいでしょうが、多大なる問題があります。洗濯一つのみを取り上げれば効率はいいでしょうが、そこまで洗濯物を運ぶ手間や洗濯した後に分ける手間、乾燥させる手間、他にも洗濯を一度で終わらせる以上、タイミングを揃えなければならないので全員の生活リズムを合わせる必要が出てきます。洗濯物を取り違えた際の補償なども考えなければなりませんね。」


 私は畳み掛けるように問題点を並べた。


 「そうだな。だが、一考の余地がある。問題点も検討して改善できるならそれは問題点でなくなるだろう。」


 公爵さまは人が悪そうな笑みを浮かべた。


 「さて、セシル、君の意見を聞かせて欲しいが。」


 ほら、出たよ。


 「そうですね。ゾバールとレムリペラは対照的でした。」


 とりあえず、思ったことを話してみる。


 「ゾバールはまとまって暮らし、仕事の時にバラけるのに対し、レムリペラは仕事場の近くに住み、他との関係が希薄なように感じました。しかし、レムリペラも互いにいがみ合っているわけでなく、それが一つの慣習として根付いているようで、私は嫌いじゃない、そう思いました。授業で関わりが増えたそうなのでこれからどうなっていくかは見ものです。ゾバールは集落内の距離感は近かった一方で集落間は少し距離があるように見えました。話では授業が始まって以降は少しずつ交流が増えて、以前ほど仲が悪いようには見えず、関係も改善されつつあるそうです。」


 とても対照的だから比較にもってこいだね。


 「一つ気になる点があるならば、ゾバールにあった湖の村の塩がどこから取れているのか、ということです。近くの湖が塩湖であるのかとも思いましたが、湖の水に塩の味はありませんでしたし、湖からの風も塩気を感じず、建物のサビも少なかったことから、塩湖ではないと私は感じました。岩塩かとも思いましたが、近くに砂漠や高山は存在せず、この仮説も恐らくは正しくないでしょう。」


 魔法とか使われたら仮説もなにもないが、正直よく分からないのだよね。


 塩湖で一番有名?というか本で読んだ記憶があるのが死海である。

 死海という湖の塩分濃度は30%で生物が生きられないことからこのような名がついた。

 死海のように塩分濃度が高い湖では人間はぷかぷかと浮くそう。

 密度とか浮力とか色々な理由があるんだろうね。

 実際、海に行った時はプールよりも浮いたような記憶がある。海はしょっぱいし、海水が目に入ると痛いし、魚がなんか怖いし、うっかりクラゲに刺されたらどうしよう、なまこを投げられた、珊瑚というか岩で怪我をした、せっかく足についた砂を洗ったのにまた砂がくっついてきた、などであまり好きではなかったが。というか、本を部屋で読んでいたいし、泳ぐなら人工のプールがいい。


 「塩は湖の死んだ貝などを干すことで取れるそうだよ。湖からの風で家がダメになるというのは聞いたことがないな。だが、湖周辺にはなにやら大きな魔法がかけられているそうだ。気になるなら調べてみるといい。」


 やっぱり、湖には塩が含まれているということじゃん。

 参考までに、海水の塩分濃度は3.5%、人間の体液の塩分濃度は0.9%と言われている。

 ということは塩が取れる程度にはしょっぱいが私が舐めて感じるほどしょっぱくなかったということか。


 そして、錆びない原因は、塩分濃度が海よりも恐らく低いことや、謎の大きな魔法が関連していると思われるが、魔法の詳細が分かっていないことから、ロストテクノロジーであることが予想されるな、うん。


 「ではノエル。」


 「僕が気になったことは姉さんと同じくゾバールとレムリペラの対照性です。あまりにも違うので驚きました。姉さんはどちらでもいいと言いましたが、僕はどちらでもいいとは思いませんでした。流石にあそこまで孤立していると問題も起こるのではないかと。」


 まぁ、孤独死とか?

 さすがにそれぞれが一人暮らしというわけではないから問題ないと思うんだけど。

 私は皆んなが好きに生きればいいと思っているからね。公共の福祉などの義務をちゃんと果たす限りね。


 「問題というと?」


 「誰かが樹の管理等の仕事ができなくなったとき、誰がそれを支えるのか。人は一人では生きていけないと思うので。」


 確かにね。

 でも、一人暮らしでなければそれでいいというのは核家族化が進んだ現代っ子の考え方か、独身も一つの選択肢として当たり前な世界の考え方か。一人暮らしが多いからこその考え方か。引きこもりたい私の考え方か。


 「セシルはどう思う?」


 「孤立しているとは言いますが、実際、完全なる孤立ではありません。定期的に必要物資の話し合いや、税を納めるための話し合いが行われていて、完全な孤立ではないでしょう。さらに、一人で暮らしているわけではないので、気づいたら死んでから数週間が経っていた、ということも少ないでしょう。腐敗臭がすれば流石に気づくと思いますが。もちろんレムリペラの人間関係には欠点が存在するでしょうが、対してゾバールの方に欠点が存在しないはずがありません。全てのもの事にはメリットとデメリットが存在します。そして、彼らの暮らしに合うかどうかも考えるなら一つに統一する必要はないかと。少なくともゾバールとレムリペラでは仕事が異なりますから。生活スタイルが異なるものまた必然と考えますが。」


 「なるほどね。領内を分けそうな話し合いだ。」


 確かに。

 これは授業の題材になり得るな。<金と愛はどちらが大事?>よりも建設的な話し合いができそうだ。討論の議題にしよ。


 「レオンは?」


 最後に公爵さまはレオンさんに尋ねた。


 「俺は......っセシルから目を離してはいけないと痛感しました。」


 !!失礼な!

 私は子供じゃないんだよ。

 4歳だけど。


 「それは僕も同意見です。」


 ノエル??

 君は私の弟だよね?


 「そうか。なら気をつけるんだぞ。」


 公爵さまも何も言わずにそれは決定事項なんですか??


 そんなこんなで時間になり、私はゾバール支部を離れてレムリペラ支部の部屋で眠りについた。

 そんなに私は問題児ですか??

 周りからの評価がとてもショックな私です。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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