2日目 III 昼の会食
「楽しく過ごすことはできたか??」
そう話しかけてくれるのはアズナヴール公爵さまだ。
現在、昼食を取りながら歓談中。メンバーは公爵さまとレオンさんに私とノエル。お父さまは研究にスッとんで行ってしまい、お母さまは今日も通常通り視察中だ。ウチの大人が一人も居ないんだが大丈夫だろうか。
お母さまは基本的に視察に出ていることが多い。視察をして回って必要なことを考えて、数多の研究から探し出せればそれを利用するように勧める。その他生活しててどうかなども細やかに聞いていく。お母さまは傾聴に優れているようで、授業でもお母さまが聞いてきたことはかなり使える。本音を言いやすいんだろう。
お父さまは研究を軸に生活している。その中でお母さまほどのペースじゃないが、視察をしている。主な内容は研究内容に関する助言。あとは、魔道具カタログで欲しいものはないかの質問など。あとは、率先して農作業をしている。他の仕事も積極的に体験し、自分の研究に生かしているそうだ。
今回の公爵さまの訪問ではそれらを一度休んで公爵さまの接待をする予定だったのだが。
「研究がしたくてウズウズしているんだろう?視察に一緒に出向いた時は好きにしてていいよ。私が居たら目立つだろうし、こっそり見ているから。パトリスはいつも通り行動するといい。ついでに、昼時は接待しなくてもいいよ。息子が戻ってくるし、セシルやノエルにも会えるしね。彼らとも話がしたかったんだ。一緒にいたいならそれでもいいが、研究をする時間がなくて大変だっただろう?一度リフレッシュに研究してきてはいかがかな?」
という公爵さまの言葉に甘え、1分ほどでご飯を食べて去っていった。
お父さま、大丈夫なんだろうか??
ただ、お陰で私が逃げられないんだけど。
私は"雑談"というものが苦手だ。
テーマがあれば話すことはできる。求められているように話せばいい。目的を考えて、それに沿って話せばいい。例えば授業。コレなら話すのは簡単だ。
だが"雑談"は違う。相手がどの程度知りたいのかが分からない。好きなテーマなら話せるがそれ以外は話せない。好きなテーマでも話していいことかどうか、相手が理解できるかどうか、どこを切り取って話せばいいか、と考えてしまい、なかなか上手く話せない。
好きな話なら何時間でも話していられたりするから、長く話そうとしなくても必然と長くなる。
でも、それは相手にとって恐らくは退屈であろう。
では、どこを切り取るのか。どれなら理解してもらえるか。次に質問を返えせそうなものはどれか。
さらには、ネタバレという問題がある。前世でアニメ・漫画などの創作物が好きだった私は、どこまでならネタバレにならないか、あらすじでネタバレしちゃいけないところはどこか、そう考えると話せなくなっていた。
また、定番の質問"好きなキャラは?"とか"好きなアニメは?"とか聞かれるのも意外と困る。
何故なら、多すぎるからだ。
どれを答えていいか分からない。コレが意外と大きな問題。
本当に好きなものを答えるか(それでも莫大)、会話のためになんとなく好きだけど人気なものを答えるか(深堀の深堀をされたらもう着いていけない)、最近見ているものを答えるか(意外と多い)。頭を使うよね。
そして、私は自分のことを語るのが苦手だ。心を開きたがらないと言えばいいのか。自分から離れた物事ほど話しやすい傾向にあるのは七瀬だった頃(前世)からだ。当時、話せることと話せないことの差を考えたときにそれが思い当たった。自分のことを話すのはなんか恥ずかしいんだよね。あと、怖い。
そう、結局のところ何が言いたいかというと、
こんなところに私を置いていくな!!
ということですね。
お父さま、狡いです。
では問題です。
問 ) 冒頭の公爵さまの質問「楽しく過ごすことはできたか?」に対して何と答えるべきか。
Yes / No でいいのなら答えますよ。
私は、こう答えた。
「ハイ、楽シク過ゴスコトガデキマシタ。」
実際、有意義だったし、何より、この質問で NO なんて答える?? いや、答えないでしょ!!
「私も楽しく過ごすことができました。」
ノエルがスラスラと答えた。
ノエル人前だと"私"っていうんだね。
「二人とも、もっと楽に話していいよ。」
公爵さまがこう言っている。
無理だろう。
この世界は美形にまみれていると思う。公爵さまめっちゃ顔いいもん。
レオンさんも綺麗な顔しているし、絶対イケメンに成長するね!!
「では、お言葉に甘えます。」
ノエル、全てを君に任せて、私は逃走したい。
「父上、先ほど3人で話したのですが、明日以降の視察、皆で行けませんか?」
レオンさんが公爵さまに質問してくれた。
やっぱりレオンさまの方がいいんじゃないの??でも、嫌がらせレベルに嫌って言ってたからな。
「へぇ?私はいいと思うよ。一緒に行けるのは嬉しいね。だが、最終的な判断はパトリスだ。まぁ、許可しそうだが。」
意外とあっさり。
「......二人とも屋敷の外に出たことはなかったと聞いていたが、どんな心境の変化だ?単純な興味だ。」
これは私が答えなきゃなのかな??
「姉さんの発案です。元々、できればと考えていたことですが。現在、仕事を少し休んでいるので、今行かないといく機会がなくなるから、と。」
ノエル、ナイス!!
この調子で質問に答えてくれ。
「で、目的は?」
公爵さまは興味津々だ。
その興味がこちらへ向きませんように。
「授業の準備ですよ。詳しいことはレオンさんにでも聞いてください。」
あ、ノエルも面倒だったのか。レオンさんに投げたぞ。
私に投げられなくてヨカッター。
「そうか。私としては二人の様子を見る機会が増えたことは喜ばしいね。貴方たちが何を見、何に興味を示すのかは、とても興味深い。」
なんか怖い笑顔なんだけど。
超観察対象認定されてるよ。
昼食の間、なんとか公爵との会話に耐えた。
もう疲れた、寝たい。




