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視察 IV レムリペラ

 「大通りからすぐのところにあるのがリクニス針葉樹林で、入口としてレムリペラ支部が置かれている。このレムリペら支部にポータルがあるから、そこからまずはレムリペラの教会へとぶ予定だそうだよ。私も二度目じゃまだまだ記憶が曖昧だ。リクニス針葉樹林では林業が盛んと聞くよ。」


 公爵さまと会話をしながら大通りを横断する。

 その間もずっとレオンさんが私の手を握って歩き、ノエルは私から目を離すまいと目を光らせていた。


 レムリペラ支部に滞在する時間はそれほどなく、すぐに支部のポータルから教会へ跳んだ。

 レムリペラの教会へのポータルはリクニス針葉樹林にいくつか点在するようだが、わざわざその中に入ることはない。


 レムリペラの教会の周りにはリンゴの樹がたくさん植えられた果樹園だった。

 先に訪れた村々とは対照的に一軒一軒の家が離れていて、集落というようにまとまってはいなかった。教会での授業が始まるまではそれぞれ交流がとても少なかったのだと。支部での必要物資、余分物資などの話し合いや、結婚などは話し合われていたようだけど、必要な時だけ話すという変わった人間関係を築いていた。


 ノエルはまた上から俯瞰した地図を書き、計算をコツコツと進めていた。

 今度、縮尺を教えようかなと思っている。


 レオンさんは私の手を離す気はないらしく、とても困っている。

 目線で訴えても笑顔で返される。分かっているだろうに。


 この教会では「林檎太郎」という絵本が人気だそう。

 昔々、おじいさんとおばあさんが住んでいたところに川から林檎がどんぶらこっこと流れてきて......というある昔話のパロディである。この世界に桃が存在するか分からなかったために身近にあったリンゴを利用させてもらった。

 尚、私が勝手に気を回しただけなのだが、「白雪姫」はここの教会においていない。毒林檎なんて聞きたくないよね?


 林業が盛んな針葉樹林でも集落という集落はないようで、点々とそれぞれが気ままに暮らしているらしい。

 最近は教会での授業で関わりが増えてきたが、結局のところ、昔からの慣習で相互不干渉が基本なのでサッパリとした関係性みたいね。私は悪いとは思わないし、それが好きな人もいるだろうさ。


 この、孤立した人間関係が特徴的と言えるだろう。

 面白いね。


 本来ならば気候条件などを雨温図などで確かめられたらもっとこの領地への理解が深まると思うのだけど。


 「ねぇ、セシル?」


 「何です?レオンさん。」


 話しかけられたので応答した。


 「また何かしようとしてる?」


 「いいえ、大丈夫ですよ。何か思いついても、基本的には家に帰って煮詰めてからにしますから。」


 嘘じゃないよ。ホントだよ。


 「基本的には、か。」


 「えぇ、基本的に、です。例外のないルールは存在しないという格言が存在すると聞いたことがあります。」


 「そっか......。」


 「はい!!」


 納得してくれたかな。

 その時しかチャンスがないのなら行くしかないっしょ。一期一会って言葉知ってる??

 まぁ、納得してくれたみたいだし。


 「なら、もっと厳重にしないとね。」


 「はい?」


 レオンさんは正面から抱きついてきた。

 心臓に悪い。

 レオンさんは自分の顔がいいという自覚を持つべきだと思う。

 貴族としては当たり前のスキンシップかもしれないけど、耐性がないから困る。

 ノエルもよく抱きついてくるけど、なんか、違うんだよ。

 小さい弟が抱きついてくるのと大きい兄が抱きついてくるのは違うと思うんだよ。

 ノエルのだって慣れなかったんだから。

 顔とか真っ赤になってないかな、変に意識している方が恥ずかしい。


 「これなら安心だ。」


 上機嫌で笑っているのがわかるような声でレオンさんは言った。


 「あの、レオンさん?これでは前が見えなくて、視察の意味がないのですが。」


 これが私の精一杯の抵抗なのです。


 「あぁ、ごめんね?気がつかなかったよ。なら、こうしよっか。」


 私の体をくるっと回転させて、後ろから捕らえられた。


 「これなら俺も安心できるし、セシルも視察ができる。」


 耳の傍で喋らないでください!!


 「歩きにくくないのですか?」


 何とかこの体勢から離れようと苦し紛れに意見をする。


 「歩かないから問題ないよ。だってセシルはここでジッと観察しているもんね?」


 はい、論破されました。

 もう、どぉにでもなぁれ!

 私は人形に徹することにした。


 「レオンさん、近すぎやしません?」


 そんなとき、ノエルが戻ってきた。

 言外に離れろと言っている。なんか、ノエルの機嫌が悪そうだけれど、でもちょうどいい。


 「ノエル、君も混ざりたいのか?」


 レオンさんがノエルの文句に返答した。

 その質問もちょっと分からない。


 「!!そういうことなら早く言ってくださいよ。」


 ノエルはそう言って、私に抱きついてきた。

 おい、私が挟まっているんだよ!!


 私はこんなイケメン二人に挟まれて平常心でいられるほど心臓に毛が生えていない。

 というか、喜んでもいられない。

 早く抜け出したい。


 「レオンさんとノエルは仲がいいんですね。二人で抱き合いますか?」


 私はやんわりと脱出の算段を立ててみた。


 「「それはない。」」


 が、彼らは口を揃えて否定した。

 本当に仲がいいな。


 「ふふっ。仲良しだ。」


 私のその言葉にレオンさんもノエルも笑顔になった。

 照れてるのかな?やっぱり仲良しじゃん。


 「レオンさんは同士みたいなもので。」

 「あぁ、ノエルとはいい友人になれそうだな。」


 ふぅん。なんか、妬けるね。仲間外れみたいで。

 まぁ、いっか。

 

レオンとノエルはセシルを守るという同じ目的をもった同士である。

ノエルは意外とセシルに甘えたいし、セシルが困っていたら全力で助けたい。

レオンはもう少し自分に気を配って欲しい、懐に入り込みたい。


セシルはノエルを弟、レオンを兄または近所の兄ちゃんくらいに思っている。

今は視察中なので特に誰のことも意識していないし、話しかけられなければそのまま一人でどこかへ行ってしまいそう。全く周りを見ていない。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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