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閑話 : エマとセルジュとイーヴの対策

 はじめての授業後、エマとセルジュはイーヴを加えて、セシルの歴代ノートたちを読み込んでいた。


 なぜ、イーヴが加わったのかというと、

 「イーヴ、私たちの授業の練習と対策に付き合ってほしい。」

 「私とエマだけで対策をするのは限界だと思って居ます。外からの意見を言ってほしいのです。」

 とエマとセルジュがお願いしたからだ。


 尚、イーヴはすぐにOKを出していた。

 「俺も、他人事じゃないんで。しばらくしたら、今やっている授業に出ていない年齢の子向けの授業を頼めないかとお嬢に言われていてね。考えておかなきゃと思っていたところだ。」

 という事情があったため、自分のためにもなると考えていたようだ。


 イーヴにセシルが持ちかけた授業とは、授業に行くための前段階、興味だったり、指の動かし方だったりを練習する、初めての試みである。人選はセシルが、「イーヴは小さい子に親しまれそう。」という理由からだった。セシルにとってイーヴとは近所の面倒見がいい兄ちゃんというイメージなのだ。


 「にしても、坊もお嬢も厳しいな。その様子じゃ、かなりキツいこと言われたんだろ?」


 イーヴは二人に尋ねたが、二人は首を横に振った。


 「いつもの雰囲気でなかったから怖かったのだが、後から振り返ってみると、言っていることはむしろ優しいような気がしていて......。」


 「私も...お嬢さまは答えは教えてはくれなかったけれど、どうして違うのかを教えてくれたし、ノエル様はこのノートの存在を教えてくれた。失敗については一度も咎められなかった。」


 「え??失敗したと謝ったと聞いたが、何も咎めがなかったのか?」


 「えぇ。失敗したと言っても、それで?と返されてしまい、更には失敗することくらい分かっていたと。」


 「お嬢は失敗すると分かっててGOサイン出したのか?意味が分からねぇ。」


 「私たちが失敗した原因と対策もいくつか浮かんでいるとおっしゃっていたし......。ただ、ノエル様にそれは努力じゃないと言われたときが一番ショックだった。でも、ノエル様も失敗を咎めたりしなかったし、正しい努力をしろ、と言われた。」


 「正しい努力...か。」


 「我々はその答えを探さねばならない。このノートの中からヒントを得て、頭をつかうのだ。お嬢さまは何度も頭を使えとおっしゃっていた。これを達成せねば。」


 「なるほどな......。失敗ではなく、次への反省で指摘を受けたのか......。俺もそうなるんだろうな。」


 「しかし...」


 「エマ?どうしたんだ?」


 「いや、私は途中でどこまで読んだのか分からなくなってしまって失敗したから、このノートのどこかに私たちの言うことや何をするかなどを書いたページを探して参考にしようと思ったのだけど、なかなか見つからなくて。覚えているのかな、とも思ったんだけど、暗記するのは非現実的と一刀両断にされたから、何かしら答えがあるはずなんだけど。」


 エマはイーヴに自分たちが書いたノートのページを見せた。


 「あ゛~ぁ。これじゃ、どこまで読んだか分からなくなるのも仕方ねぇな。」


 「でしょ?」


 「セルジュの爺さんの問題のこっちを見て話すも無理だろうな。これじゃ、一度目を離したら、分からなくなるに決まってる。」


 「だから、どうしようかって。覚えようにも、それは対策として違うと、休息日ごとに毎回授業するようになったらもう手が回らないと。」


 「なら、別に覚える必要ねぇじゃん。」


 「へ?」


 「小さいから見にくいんだろ?見にくいなら見やすく書き直せばいいじゃねぇか。」


 「見やすく?」


 「お嬢がどうやっているのかは知らねぇが、少なくともお嬢のノートにそんな詰めて書かれたページはない。1行書いたら大体1行くらい開けている。それに加えて、絵とか色々書いてあるし、色でも書いてある。ルールとかはじっくり読んでいないから分からないけど、文章で書いてない。」


 「そっか......。見てるものが見にくいから間違えるんだ。じゃぁ、実はこれも私たちと同じように授業の内容を書いてあるのかもしれない。」


 エマとイーヴはその確認を始めた。


 対して、セルジュはある記述を見つけていた。


 「これは...?」


 それはセシルが授業を始める前に、講堂を確認した時の記述だった。

 放送のカメラを確認しながら、どこからどこまでがカメラに映るのか、どのくらいの大きさの字だったら見やすいのか。なんの色のチョークが一番目立つのか、どこまで近づければ教科書のページを映せるのか。他にも、どこに目線を合わせればカメラ目線に見えるのか、など詳しく書かれていた。立体的な図などはセルジュには理解しずらかったが、セルジュが目を止めたのはある一節だ。


 <授業を受けている人たち、受講者に目線を合わせるためには反対側の壁を見るようにするといい。該当箇所には印をつけておいた。メモを貼るときはここに貼るようにする。> (セシルの授業ノートより)


 セルジュはコレだと思った。


 (自分が授業をするとなったときにコレだけの配慮をしただろうか。実は黒板の私が書いたところは映らなかったのではないだろうか。お嬢さまやノエルさまが黒板の端を使わなかったのはそういうことだったのか......。それにしても、メモをここに貼る?そうか、覚えなくても、台本をあの位置におけば、私は前を向いて話せるのか。)


 セシルのメモを貼る場所についての記述は、自分がカンペが欲しくなったときに置く位置はここだと忘れぬようにしておくためのものだったが、思いもよらず、セルジュを助けたのだった。当然、エマとセルジュに対する解決策の一つとしてもセシルは思い浮かべてはいた。蛇足だが、セシルは最初から最後までカンペを使うなら誰かをおいて紙芝居形式にしたほうがいいと思っている。


 セルジュは授業会場である講堂へ向かった。


 一方のエマとイーヴはなんとなく規則を見つけ始めていた。


 ノートの中で、授業決定版という見出しが書かれたページが一定ごとに現れており、それが恐らくは授業で使っている台本のようなものであろう、と。そして、それらのページには2本縦に線が書かれていて、一番左には基本的に名前が書いてあり、真ん中は雑多に書かれていて、右には後悔のようなことや反省らしきものが書かれていた。


 「イーヴ、<板書をする>とか<道具を見せる>とかあるから、<>は行動だと思うし、()の中は必ず時間が書かれていたからわかるんだけど、肝心の何言うかってところがないのよね。」


 「確かに。でも、俺が思うに、案外ないんじゃないか?」


 「ないって覚えてる訳じゃないって。」


 「いや、そうじゃなくて。そもそもが言葉を準備していないんじゃないか?」


 「即興で言っているってこと?」


 「たぶん。俺が授業を受けていて違和感を感じたのがたぶんソレだと思う。こっちを見てなかったのもそうだけど、お嬢や坊はもっと自然だった。で、対して、エマたちは読んでいるって感じがしたんだ。お嬢や坊も国語で読むというときは似たような感じだったが、それ以外のときは読んでるって感じじゃないんだと思う。それは、例え、暗記していても、自然にならんと俺は思う。」


 「そっか、自然じゃなかったか。でも、即興だなんて、私たちにできる芸当じゃない。次の授業まで時間はないのに。」


 「でも、コレを見る限りじゃ、完全なアドリブじゃないだろうしな。完全な即興ならこれもいらないと俺は思う。」


 「確かに。この短い文が言うことを示しているのかしら?『ナンプレのルールについて説明する』って書いてあって、下に番号と内容が短く書いてあるんだけど。」


 「やっぱそれだよなー。でも、ここから文章で喋っていくのか。」


 「必要なことの中心となる部分だけ書いておいて、それ以外は書かないでおく。その言いたいことをその場で言葉にする。この少なく書くってところが難しいわね。どこまで書こうか。それに、事前に考えていたことと違う言い方になって大丈夫なのかしら?」


 「それは問題ないでしょ。誰もこのノートなんて知らないし。何より、『ノートに絵を描いていいですか?』と聞くか『落書きをノートにしていいですか?』と聞くかなんてどちらでも構わないと思う。」


 「なるほどね。あとは、黒板の内容は決めてあるのね。」


 「意外となんとなくで書いていると思っていたから、それは驚いた。あとは、その右側か...。」


 「左側は誰が何をするかの分担だと思うのだけど...それと一緒に謎のマークが書いてある。でも、取り敢えずは右側ね。後悔しているみたいな文、あとは、時間が変わったとか、この部分は次回へとか書いてある。」


 「コレって、反省みたいなものなんだろうな。だが、時間の変更ってことは、コレは授業中に書いていると言うことじゃないか?もう一度説明が必要かと思って行った、とか、何度も書き直されているし。」


 「授業中に授業内容を変更していると言うことだよね?」


 彼らは更なるブラックホールへと吸い込まれていく。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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