前世の格好が恋しくて
こんにちは。七瀬ことセシルです。
最近やっと名前に慣れてきた気がしますが、お嬢様と呼ばれて振り返るのが恥ずかしいこの頃。
もうすぐ2歳の誕生日がやってきます。誕生日会?の準備してるので。
食事は離乳食からちょっとずつご飯に変わっていっている最中で、お米はないけど、とても美味しい。
トイレはある程度、意思表示ができるようになってからは、自発的にアピールして普通にトイレに行けます。
最初の頃、赤ちゃんとはいえおしめ変えてもらうの恥ずかしいからね。まぁ、仕方ないけど。
いくら中身がはっきりしていても、トイレの予兆はつかみにくくて、何度かダメだったけど、掴みにくいことを理解して、定期的に行きたくなくても連れていってもらうようにした。勿論、オムツ期にね。もう、ほぼ確実に予兆は掴めるようになったし、特別意識しなくても大丈夫かな。
文字の練習もしている。日本語でいう、ひらがな・カタカナのような表音文字で、英語のように"a"をappleとairportで発音違いますなんてひっかけもない。なんて幸せ。文字数は多いけど、頑張れます!どっちかというと発音記号なんだろうね。数字の練習もしていますよぉ。まだ、異世界数には慣れないけど、まだ数字を書くって段階だからね。1~7まで分かればいいの。
紙もペンもちゃんとあるけど、ペンはインクつける式だから大変なので、黒板みたいなのを与えられて書いては消して、書いては消してしてるよ。紙も黒板もどきも黄金比っぽい長方形だった。よかった〜!実は紙が七角形だったら終わりだなって思ってたんだよね。時計は円それに変わりはないけど、時計の文字が1~7だったのは引いたわ。きっと一時間49(10)分だよ。
異世界数は夜寝る前に慣れる練習しようと思ったけど、さすがは幼児。寝つきが無駄に良くて、疲れて寝てしまう。夜泣きなんてする子じゃないから、迷惑もかけてないはず!それはさておき、早起きさんな健康な幼児は朝起きたら布団の中で1~14の変換と計算をひたすらに繰り返した。うまくいかないので、布団に指で書きながら。
7(10)=7(**)=10(7)
8(10)=11(**)
9(10)=12(**)
10(10)=13(**)
11(10)=14(**)
12(10)=15(**)
13(10)=16(**)
14(10)=17(**)=20(7)
やっぱ遅いや。
注意すべきは7の倍数だね。七進数とも違うから。確認しておこう。
7(10)=7(**)
14(10)=17(**)
21(10)=27(**)
28(10)=37(**)
35(10)=47(**)
42(10)=57(**)
49(10)=67(**)=100(7)
56(10)=77(**)
63(10)=117(**)
70(10)=127(**)
あれ?
49の平方根は±7。
つまり、49は7の二乗なんだけど、67(**)??
49(10)=100(7)なんだが?
いやでも、
67(**) = 1x7 + 7x6 (10) = 49(10)
間違ってない、よね?
クッッッッソ!!!!
間違ってないなら尚更だよね?
計算してないからわからないけど4桁目、つまり7の3乗の時大惨事だよ。
あぁ、やめたやめた。
紙とペンが扱えるようになったらにしよ。
あとは計算。
七進数のまま計算するのが速いか、変換したほうが速いかって問題。
答えが7までのは問題ない。瞬殺。
さて、問題です。
4(**)+4(**)=?(**)
これを見た瞬間8(10)が浮かんでしまう。
ならば、下手にそのまま計算せずに、
8(10)=11(**)かな?
第二問!
11(**)+15(**)=?(**)
これも瞬殺で26なんだが、よく見て欲しい。
11(10)+15(10)=26(10)ならば正解だ。
しかし、11(**)=8(10)
15(**)=12(10)だ。
つまり、11(**)+15(**)=8(10)+12(10)だ。
そう、答えは20(10)。
そして、これを変換して、20(10)=26(**)となる。
一度、瞬殺で出した答えを書けないのがなんとも辛い。
どうやったってめっちゃ時間かかるじゃん。
暗記だ。暗記。
こんな感じで、毎日苦労しながら数字を扱っていますが、
"まだ2歳なんだ!焦らなくてもいい!"
と思って気長にコツコツ。
そんなこと言ってる間に大人にならないように、意外と必死でがんばってます。
泣きたい。
話は変わって一緒に暮らしている人たち。
両親は、お母さま・お父さまと呼んでいます。お母さまは妊娠中だから、弟か妹ができるんじゃないかなと楽しみにしてます。祖父母はどちらも健在で、あの雰囲気からは隠居していると思われます。お母さまはクラリス・フォン・エマール、お父さまはパトリス・フォン・エマール、らしい。多分貴族。平民と貴族みたいな対比使ってたと思うから。あれは多分貴族って意味よ。爵位は、私の知ってるものだと、王族を除いて高い順に、公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵・騎士爵ってところかな。多分だけど、うち伯爵かな。前に名前を教わるときに見せてもらったのにはそう書いてあった、と思う。
他に一緒にいる人たち。
執事さんはセルジュ。
陽気な庭師の兄ちゃんはイーヴ。
侍女のお姉ちゃんはエマ。
他にもいっぱいいるけど、よく話すのはこの三人。
年上を呼び捨てにするのは憚られたけど、そう呼ぶようにと教わったからそう呼んでる。
最近は文字を教えてくれる。覚えてるとは思っていないらしいけど。
アットホームな感じね。此処、私の家だけど。
両親は慕われてるみたいだけど、恐れられていないし、みんな楽しそう。
周りの人にも恵まれて、幸せで順調な生活を送っている。
不満があるとするならば、服と髪の毛だ。
この世界?国?では、中世ヨーロッパよろしく、女性はドレス、男性は軍服っぽいなにかを着るのが慣わし。ドレスの露出は少ないのだが、公式だけでなく普段着まで簡易とはいえドレスとなると、流石にキツイ。
さらに女性は長髪おろしっぱなし、男性は短髪で髪を結ぶ文化がないとは。侍女さんですら結んでなかったからね?カチューシャに肩までか肩下くらいの髪とはいえ、仕事する以上、結ばないと邪魔じゃないのか?
前世、ショートヘア+ボーイッシュコーデだったスカートと無縁な私からしたらきつい。
とはいえ、勝手に髪を切ったら保護監督の仲のいい(と一方的に思っている)彼らに何かないか心配だし、自分が変な目で見られるなら放置でいいんだけど、貴族である以上家への攻撃は防がないとだし。何より、まだ2歳の薄い髪ではかっこいいショートになるか微妙だし。
私は考えた。
考えに考えた末に思いついた。
これならば、怒られないし、家名に傷をつけないし、何より幼児の暴走でコトが済むだろう。
そして、ある休日実行に移した。
「お父さま。わたし、お父さまと同じ服が着たいの。」
父親とは基本的に娘に弱いと聞いたことがある。
険悪な仲なら話は別だが、お父さまは優しいし、可愛がられてる自覚あるし、ハグとかしてくるところから、下手に隠して威厳を保とうとするタイプではないと推測していた。
「セシル?なんで私の服を着たいの?」
お父さまは驚いたようだったが、否定せずに質問してくれた。
これは好感触!
本来、これは以上なことだから、何も聞かずに否定されて然るべきなのに。
「お父さまみたいになりたいから!あとね、動きやすそうだから!」
自分が好かれていると知った父親はたまらないだろうという打算が一つ、まぁ、好きだけどね。中身年齢的に恥ずかしいのよ。
そして、もう一つは素直な理由だ。だってズボンの方が動きやすいじゃん?
「そうか、そうか。お父さまみたいになりたいか。しかし、私の服では大きすぎるな。セルジュ、私の古くなってきていた服を仕立て直すように手配しろ。サイズはセシルだ。少しはダボっとしてもいい。」
よし!
勝ったぞ!大金星だ。
まさか、仕立て直しまでしてくれるとは。
嬉しいなぁ。
とりあえずお父さまに抱きついておこう。
「パトリスはセシルに甘いわね。そんなところも素敵。対して、セシルはとても強かな子みたいだわ。さすが私たちの娘ね。」
お母さまは何かに気づいていそうで怖いけれど、止める気もないみたいだし、いいや。
こういうときって女の人は怖いよね。いや、ステレオタイプか?でも、同性にしか分からない何かって存在すると思うのね。
髪は結ぶことに決めた。
これなら邪魔じゃないし、公式の場ではちゃんと長いままおろせるしね。
まだ量が足りないし、指の器用さが足りないけど、なんとか頑張ろう。
家の中を探検しながら紐を探して結ぶ。
あれ?緩い?
もう一回。
駄目だわ。
これも毎日練習ね。
それから幾日かすぎて、私は髪を結べるようになった!
肩下くらいのうっすい髪をなんとかひとつにした。
ちょっと落ちてくるけどマシにはなったかな。
ぐちゃぐちゃだけど。
って、あれ?
2歳前にこれできるって変態的な器用さなのでは?
小学校入る前くらいにめっちゃ苦労した記憶あるんだけど。
でも、大変だった。
一晩中ずっとやってたのだ。
昼間は爆睡してたが叱られることもなく、夜は一人部屋で騒がなかったから叱られることもなく。
ありえないくらいの努力をしたし、汚いからイーブンかな。
髪が結べるようになった日そのまま侍女のエマにあった。
「おはようございます、お嬢さま。あら!?」
早速気づいたようだ。
「そのひもは絡まっちゃったのですか?」
違う!
私は首を横に振ってなんとか伝えようとした。
「髪、一個にしたい。」
滑舌は悪いからなんとかアピールした。
この世界にはおそらく、髪をゆうという概念がない。
「髪の毛をひとつにする?……その紐で束にするということ…?」
それだよ!それ!!
首を縦にふった。
「なるほど!考えたこともなかったけど、面白そう。お嬢さま、さすがにそれだとぐちゃぐちゃなので、私がやってもいいですか?」
「うん!」
願ってもない。天才か?
それにしても、お父さまにエマ、柔軟すぎやしません?
大歓迎です!
エマは考えながら髪をひとつに束ねてくれました。
前から確認して、触覚と呼ばれるサイドの髪をつくった時は、どんだけ前衛的なのかと思った。
「可愛いですね!私も今度真似していいですか?」
「うん!」
「ふふっ。可愛い束ね方考えておきますね。では朝食ですよ。」
彼女、ファッションリーダーになるかも。
私はファッションに頓着しなかったからな。
いつか、ショートも流行らせてくれないかな。
朝食の時間、お父さまとお母さまはもう席についていた。
「あら、セシル。髪の毛どうしたの?とても可愛いわよ!」
照れますなぁ。
でも、どう答えたら…?
「クラリスさま。お嬢さまが紐で髪を束にしようとしていたので、私がお手伝いしてこの髪型になったんです。とても可愛らしくて。真似してもいいとおっしゃられたので今度研究してお嬢さまに施そうと思っております。」
代わりにエマが答えてくれた。
可愛らしいは、似合ってるってことかな?
お世辞なのか、髪型に対する称賛なのかわからないけど、あまり褒めないで欲しい。照れる。嬉しいけどね。
「あらあら、いいじゃない!そのときは私にも教えてね。」
「もちろんです。」
にこやかで、ふんわりしていて、なにより!
そして、ただ下ろしているだけの髪型以外も増えてほしい。
「そうだ!セシル、服ができたそうだぞ。」
これまた朗報だ。
良いことは重なるんだな。
朝食の後着せてくれるそうだ。
楽しみだな。
ワクワクしながらの朝食はあっという間だった。
そして待望のズボンだ。
丈が短くなってて、足も手もちゃんとでる。
ダボっとしているけど、ズボンの裾はちょっと細くなっていて、走っても問題ない。
完璧だ。
これがプロの仕事?
喜んでくるくる回っているところを両親は見ていた模様。
ちょっと恥ずかし。
でも、これ一着なのはな。
もっと恒常的に着れるようにするにはどうおねだりしようか。
と考えながら、また何日か過ぎた頃、たくさんの、今度は新品の服が届いた。
デザインは大人が着ているようなもの。それらをちっちゃくした感じ。
ぴったりサイズよりちょっと大きめに作られている。
なんでかな?
次の作戦を考えずに済んだのはよかった。
これで快適に過ごせるぞ!
<エマール伯爵家>
パトリス・フォン・エマール
クラリス・フォン・エマール
セシリア・フォン・エマール
執事:セルジュ
陽気な庭師の兄ちゃん:イーヴ
侍女のお姉ちゃん:エマ