見合いだったのか!?
セシリア・フォン・エマール、エマール伯爵家の令嬢は、ノエル・フォン・エマール、同じくエマール伯爵家の子息とともに、庭でボールを投げて遊んでいる。
今回のテーマはフィボナッチ数列だ。ご存知の人も多いだろうが、美しい数列ともいわれ、意外と自然界でも見られる数列だ。ちなみに美しさの所以は黄金比に近づいていくからだが、それはまた別として、この数列は前二つの数字の和を答えていく。以下の例は十進数である。
1 1 2 3 5 8 13 21 34 56 90...
七瀬時代(前世/転生前)も友達と遊んだものだ。
ご兄弟としてトリボナッチ数列があるらしいが、流石に面倒なので割愛させていただく。便利なインターネットが充実している前世のような社会の方であれば、是非、ぐるぐる(G●gl●)で検索してほしい。
トリケラトプスのツノは3本、トリオは3人組、トリプレットはアミノ酸を指定する3個のヌクレオチドの組、とくれば、大体予想できる方もいるとは思うが。
なぜ、絶対インドアな私たちが外で遊んでいるかというと、これからアズナヴール家の公爵と子息が訪問するらしいからだ。お出迎えのために外へ出ていなさい、と言われて、渋々、外に出て、妥協案としてキャッチボールをしながら暗算をして数列を唱え続けている。まぁ、大丈夫。馬車かなんかが見えたらやめるよ。そしたら、何事もなかったかのようにビシッと気をつけをして待っているから。
そんなことを思っていたこともありました。
暗算に夢中になっている人間が気づくはずがなかった!!ボールがなくても、相手の計算の先を行き、さらに自分の計算を用意して待っているのだから、余裕なはずがなかった。
気づいたら、金髪の見目麗しゅう子息がそこに立っているではありませんか。バリバリの高位貴族オーラを纏った彼は見覚えがなく、「あっ、この人が今日の客人だわ。」と認識するのにさして時間はかからなかった。おそらく、存在を認識するまでには、かなりの時間がかかったと思われる。
ノエルも、(シマッタ!!)って感じの顔をしていたから、恐らくは共犯だ。
「えぇっと?初めまして?セシリアと言いますが?いや、こっちが、弟のノエルで...えっと...ちょっと待ってください。作戦を立てます。」
私は見切り発車で自己紹介を始めた自分を殴りたくなった。
金髪の彼は私たちの方をじっと見ながら、何かを考えている模様。
すぐに、ノエルに近づき、聞こえない程度の声で相談した。
「私、なんかやっちゃったかな?勝手に話しかけるのってNGだったりした?というか貴族のマナーみたいな本読んだことある?」
「ごめん姉さん、その範囲の本は読んでなかった。あとで確認しておこうか。でも、彼は怒っていないと思うんだ?」
「なんで?」
「いや、なんでっていうか、見ればわかるというか......。」
ノエルはよく分からない。男同士のテレパシー?みたいなのかもしれない。
はっ。そういえば、いつもと同じだから気にしていなかったけど、短い前髪に少量の髪を一つに束ね、サイズを調整された男ものの服を着ている。もしかして、そういうこと?女の子だと思ってなくてびっくりしちゃったみたいな?
「申し遅れました。私はレオン・フォン・アズナヴール、アズナヴール公爵家の嫡男です。報告書などを読んだ時から、そのつもりではありましたが、今の様子を見て、ハッキリと決めました。あぁ、そちらの回答は急ぎません。でも、まずは言っておこうと思って。」
レオン・フォン・アズナヴールと名乗った金髪の少年は、私に近づいてきて、片膝をついた。
え!?
ナゼ?何故?片膝をついた?そこの御令息。
私の手を恭しく取って、こう言った。
「セシリア・フォン・エマール様、私と婚約してくださいませんか?」
「え!?」
あまりの驚きに口から言葉が飛び出してしまった。
動くな私の口!!
「え?」
何故か少年の方も驚いたようで、目を見開いていたが、すぐに元の表情に戻った。
私は助けを求めるようにノエルの方を向いたが、ノエルは驚いておらず、ただ、じっと見ていた。助けてくれる様子はないようで、じっと見られると余計に心に悪い。
「エマール嬢?」
少し手に力を入れられ、余所見をしているのを咎められるように声をかけられた。
何とか少年の方を見ると、ふわっと笑って、指先に口付けた。
え??
指先にキスされた?
社交界的にはノーマル??
分からん。
分からんけど、
さすがにキャパオーバーだ。
そこで私の意識は途切れた。
その後、どうなったかは知らないが、気づいたらベットの上にいた。
「姉さん?大丈夫?」
「エマール嬢?」
目を覚ましたら美少年二人が至近距離で覗き込んでるこの状況、ノエルは慣れてきてはいたけれど、それでも寝起きにこれは威力半端ないですって。
「おはよ?」
何とか挨拶を絞り出すと、美少年コンビは溜息をついて、両隣の椅子に座った。両手に花とはこのことだろうか。
「姉さん、急に失神しちゃうから驚いたよ。ちゃんと覚えてる?」
ちゃんと?
何があったかを思い出す......。
自分の口からそれを言って、勘違いだったらどうしよ、めっちゃ恥ずかしくて痛い人じゃん。
「......私の勘違いでなければ、なんだけど...、いや、9割って言ってもだめか、えっと......ほとんど勘違いだと思うのだけど......その御子息殿?が私に婚約を申し込んでいた気がする.....いや、きっと勘違いだ。すまない、変なこと言って。」
「勘違いじゃないよ?私は君に婚約を申し込んだのだから。」
御子息殿が私の手を握ってなんか言ってる。
へ??
「なんで?アズナヴール公爵家が訪問するだけなのに何で?会った瞬間に婚約?を申し込まれたの?いや、やっぱり夢か。」
私は布団に再び潜ろうとしたが、御子息殿は手を離してくれない。
「いやいや、夢じゃ困るって。今日はお見合いみたいなものだから、婚約を申し込んでも驚かないと思っていたけれど。ここまで驚かれるとはちょっと傷つくな。」
「まだ断ってもいないのに、驚くだけで傷つくというのはよく分かりませんが、お見合いというのは初耳ですよ?」
分からないことをストレートに聞いてみた。
「まだ、というのがまた傷つくが、お見合いというのは確かに伝えたと父、公爵が言っていた。」
え??それがガセでは??というか、全てが夢だったら解決じゃない?
「えぇ、父から聞いていますよ。ただ、その時、姉さん、いや姉は精神的に危うい状況で、恐らくは耳に入っていないだろうとは思っていました。ほら、父さんが王都から帰ってきて、報告書の要請が来て、嘘だーって叫んでたときだよ。」
あぁ。確かに、そんなこともあったような。なかったような。
「でも、だったら、何でそのとき教えてくれなかったの?」
ノエルはわかってたってことだよね?
「あの時は、姉さん、過労で壊れかけていたでしょ?だから、これ以上心労をかけることを言えなくて。そして、そのうちに忘れちゃった。今日、婚約という言葉を聞いて思い出したんだよ。」
ノエルもうっかり忘れちゃうことなんてあるんだ。
そりゃ人間だけど。
ちょっとホッコリしたけど、難題は片付いていなかった。
私は聞いていなかったんだ。
まさか今日が見合いだなんて。